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【新連載】神さま、どうか今年こそあの人と縁を切れますように……

Story4 ★そして流れて消えてゆく

わたしは急いでコートのポケットから、
ハンカチを出して目頭を押さえた。
風景は刻々と変化していた。
西の空はさらに濃いピンクや紫に染まり、
富士山のなだらかなシルエットは、
そのピンクを背にしてさらにくっきりと美しい。
そしてオレンジ色の太陽は今まさに姿を消した。
その風景がどうしても、涙でにじんでしまう。

……わたしたぶん、寂しかったんだな。
沈む夕陽を見ながら理由もなくそう悟った。
石井施設長とのお付き合いは、
緊張感があって悪くなかったけど、
自分の孤独から目をそらしてがんばるのは、
きっともう限界なのだ。

「あの、大丈夫ですか?」
見上げると中尾さんが、
ひどくうろたえた顔で心配してくれていた。
展望台はかなり混雑していて、
この人はわたしが人混みに押されぬよう、
体を張って守ってくれていたのだ。

「ごめんなさい。ちょっと感動しすぎて」
わたしは再びまぶたにハンカチを当てると、
あわてて笑顔をつくった。

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