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「インスタジェニック」の意味と「インスタ映え」の今後

ヨダエリ(コラムニスト)

今や人々の生活の一部になりつつあるSNS。中でも若い女性を中心に利用者が急増しているのが写真に特化したSNSである『インスタグラム』です。

そんな女性たちが重視する概念「インスタジェニック」。今回は、この言葉が持つ意味や、生まれた背景、今後の行方などについて考察したいと思います。

インスタジェニックとは

インスタグラムで頻繁に写真を投稿する人の多くは、その写真がインスタジェニックであることを重視しています。インスタジェニックになっているかを考えながら撮影し、そのために出かける場所や買う物を選んだりもします。

では、そもそもインスタジェニックとは何なのでしょう?

インスタジェニックの意味

インスタジェニックとは、インスタグラムとフォトジェニック(写真映りがよい、の意味)を組み合わせた造語です。

転じて、インスタジェニックは「インスタ写りのよい、インスタ映えする」という意味を持ちます。

インスタジェニックな写真の特徴としては、カラフルでビビッドな色合い、大胆な構図、スタイリッシュな被写体、などが挙げられます。これらを重視して、多くのインスタグラマーがおしゃれなカフェで写真を撮ったり、その色味や質感を調整したりします。

インスタジェニックという価値観が生まれた背景

物理的な側面から言うと、この価値観が生まれた背景にはインスタグラム独特の仕様が関係していると思います。

まず、写真に特化したSNSであるため、ビジュアルで自分を表現したい人や、ビジュアルを媒介にして他者と繋がりたい人が集まりやすい。

また、スマートフォンから利用する人が大半なので、小さな画面で見ても埋もれない写真が注目されやすい(特に、投稿写真一覧として小さな正方形のサムネイルが並んだときの見栄えのよさが大切)。

これらの要素が絡まり、小さくてもパッと目につく美しい写真を載せる人が称賛されるようになった、という流れがあると思います。

写真で自分を表現する人は、必然的にビジュアルにこめる熱量が高め。その審美眼は服や持ち物、インテリアなどに及ぶケースも多く、見る側は写真を通じてその人のライフスタイルも想像します。

暮らし方も含めて憧れてしまうような、美の概念。それを言い表すために、インスタ映えやインスタジェニックという新しい言葉が生まれたのではないでしょうか。

インスタジェニックの今後

そんな新しい概念を生んだインスタグラム。全世界のアクティブユーザー数は、2018年6月に10億人を突破。日本国内のユーザー数も、2015年は810万人だったのが、2017年には2000万人にまで増加。高い伸び率を示しています。

この背景には何があるのでしょう? そしてインスタジェニックという価値観は今後も続くのでしょうか?

インスタ映えに翻弄される若者

インスタジェニックを重視する若者が増えている理由。それは、インスタグラムが「美にまつわる承認欲求」を手っ取り早く満たせる場所だからだと思います。

人には、他者から認められたいと願う承認欲求があります。

そこには、自分自身のかわいさや美しさを認めてほしい、という欲求も含まれます。それを満たすべくがんばり出すのは、多くの場合、10代や20代でしょう(もちろん個人差はあります)。

そのタイミングでインスタグラムに出会ったら、ハマるのは自明の理です。

アプリで盛った自撮りやカラフルなスイーツで自分なりの「かわいい」を表現。それを見た人が「いいね」をくれる。やった! と気持ちが上がるのは当然です。自分の「かわいい」を認めてもらえたのですから。

かわいい世界の住人、美しい世界の住人として認められたような気分を味わえる。インスタグラムで注目されることには、そういう魔力があるのかもしれません。
おしゃれなカフェでお茶をする自分、ネイルを変えた自分、新しい服を着こなす自分。リアルでほめてもらうには、友人を誘って約束をして会う、という複数のステップが必要。でもインスタグラムなら、それを簡略化でき、しかも1枚の写真で多くの人にほめてもらえます。

