お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

花粉で肌荒れが起こる!? ぶつぶつ・かゆみなどの予防と対策

横井彩(皮膚科学会認定専門医・医学博士)

花粉の季節になると、目や鼻の症状以外に肌荒れが起こる人もいるようです。肌がぶつぶつしたり、かゆくなったりした場合、どうすれば治るのでしょうか? また、悪化させない予防法とは? 皮膚科学会認定専門医・医学博士の横井彩先生に伺ってみました。

毎年、花粉が飛ぶ季節になると、鼻はつまるし目もかゆいしと、外出するのが面倒になる方もいるのではないでしょうか。人によっては肌にぶつぶつやかゆみが出ることも。

花粉症患者の約2割がこのシーズンに肌荒れを経験しているといわれています。いったい、この肌に浮き出るぶつぶつは何なのでしょうか。ニキビ? それとも蕁麻疹?

実は、「花粉皮膚炎(かふんひふえん)」と呼ばれる、花粉シーズン特有の肌荒れ(皮膚炎)が存在するのです。

本記事では、花粉皮膚炎の特徴や治し方・予防法について、日常的にできるケアのヒントをまじえながらご紹介します。

花粉による肌荒れ。その症状の特徴は?

花粉皮膚炎(花粉による肌荒れ)には2つのタイプがあります。最も多いのは、もともとアトピー性皮膚炎を抱えている人が花粉のせいで症状を悪化させたタイプです。

アトピー性皮膚炎の患者さんのうち3割程度に起こるとされていて、このタイプではアトピー性皮膚炎の症状が悪化したような症状として現れます。

一方で、アトピー性皮膚炎ではない人でも、花粉によって皮膚炎(肌荒れ)の症状が出てしまうことがあります。今回はこのアトピー性皮膚炎を伴わないタイプの花粉皮膚炎について、特徴的な3つの症状と、よく似た症状が出る疾患との見分け方を説明します。

※「花粉皮膚炎」について医学的には、「アトピー性皮膚炎に伴うもの」と「アトピー性皮膚炎に伴わないもの」の2タイプが考えられていますが、以下「花粉皮膚炎」という言葉を用いる際には、「アトピー性皮膚炎に伴わないもの」を指すものとして使用します。

(1)強いかゆみを伴うくっきりとした赤い腫れ

花粉皮膚炎の代表的な症状で、顔面や首に多く現れます。蕁麻疹のような強い赤みのある腫れ(浮腫性紅斑;ふしゅせいこうはん)が出ますが、一般的な肌荒れ(湿疹)のような赤み・ぶつぶつやガサガサが同時に現れることはなく、より色味がはっきりとしていて正常な皮膚との境目が鮮明なのが特徴です。強いかゆみがあります。

(2)目の周囲や頬が赤らんでかゆい

目の周りや頬一面にふわっとした赤みがさしている状態(潮紅;ちょうこう)です。(1)のようなくっきりした腫れは無いか、あっても少しです。赤らんだ一帯にはかゆみが伴います。

(3)広い範囲の赤み+小さなぶつぶつ

顔面など比較的広い範囲が赤らみ(潮紅)、そこにゴマ粒くらいの小さなぶつぶつ(小丘疹;しょうきゅうしん)が数個散在するもので、かゆみを伴います。

こんな場合は花粉皮膚炎かも?

花粉皮膚炎には、他の皮膚疾患と比べて次のような特徴があります。

・症状は花粉が飛散するシーズンにだけ現れる
・症状は顔面や首など衣服に覆われていない部位に現れる
・輪郭のくっきりとした赤い腫れが生じる
・花粉の飛散量によって症状の程度が変わる

例えば、いわゆる肌荒れでよく見られる赤み・ぶつぶつやガサガサが同時にある症状は、花粉皮膚炎の場合にはそれほど見られません。

花粉皮膚炎になりやすくなる3つの要因

花粉皮膚炎は、皮膚の内部まで侵入した花粉へのアレルギー反応で起こると考えられています。

本来であれば、花粉は皮膚の外側にある角層のバリア機能にはばまれて体の内部まで入り込むことができません。しかし、何らかの理由でそのバリア機能が低下していると、花粉がそこをすり抜けて内部に侵入し、アレルギー反応を起こしやすくなります。

では、なぜ皮膚の持つバリア機能は低下してしまうのでしょうか。

(1)皮膚へ加えられるさまざまな“刺激”

