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もしも金星で暮らすなら「時速400kmの風と90気圧の大気」

2013年6月、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は金星の風が時速400kmに達したと発表した。2006年には300km/時だったのがわずか7年間で3割もアップし、想像もできない暴風になっているのだ。

【もしも気球で地球一周するなら「時速360kmで10km超の高低差を繰り返す」】

人間は金星で暮らすことができるのだろうか? 高圧の大気と灼熱の大地に覆われた地表では難しそうだが、高度50kmぐらいに浮かんで風任せの生活なら、何とかなりそうだ。

灼熱の大地

金星の直径は地球のおよそ95%、質量は約80%と似たサイズなのも、地球の双子と呼ばれる理由なのだが、温室効果の高い二酸化炭素が大気の96%を占め、鉛も溶ける500℃近い地表面、90気圧の大気、硫酸の雨も地表に届く前に蒸発してしまう灼熱の惑星だ。

共通の起源を持ちながらも対照的な惑星となってしまったのは太陽との距離が原因で、地球~太陽の1億5000万kmに対し、1億800kmと28%ほど近いのが運命の分かれ道だと考えられている。

金星は地場を持たないので、太陽風の影響をダイレクトに受けるのも生命にとってマイナス要因だ。厚さ20kmもの雲におおわれ、地表に届く光はわずか2%ほどだが、上空では紫外線が酸素分子を原子に切り離してしまうほどの猛威を振るっている。

さらにスーパーローテーションと呼ばれる猛烈な風が吹き荒れ、地上は秒速1mほどと穏やかなものの、高度70kmでは秒速100m、つまり時速300km超の風が吹き続けているのだ。このスーパーローテーションはさらに加速し、現在は時速400kmもの勢いで雲が流れていることが確認された。

これは高温になった赤道付近の大気が原因と考えられ、極付近では直径2,000kmにも及ぶ巨大な渦巻きが発生するほど、金星の大気は常に荒れ狂っているのだ。

そんな金星の地表に暮らすにはどうすれば良いか? 90気圧の大気はおよそ900mの海中と同じだから、潜水調査艇のように圧力に耐える丈夫なシェルターが必要だ。正確な数値は公表されていないものの、現代の潜水艦も同じぐらい潜航できると考えられているので、技術的には決して不可能ではない。

ただし470~480℃の気温から守る冷却装置があればの話だ。国際宇宙ステーション(ISS)と同様に室温21~25℃ほどに保つなら、差し引き450℃分をどこかに放熱しないといけない。地球と同様に高度とともに気温が下がるので、高い場所に住むか、エアコンの室外機を空中に浮かせる工夫が必要だ。

高度と気温、気圧のおよその値を挙げると、

・地表(0km) … 470~480℃ … 90気圧

・10km … 400℃ … 50気圧

・50km … 100℃ … 1気圧

・55km … 30℃ … 0.5気圧

となり、金星で一番標高が高いマクスウェル山の1万1,000mでもやや涼しい程度に過ぎない。30℃となる高度55km程度が現実的だが、55kmもパイプを伸ばしたエアコンでは、ロスが多すぎて冷やすのもひと苦労だ。

金星での陸上生活は、かなり無理があるようだ。

オレの人生、風任せ

ならばいっそのこと、大気中に浮かんでいるのが良さそうだ。NASAでも気球を使った調査計画があるぐらいだから、さほど無茶な話ではない。

気温面では高高度が有利だが、60km付近の雲よりも高いと太陽光をまともに浴びてしまうので、やはり55km付近が良さそうだ。室内を1気圧に保っても外気との差は0.5気圧だから、シェルターも軽量化できて一石二鳥だ。

ただし時速400kmで吹きすさぶ風にあらがう方法はなく、どこに行くのかは風任せの生活が始める。シェルターから出ても90%を超える二酸化炭素濃度では息をすることもできない。おまけに硫酸の雨とわずかながらに含まれているフッ化水素にさらされているので、毎日シェルターの点検に追われることになる。

万が一にも落下したら大惨事は免れない。90気圧の地表は深海に等しく、0.5気圧用に設計されたシェルターなど地表に着くまでにぺしゃんこだ。地球ならパラシュートで脱出できるが、金星では逆に浮かび続けなければならない。

ヘリウム入りの巨大な浮き輪を用意すれば何とかなりそうだが、時速400kmで救助者と激突すれば多重遭難どころの話ではない。

だれだ?この星を女神と名付けたのは!

まとめ

水がほとんどない金星でも雷が確認されている。生命の起源に重要な役割を果たすと考えられているので、やがて生物が誕生するのかも知れない。

過酷な金星に生まれた生命は、さぞかしタフに違いない。出会っても怒らせないよう細心の注意が必要だ。

(関口 寿/ガリレオワークス)

※この記事は2014年02月10日に公開されたものです

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