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【真夜中のKISSマンガ】第6回『とりかえ・ばや』すべてを奪うキス

和久井香菜子

少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子が、真夜中に読みたいキスシーンをご紹介。ベッドの中で胸キュンが止まらない“とっておきのキスシーン”って? 金曜午後10時、甘くて切ない秘密の時間がおとずれる。

浮気性の男って、本人はその都度本気のつもりだからたちが悪いですよね。
A子と一緒にいるときは、真剣にその子に夢中で、ほかの子のことなんか頭の片隅にもない。でもいったんB子と一緒になると、今度はその子で頭がいっぱいに。今度は真剣にこっちを口説いて約束を取りつける。

本人に悪気がないのはたちが悪い。結局、こういう男って一番好きなのは自分だけなんですよね。嫌われるのが怖くて人にいい顔をしたいから、必然的に嘘が多くなる。振り回されたらたまったものじゃありません。

今夜のKISSマンガ『とりかえ・ばや』

平安時代の文学って、どうしてこう女の胸をつくんでしょうか。
原作となった「とりかへばや物語」は、平安時代に成立した作品です。作者は不明ですが、現代でも通用する繊細なジェンダーに対する視線が、多くの女性の心を惹きつけます。これまでも『ざ・ちぇんじ!』『とりかえばや異聞』など、いくつもの少女マンガ作品の原作として取り上げられてきました。

その中でもっとも 原作に近いのが、「とりかえ・ばや」です。
男らしいことが大好きで活発な少女・沙羅双樹(さらそうじゅ)と、引っ込み思案で内気な少年・睡蓮(すいれん)は、同じ右大臣家に生まれた兄妹です。幼いころから沙羅双樹が活発で優秀なことや、睡蓮の可憐な美しさは宮中でも評判に。かくして沙羅は男子として元服し、睡蓮は女子として裳着(もぎ)を行い、2人は男女が入れ替わったまま、社会生活をはじめることになります。

脇役たちのキスに心を奪われる

沙羅は男女の秘め事に弱く、ことの重大さを理解しないまま右大臣の四の姫と結婚することに。そこへ、かねてから彼女を狙っていた石蕗(つわぶき)が、四の姫の美しさに我慢できず、彼女を奪いに来ます。人んちに侵入し放題なのが平安っぽいですね!

そしてチュー。

不義の行為なんですが、そもそも2人の結婚は女同士だから破綻しているので(実際に沙羅は石蕗と四の姫の関係を知っても傷つかないどころか応援し出すし)、ちょっとキュンとしちゃいます。

「長い間…お慕いしておりました」
「あなたの心の隙間に私は入りたい」
とか猛烈に口説いて、襲いかかります。

そしてそのままことに及んじゃうわけですが、このときの石蕗の熱心なこと。

沙羅が自分にやさしくしてくれるのにもかかわらず女として愛してくれないことに疑問とあせりを感じていた四の姫。彼女は言えない秘密を持ってしまったことに一層苦しみます。

いやー、いいですねえ。
こんな風に誰かに強烈に思われて奪われたいもんです。石蕗の口説き文句がすごい。
「体はよそにあっても心はいつもあなたの側にあります」
「私の気持ちは変わらない」
猛プッシュです。
さすがプレイボーイ!

石蕗のプレイボーイっぷりが止まらない

そしてさすがプレイボーイの石蕗、細かいことを気にしません。四の姫がコンプレックスを打ち明けても、
「それが どうかしたのですか?」
とまったく意に介しません。

それだけだったらホントいい奴だったのになあ石蕗……。

その後も石蕗は「さすがプレイボーイ」なことを繰り返してくれてめちゃくちゃ興ざめですが、ここのシーンは極上です。

だけどまあ、猛烈に口説いてくるとか、プッシュしてくるヤツの真実なんてこの程度だってことなんですかね。古典ってホント味わい深いです。

でも大丈夫、めっちゃくちゃ萌えのキスシーンがこのあと待っていますよ!

(監修・文:和久井香菜子、イラスト:菜々子)

連載「真夜中のKISSマンガ」バックナンバーはこちら

※この記事は2017年10月27日に公開されたものです

和久井香菜子

少女マンガ攻略・解析室 室長(http://kanako-wakui.net/index/)、編集・ライター。卒業論文で『少女マンガの女性像』と題して、女性の社会進出と少女マンガの主人公の描かれ方がどうリンクしているかを研究。以後、各種少女マンガレビューの執筆を始める。著書に『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)がある。

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