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私たちは「大島美幸」になれなくてもいい

マイナビウーマン編集部

食べたいものを聞かれても、特にない。やりたいことを聞かれたって、特にない。

「男性が好きそうな女性像」を追ううちに、いつしか自分がなくなった。だって、そのほうが愛されるはずでしょ? だけど、私と話すときの男性たちはなんだか退屈そう。

で、物事を0か100かで判断してしまう安易な私は、イッテQを見ながら思いつく。それなら、森三中の大島さんみたいなおもしろい女性になればいい。これが前回までの話だ。そして、はるばる彼女の夫・鈴木おさむさんに会いに行って気づいたのは、それもどうやらナンセンスだということ。

無理してハモらせても、愛されないってマジ?

THEおもしろい女性と結婚した鈴木さんは言う。「大島の『おもしろいものを作る』っていう背骨に惹かれた」と。ここで切り取るべきは“おもしろいものを作る”ことではなく、“背骨”の部分だ。私はずっとその本質を勘違いしていた。

「彼女と暮らしてみて思ったのは、自分が大事にしている価値観を相手も同じように大事にしているのって、すごく楽だということ。たとえばの話、ビートルズがすっごい好きな人がいたとしたら、同じようにビートルズがすっごい好きな人を選んだほうがいい。すんごい綺麗なものに惹かれるなら、綺麗なものが好きな同士で一緒にいればいい。それが本当に人生の背骨だったら、ですけどね」

いまの私は、鈴木さんの言う「背骨」の部分が薄っぺらい。ふにゃふにゃだ。好きな人が受け入れてくれそうな価値観をどうにか探ってハモらせて、あたかも「これが私の背骨です」なんて顔をしている。本当の自分は、好きなこともやりたいこともちがうはずなのに。

恋愛相談みたいな感覚で本心を話せば、「そんなのバレますよ」と一蹴された。しかもとびきりの笑顔で。

「合わせようとしてくれる姿勢はうれしいけど、本当に愛されるかっていうと多分愛されない。結果どこかでメッキははがれるものだから。だって、合わせるのは窮屈でしょ? 女性が窮屈に感じる瞬間は男性にも透けて見えてしまうから、お互い辛いでしょうね」

正しいと信じてきた努力や我慢は、どうやら正解じゃないらしい。あからさまに落胆した私を見兼ねてか、鈴木さんはすかさずフォローを入れる。

「いや、そこはね? 話し合うことがけっこう大事なんですよ。きっと多くの男性は、相手の本心を聞いても面倒だなんて思わない。むしろ本音で話し合って共通点を見つけるのが楽しかったりする。僕は大島と結婚してそれに気づいたんです」

そして、こんなエピソードを話してくれた。

「女性とのデートといえば、映画や舞台を観に行くのが僕のお決まり。結婚してしばらくは、大島と一緒に映画を観に行くことも何回かありました。でも、あるとき彼女に『映画が好きじゃないから、ひとりで行って』と言われたんです。『一緒にいられる大切な時間を、そうやって映画でなんとなく埋めようとするのはやめない?』って」

過去を振り返る鈴木さんが「はっきり言ってくれたのは、すごいよかったなあ」なんて、うれしそうに呟く。嫌われるのが怖くて、好きな人の前で本音を隠してきた私はなんだったのか。

「逆に、僕ひとりで映画を観に行くのは彼女に悪いかなと気を遣っていたんです。だから、本心を言われて超楽になりましたね。映画を観ることって、僕のなかでは所詮趣味。それがいちばん大事な背骨の部分だったら、多分一緒にはいられなかっただろうけど」

本当の相手は、自分のことを自分より知っている

「ズボンがほしいと思っていたらね、大島がクリスマスプレゼントに作ってくれたことがあったんです。手縫いだったから、財布を入れたらすぐにポケットが取れたんですが(笑)」

さっきまで核心をつくように鋭い会話をしていた鈴木さんが、突然ノロケ話をはじめる。ちょっと待って、展開が。だけど彼のアウトプットは止まらない。

「で、僕はデパートへ連れて行って『お返しに好きなものを買っていいよ』と言ったんです。そうしたら、大島は『いらない』って断るんですよ。そのときの僕は『いらないならいいや』なんて、受け流してしまったんですけど」

大切なことをまたひとつ、鈴木さんはその口から教えてくれた。

「数カ月後、忘れたころに『あのとき実は悲しかった』と彼女から言われました。『プレゼントは相手のことを考えて選んでいる瞬間が大事。その瞬間を拒否するのは、相手のことが好きじゃないんだよ』って。それはもうハッとしました。人をおもしろくさせるのが僕の仕事なのに、自分は好きな人にそんな思いをさせていたんだ、と。その衝撃がきっかけで僕は変われたんです。いまでは人にプレゼントをするのが大好きになりました」

似た者同士の2人が分かち合うのは、共感だけじゃないということ。テレビで江頭2:50を観て爆笑する夫婦をただ想像していた私は、やっぱりあまちゃんだ。価値観が同じだからこそ、気づかされる感情だってある。それは、何よりも偉大で尊い。

「僕、結婚してすごく変わったって言われるんです。それは、人間として置き忘れてきた部分をあまりに素直すぎる奥さんがいつも教えてくれるから。何十年も気づかなかったモラルとか、喜びとか。デカい背骨は一緒の2人だからこそ、お互いが“失くしていた感情”に気づけるのかもしれません」

大島美幸をめざすのは、もうやめた

私は、大島さんのようにおもしろい人間にはなれない。素人の裸芸を見て笑ってくれる人は、ひとりもいないだろう。あれは彼女の背骨があってはじめておもしろくなるのだろうし、鈴木さんの心に響くのだとも思う。本当に大切なのは、誰かをなぞらえて自分を消すことじゃない。

インタビューの最後、「生まれ変わっても大島さんを選びます?」なんて答えのわかりきった質問をした。そんな私に向き合う鈴木さんの表情は、大真面目だった。

「もう一度、大島と結婚するかってこと? 絶対選びますよ。それは100%」

取材の帰り道。気心の知れた幼なじみにこの前見たドラマがいかにダメだったか、長文LINEを送った。好きな人に合わせて、趣味じゃないジム通いの話をしている瞬間の何万倍も楽しいと感じた。そうそう、男性に話したら引かれるくらいのエンタメオタクなんです、私。だから、いまだってあこがれの鈴木おさむさんにインタビューする仕事を選んでいる。こんな背骨の話をして、いつか笑ってくれる相手に出会えたら。ここで、やっと結論がでた。

やっぱり私は「大島美幸」になれなくていい。一生私のままでいい。

>前編「鈴木おさむが『愛されたい女』と結婚しなかった理由」に戻る

(取材・文:井田愛莉寿/マイナビウーマン編集部、撮影:前田立)

INFORMATION

鈴木おさむ著『ママにはなれないパパ』(マガジンハウス)

息子 笑福(えふ)の誕生からの3年間を描く、父親目線の育児奮闘記。

・男がまったくわからない、「乳首痛い」問題。
・妻の不在で、一気に深まる父子の関係。
・なりたいのは「イクメン」ではなく、「父親」。
・「添い乳」の威力を思い知り、途方にくれる。
・母親を守ろうとする、息子の必死さにショック。

など全53話のエッセイと「父の気づき」を描いた一冊。

※この記事は2018年07月22日に公開されたものです

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