もしも北極の氷が溶けたら「地球規模の気候変動が起こる」
もしも北極の氷がすべて溶けたらどうなるのか?海氷の溶解と水位の上昇は海洋生物に壊滅的なダメージを与える。海洋大循環や偏西風にまで影響を及ぼし、世界的な環境変化を余儀なくされるだろう。
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海の恵みは氷の恵み
北極の氷が溶けたら海面は何m上昇するのか?もっともポピュラーな疑問だが、答えは0mで、大陸の上に積もった南極なら40mとも50mとも言われているが、北極の氷は海水に浮いているだけだから、溶けても水位は上昇しない。
ただし、北極圏や準北極圏を含めると話が変わる。グリーンランドには全球の約10%もの氷床があり、海水準の7mに相当する。つまりこの氷だけで海面は7m上昇するのだから、北極だから安心の構図は成り立たない。
北極の海氷面積は加速度的に減少し、アメリカ海洋大気庁(NOAA)によると、2040~2060年にはすべて無くなると予測されている。雪や氷は光を反射するため、存在するだけで温まりにくいのだが、減少すると反射量が減るのと同時に、光を吸収しやすい海水の面積が増えていく。
そのため光の入射vs反射の比であるアルベドは、氷の減少に従い急激に低下する。アルベドが低下すると、夏に温まった海水が冬になっても凍りにくい。つまり氷が溶け始めると、加速度的に減少してしまうのだ。
海氷が溶けると、まず海洋生物に影響を与える。ホッキョクグマやアザラシのように出産や子育てに氷が欠かせない動物にとっては、陸を追われるのに等しい。また、塩分濃度の薄い溶け水は表面の海水を薄め、濃度の高い海水と層をなし混ざりにくくなる性質がある。
ハイボールを作る際に、炭酸水→ウィスキーの順で静かに注ぐと、分離して2層に分かれるのと同じ原理だ。海水の場合、下の層が本来の姿だから、エサとなるプランクトンなどは表層に存在しない。身体の大きな魚なら問題ないのだろうが、潜ることのできない微生物にとっては死活問題で、エサのない低濃度の海表面を漂い続けるしか道はない。
北極は地球のポンプ
さらに、海洋大循環と偏西風の蛇行が生じ、地球規模の気候変動を引き起こす。
海洋大循環はグリーンランド沖で冷やされ密度が高まった海水が沈み込むのが起点と考えられている。まず南極を目指し、その後は地球を縦横無尽に流れる海流となるのだが、南極に到達するまでにおよそ1,000年かかると推定されるほど、距離も時間も大規模だ。
流れは海の恵みを運ぶだけでなく、エルニーニョ現象で知られるように気象にも強く影響する。もしも大循環のポンプである北極圏の氷がなくなったら、地球の気候デザインは全面変更が余儀なくされるのだ。
温度差によって循環しているのは大気も同様で、北極の氷の溶解は気象にも直接作用する。元来、氷で冷やされていた北極の大気は、加熱され活発に上昇気流を発生させる。上昇気流は偏西風を蛇行させ、アジアモンスーンにも影響を与える。
現在研究中のためどのような影響を受けるかはっきりとしていないが、日本の比較的穏やかな気候が楽しめるのは、あと数十年なのは確実だ。
まとめ
50年後、日本の季語はどんなものになるのだろうか。集中豪雨、暴風、洪水では余計に気が滅入りそうで、勘弁してもらいたい。
(関口 寿/ガリレオワークス)
※この記事は2014年01月27日に公開されたものです