スキンケアやメイク時に加わる摩擦、髪の毛の先端の接触、洗浄料や化粧品の成分など、日常生活のなかで、皮膚にはさまざまな刺激が加え続けられています。こうした物理的・化学的な刺激は皮膚を傷つけ、皮膚のバリア機能を低下させてしまうことがあるのです。

また、花粉症では目や鼻の症状に関連してつい加えてしまう皮膚への刺激にも注意したいところです。ムズムズしてたまらないからといって、頻繁に鼻をかんだり、目を強くこすったりすると、その刺激が皮膚のバリア機能をさらに低下させてしまうことになりかねません。

(2)顔や体の“洗いすぎ”

顔や体の洗いすぎには注意が必要です。ボディソープなどに含まれる界面活性剤は、その成分によっては、また洗う時間が長いほど、皮脂(皮膚にある脂腺から分泌される油脂)や、皮膚の外側近くにある細胞の隙間を満たしている脂質(セラミドなど)を過剰に洗い落とすことがあります。

これらを洗い落としすぎると、皮膚がもともと持っている保湿能力が弱まり、肌の乾燥を招くのです。必要な水分を保てなくなった皮膚は正常な機能がさらに低下し、皮膚のバリア機能が損なわれてしまうのです。

(3)季節的に起こりやすい肌の“乾燥”

花粉症といえば春のスギ花粉やヒノキ花粉が有名ですが、秋にもブタクサ花粉などがあるので気が抜けません。同時に、春・秋は冬の前後ということもあって空気が乾燥しがちです。肌から水分が奪われ、皮膚のバリア機能が低下しやすい季節なので注意が必要です。

また、気温が低い日は汗をかく量が少なくなります。適度な汗は皮膚に水分を補給する役割も担っているため、汗をかく量が極端に少ないとその水分供給が追いつかずに乾燥し、皮膚のバリア機能の低下が起こりやすくなるのです。秋から春にかけての気温が低いシーズンには気をつけたいものです。

花粉による肌荒れの治し方

花粉症の症状の一つである花粉皮膚炎。その治療は、花粉症そのものの治療を行いながら、同時に皮膚炎の治療を組み合わせるのが基本となります。どのような選択肢があるのか見ていきましょう。

効果的な治療は医療機関で。受診すべきは何科?

最近の花粉症治療では目のかゆみや鼻水といった症状をやわらげる治療だけでなく、体をアレルゲンに慣らすことで花粉に対する免疫反応をやわらげるような治療が行われるようになってきています。ですから、もっとも根本的な治し方は、医療機関で花粉へのアレルギーそのものに対しての治療を受けることだといえます。

花粉症といえば目や鼻の症状が主ですから、受診する診療科も眼科や耳鼻咽喉科のイメージが強いと思います。しかし、皮膚症状を専門に診るのは皮膚科。花粉皮膚炎の場合、どのような先生に相談すればいいのでしょうか。

受診するならアレルギー診療を積極的に行っている医師を

花粉皮膚炎を含めた花粉症はアレルギーの一種ですから、治療にあたってはアレルギーの診療を積極的に行っている医師を受診するのがよいでしょう。

アレルギーに対する専門的な知識と豊富な診察経験を持ち、日本アレルギー学会から「アレルギー専門医」という資格の認定を受けた医師がいますが、アレルギー専門医はそう多くない上に、受診しやすい場所に専門医がいるとは限りません。

アレルギーの診療は耳鼻咽喉科、皮膚科、内科、小児科、眼科と多くの診療科で行いますが、花粉皮膚炎の相談は、やはり皮膚科を受診するほうがよいでしょう。ホームページなどを見て、アレルギー診療を積極的に行っているかどうかをチェックするのも一つの手です。

皮膚科に相談する時には、「お薬手帳」を持っていくなど、これまで受けてきた花粉症の治療について説明できるよう準備しておくと診察がスムーズに進みます。

市販薬も選択肢の一つに

すぐに医療機関を受診することが難しい場合には、市販薬を活用するのも一つの手です。花粉症の治療薬としては「第2世代抗ヒスタミン薬」(飲み薬)が、皮膚炎の治療薬としては「ステロイド外用薬」(塗り薬)があります。

第2世代抗ヒスタミン薬はアレルギーの諸症状(鼻水など)やかゆみを緩和する薬で、ステロイド外用薬は皮膚の炎症を抑える薬です。どちらの薬も店頭で薬剤師などとよく相談した上で選び、症状が改善しない場合は早めに医療機関を受診するようにしましょう。