食べたいから食べる、ではなく、インスタにあげたいから食べる、といったインスタジェニック至上主義な人がいるのも、その人にとって食欲より承認欲求を満たすことの方が重要だからでしょう。

インスタジェニック至上主義の行く末

見た目至上主義とも言える、インスタ至上主義の若者たち。

今後、彼らはどうなっていくのか? 年を重ねると落ち着くのか、それとも過激化していくのか? 恋愛や結婚にも影響するのか? ……お題を振っていただいたので、考えてみました。

結論から言うと、当分は増え続けると思います。なぜなら、人は特定の欲求を満たす最も効率的な方法を知ってしまったら、なかなかそこから抜け出せないからです。

自分自身を振り返っても、またまわりを見ても思いますが、SNSを去るときやSNSとの付き合い方が変わるのは、別の魅力的なSNSをみつけたときか、結婚・病気・家族の死・出産など人生の節目となる出来事が起きたときです。インスタ至上主義が恋愛や結婚に影響するというより、恋愛や結婚がインスタ至上主義に影響を与えるように思います。

インスタにハマりすぎて恋愛や結婚ができなくなるということはないでしょう。なぜなら、自撮りを含め、魅力的な写真は異性を引きつける強力なツールになり得るから。

もちろん、「俺もパンケーキ好き! 今度◯◯に食べに行かない?」と誘われたのに、その店インスタ映えしないし……という理由で断ってしまったら、恋愛ははじまるはずもありません。

ただ、これはインスタ至上主義が問題なのではなく、誘ってくれる相手がいるありがたさや、人が不特定多数の異性に魅力を発揮できる時期の貴重さに気付いていないからでしょう。そこに気付いた上で、自分はインスタ最優先の毎日を送るんだ! と思えるなら、それはそれでひとつの選択。実際、インスタジェニックを極めた結果、仕事に繋げている人たちもいますよね。

楽しむために使えば自分もまわりも幸せに

自分が目指す人生と、それを得るために今しておくべきことを意識した上でインスタを楽しんでいて、かつ他人に迷惑をかけていないなら、どんな使い方もまちがいではないと思います。

筆者は、2004年にorkutでSNSを初体験して以来、mixi、glee、Facebook、Twitter、そしてインスタグラムとさまざまなSNSを利用してきました。

なので、若いときに出会ったSNSに猛烈にハマっていく感覚は分かります。SNSにとらわれすぎると心身が不安定になることも経験から知っています。リアルを楽しむためにSNSも活用する、くらいのスタンスが、自分もまわりも幸せになりやすいバランスかもしれません。

同じ「好き」を共有できる人や、ハッとする物や考え方など、日常では得られない出会いがSNSにはあります。インスタは、写真を通じてそれを得られる場所。ビジュアルへの感応力が高く、小さな空間に自分の世界を構築するのが得意(漫画しかり、ラーメンしかり)な日本人に合っていると思います。

インスタジェニック至上主義同士の男女が付き合うのもアリでしょう。とはいえ、恋人と大っぴらに仲良くしていたら批判をされる羽目になった剛力彩芽の例を考えると、恋愛をしていてもインスタではひとりで美を表現するのが日本人の好むインスタジェニックなのかもしれません。

(文:ヨダエリ)

※画像はイメージです

※この記事は2018年10月02日に公開されたものです

ヨダエリ(コラムニスト) (コラムニスト)

コラムニスト/恋愛アナリスト。慶應義塾大学文学部卒業後、PR会社勤務を経てフリーに。思春期はドイツ在住。メトロセクシャルについて分析したコラムが『AERA』『anan』など多数の媒体で話題になると同時に、携帯サイトで連載していた恋愛相談コラムが口コミで人気に。現在は新聞・雑誌・ウェブでライフスタイルやトレンド、男女の心理にまつわる記事を執筆するかたわら、エキサイトお悩み相談室で電話相談も実施。著書に「その恋、今のままではもったいない!」(情報センター出版局)「今度こそ『信じられる人』と恋愛する本」(すばる舎)など。

●ブログ「cafe dayorin」
https://ameblo.jp/dayorin/

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