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3月のルブタン-内示- #名品ハイヒール

ナガイタカコ

節目にハイヒールを下ろすことは、女にとって通過儀礼かもしれない。数日足を痛めることはわかっているし、もう既に、今朝から足の親指の付け根がはち切れそう。それでも私たちはハイヒールを愛することをやめられない。そして、あの靴を履くため今日だって必死に働く。

昨日、私は「クリスチャン・ルブタン」を買った。

そして今日、その“レッドソール”を踏みしめながら出勤している。私みたいな普通の会社員にとって決して安い靴ではないし、もしかしたら身の丈以上。それに“3歩しか歩かない靴”なんてデザイナーが自ら言うくらいの細いヒールに甲の浅いカッティング、マニキュアを塗ったような裏底の真っ赤なデザイン、自分には少々華やかすぎるし分不相応。そう思い続けてきた靴だ。そんな小言はもうおあつらえ向きです。それでも私は、8万円少々のルブタンを買ったのだ。

それは自分にご褒美をあげるべき時が来たから。足元を正して、密かな決意表明をすべき時でもある。

実は先週末、かねてから希望していた部署への内示を受けた。入社以来、長く目指していた場所への異動と昇進。その部署にはちょうど10年前、あこがれの女性がいた。いつもストレートジーンズに無地のニットを合わせ、飾り気のないスタイリングが一見コンサバティブな人。仕事ぶりはというと、ごくフラットだった。物腰が柔らかくても芯があり、男女ともに分け隔てなく自然体。穏やかにNOが言えて、冷静に怒れて、内なる愛情がある人。

そして細いハイヒールでしれっと日々の仕事をこなすその人の靴底が赤いことに私は気がついた。そう、ルブタンを履いていた。「女らしさ」のシンボルのような靴をニュートラルに履くことが素敵だと思った。あこがれ募って調べると、彼女が履いていたのは「Simple Pump(シンプルパンプ)」と言われるモデル。それはクリスチャン・ルブタンの中でも代表的な定番パンプスで、歩きやすいラウンドトゥ。おそらくヒールは10cm。

けれど今朝、私が下ろしたのは「Pigalle(ピガール)」という別のモデルだ。「ピガール」は「シンプルパンプ」に比べるとポインテッドトゥがシャープな印象で、甘すぎない雰囲気が私らしい。まだまだ自分の力で立っていたい私にとって、3歩しか歩けないのはもちろん困る。だから、3時間くらいなら歩き続けられそうな8.5cmのヒールを選んだ。

こうして、選んだあこがれのルブタン「ピガール」を履きながら、「ああ、本当にハイヒールを愛すべき理由は尽きない」と思う。改めて決意表明をしてみようか。この8.5cmのヒールはきっと今日まで成し遂げた誇りだし、ルブタンルージュは仕事にかたむけた愛の証だ。今にも折れそうに見えて折れない、この細くても丈夫な骨格を、あの女性のように私の血肉にしよう。ハイヒール初日特有のつま先の痛みと一緒に、全身の血がめぐる。この高揚感が落ちついたころ、私はひとつ上の階に出勤しているだろう。昨日まですごくがんばったし、多分、今日はもっとがんばれそうな気持ちです。

(文:ナガイタカコ、イラスト:後藤恵)

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