その際には、どの市販薬を使っていたか医師に伝えられるように薬のパッケージやその写真などを準備してから行くのがおすすめです。

※アトピー性皮膚炎による花粉皮膚炎(花粉がアトピー性皮膚炎の症状を悪化させたもの)の場合、はじめから皮膚科の医師に相談したほうがよいでしょう。

花粉対策やスキンケアなどの予防策は治療中も必須

治療をしているあいだも、皮膚に花粉が付着する機会を減らす、肌の健康維持につとめるなど、花粉が皮膚のバリア機能をすり抜けることがないよう気を配りたいところです。皮膚のバリア機能が低下した状態で花粉との接触を繰り返していれば、どんなに薬で症状をやわらげても解決になりません。

次の項目で紹介する予防策は花粉症・花粉皮膚炎の治療中にとってもたいへん有用なことなので、ぜひご活用ください。

花粉による肌荒れを悪化させないための予防法

花粉による肌荒れを悪化させないためには、花粉が肌に触れるのをできる限り防ぐことが一番です。ここでは、花粉から肌を守るための対策法とおすすめのスキンケア法を紹介します。

(1)大前提は花粉に身をさらさないこと

原因となる花粉が体内に侵入する量が多くなればなるほど、花粉症の症状は悪化します。できる限り、皮膚に付着する花粉を減らすように努めましょう。

例えば、メガネとマスクは目・鼻へ侵入する花粉の数を効果的に減らし、顔面の露出範囲が少なくなることで花粉と接触する皮膚の面積も減らせるため、花粉症の対策としては必須といえます。

外出先から自宅や職場など屋内へ入る時には、持ち込む花粉の量を減らすようにしたいものです。玄関にコートかけを置いたり、玄関口で上着を払ったりなどするとよいでしょう。

また花粉の季節には、帰宅後できるだけ早めに入浴やシャワー浴を行い、肌や頭髪に付いた花粉を洗い落とすよう心掛けましょう。すぐの入浴が難しい場合でも、まず洗顔やブラッシングだけでも行って付着した花粉を減らすのも一つの手段です。

(2)スキンケアで花粉の侵入を許さない健康な肌へ

花粉皮膚炎の発症は皮膚のバリア機能と密接に関係しているので、発症を予防するには皮膚を健やかに保つための適切なスキンケアが必須です。

そのためには、適度な洗浄(洗顔だけでなく体を洗うことも含む)と適切な保湿を行うのがよいでしょう。保湿クリームなどでしっかりカバーしてうるおいをとじ込めることも効果的です。

特に、洗浄のしすぎはかえって皮膚に悪い影響を与えてしまうので要注意。花粉皮膚炎の自覚がある人は、ボディソープや洗顔料などは低刺激の敏感肌用のものを選び、ゴシゴシとこすらずにやさしく洗うよう心がけましょう。化粧水やクリームなども同様に低刺激の製品を選ぶことが重要です。

花粉対策は自分にしかできないことだから

花粉皮膚炎も含めて、花粉症は体内に侵入する花粉が多いほど症状が重症化しやすいものです。そして、アレルギー反応や炎症を繰り返せば、患部の皮膚の状態はどんどん悪化していきます。できれば症状が出始めたらすぐに、そしてすでに花粉症であることがわかっている人は花粉シーズンの前から、花粉への対策を心がけたいものです。

特に、体内へ侵入する花粉の量を減らすための日常的な対策は、自分自身にしかできないことです。花粉症は誰でもなりうるものですから、症状の有無にかかわらず、花粉飛散シーズンの前から花粉と皮膚の接触を減らす対策やスキンケアを実施するとよいでしょう。

それでも症状が出てしまったら、早めに医療機関を受診するようにして、自身の健康を守りたいですね。

(文・構成:株式会社ジーエムジェイ、監修:横井彩先生)

画像はイメージです

参考文献

佐伯秀久: Pharma Medica 38(4):33-36,2020.(https://doi.org/10.34449/J0001.38.04_0033-0036)

日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン改定委員会〔編〕:接触皮膚炎診療ガイドライン2020.日本皮膚科学会雑誌130(4):523-567,2020.(https://doi.org/10.14924/dermatol.130.523)

日本皮膚科学会・日本アレルギー学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会〔編〕:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018.日本皮膚科学会雑誌128(12):2431-2502,2018.(https://doi.org/10.14924/dermatol.128.2431)

厚生労働科学研究・日本アレルギー協会〔作成〕,大久保公裕〔監修〕:的確な花粉症の治療のために(第2版),2015年.(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000077514.pdf)

SHARE