
「結婚はコスパが悪い」と独身男性が嘆く理由
未婚率の上昇、若者の恋愛離れ、男性の結婚意欲の低下……。婚活女子にとって耳をふさぎたくなるような情報が巷にはあふれています。そこで、独身研究家の荒川和久さんに、知らないと困る“結婚と恋愛の数字”について教えてもらうことにしました! つい現実から目をそむけたくなりますが、正しい情報、正しい数字を知って、婚活難を乗り越えましょう。
「結婚はコスパが悪い」――。
前回の記事(「結婚願望がない男性が増えている」がウソな理由)にも書きましたが、結婚意欲のある男というのは、30年も前から大体4割程度しか存在しません。
そんな結婚に後ろ向きな男性に対面インタビュー調査をすると、結婚しない理由として挙げられるのが、「結婚はコスパ悪い説」です。
結婚には経済的なデメリットが多いと判断する男たちが大勢います。それが、こうした男の低い結婚意欲に結びついているのでしょうか。
今回は、独身男女たちが考える、結婚のメリットとデメリットについて取り上げたいと思います。
独身者が考える「結婚の利点」「独身の利点」by出生動向基本調査
「出生動向基本調査」の独身者調査の中には、独身者が考える「結婚の利点」「独身の利点」という質問項目があります。
結婚の利点
まず、独身者が考える「結婚の利点」とはなんでしょうか。
男性
女性
調査によれば、「自分の子どもや家庭を持てる」を挙げる人が、1987年時点からほぼ一貫して増加し続け、2015年には、男性で35.8%、女性で49.8%と、双方ともトップメリットとして挙げています。
2位も男女とも「精神的安らぎの場が得られる」で一致しています。
しかし、「愛情を感じている人と暮らせる」という点も、男女とも年々減少傾向にあります。結婚=愛ではなくなりつつあるようです。
反対に、増加傾向にあるのは、男女とも「親や周囲の期待に応えられる」で、これは、独身でいることに対して親や周囲のプレッシャーを感じている人が増えているということかもしれません。
独身の利点
次に、「独身の利点」について見てみます。
男性
女性
独身の利点は、男女ともに「行動や生き方が自由」を挙げる人が圧倒的に多く、2015年時点で男性では 69.7%、女性では 75.5%です。
それ以外では「金銭的に裕福」「家族扶養の責任がなく気楽」「広い友人関係を保ちやすい」が比較的多いようです。これらの傾向は1987年以降ほとんど変わっていません。
この調査からわかること
つまり、結婚とは「行動や生き方、金銭、友人関係などが束縛されてしまうリスクがある」と独身者たちは警戒しているのです。
以上、結婚・独身の利点を見ても、極めて普通の結果であり、特に目新しい発見はありません。
この調査の結果から多くの専門家が論を展開していますが、これだけを見て、「昨今の独身男女は、自己の自由を大事にしているから結婚しないのだ」と、乱暴に結論付けてはいけません。そうやって物事を単純化してしまうから大事なことを見落とすわけです。
分析にあたって大切な視点とはなんでしょうか?
この調査を男女別々に見てはいけないんです。見るべきは、男女の差分です。
「結婚のメリット」には男女差がある
結婚とは男女でするものであり、お互いが考えるメリットが食いちがっているとするならば、それはマッチングを阻害する大きな要因となるわけです。
しかし、今までそうした視点でこの調査を分析した人は、私の知る限りいませんでした。
拙著『超ソロ社会』にも掲載し、話題になりましたが、男女の結婚利点の差分に着目すると、興味深い結果が見えてきます。
「結婚のメリット」の男女差
まず、結婚の利点の男女差分です。
女性は、「親や周囲の期待に応えられる」も多少伸びていますが、圧倒的に「経済的に余裕が持てる」項目が男性より高くなっています。
しかも、近年急激に伸びていることが見てとれます。「結婚とは経済的メリット」がもっとも大きいと考える独身女性が増えているということです。
一方、男性はどうでしょう? 「社会的信用や対等な関係が得られる」「生活上便利になる」などで女性より多い部分があるものの、ほぼ年々下降傾向です。
全体的に、女性と比較して男性は「結婚するメリットを感じていない」もしくは「結婚するメリットが減っている」と考えていることがわかります。
「独身のメリット」の男女差
続いて、「独身の利点」のほうはどうでしょうか。
こちらも一目瞭然です。「行動や生き方が自由」を独身の利点としているのは、意外にも女性のほうが多く、しかも年々伸びています。
つまり、女性のほうが独身の利点を「自由」であることに見いだしており、かつ「友人関係の保持」「社会との関係保持」「家族との関係保持」という関係性の継続を重視しているということになります。
男女ですれちがう「結婚のメリットデメリット」
さて、こうした「結婚の利点」と「独身の利点」の男女差分からわかることはなんでしょうか。
女性が考える「結婚のメリットデメリット」
女性が結婚しないのは、結婚をすると「不自由になり」「友人や家族や職場との関係がなくなる」という恐れがあるからと解釈できます。
そのうえで、結婚に対しては「家族という新しい社会を手に入れることができ」「経済的余裕が生まれる」ことを期待しています。
男性は「結婚のメリット」を感じられない
逆に、男性が結婚しないのは、「自分のためにお金を使いたい」からです。
結婚に感じられるメリットは、もはやほとんどないといっても過言ではありません。
未婚のままでも、いまや社会的信用を失うわけでもなく、結婚したからといって、生活上の利便性も大して変わらない。家事も買い物も自分でできます。
「自分のために金を使える自由」を捨ててまで、結婚をする必要を感じられないのです。男は、月3万円台の小づかい制なんてまっぴらごめんなわけです。
男性が「結婚はコスパ悪い」と思ってしまう現実
結婚をする上で女性は相手の収入や経済的安定は絶対に譲れないし、男性もまた結婚による自分への経済的圧迫を極度に嫌います。
簡単にいえば、女性が「結婚するのは金のため」であり、男性が「結婚しないのも金のため」ということです。
結婚に対する意識では、男も女もしょせん「お金」なんですが、その意識は相反するわけです。
身も蓋もない言い方をしてしまうと、結婚に際して、女は「金をよこせ」、男は「金はやらん」と思っているわけで、こんな人たち同士がマッチングされるわけがありません。
双方譲れないポイント(お金)がここで真っ向からぶつかっているわけで、これでは非婚化が進むのも当然でしょう。
いくら夫婦は経済活動の一単位とはいえ、あまりに世知辛い結果といえるのではないでしょうか。
もちろん、女性が全員専業主婦になって夫の経済力に依存しようとしているわけではありません。
しかし、たとえ共働きだとしても、育児の時期は離職を余儀なくされる可能性もあります。少なくとも自分の稼ぎ以上の相手との結婚でなければ、「そもそも一緒になる意味がない」と考えるのも無理はありません。
男性側からしても、「お金がなければ結婚なんてできない」という強い刷り込みがなされています。
「女性が結婚相手に選ぶ男の年収は○○○万円以上!」などというネットのあおり記事はたくさんあります。
彼らにとって、こうした情報は彼らの自己肯定感をボディブローのように地味に奪っていきます。
仮に、独身男性が意を決して結婚相談所に行ったとしても、年収が低いと登録さえ断られる場合があります。結婚に向けたスタートラインにすら立たせてもらえないどころか、完全なる自己否定を突き付けられるようなものです。
「結婚はコスパじゃない」と主張したい婚活女性もいるかもしれません。
しかし、このように、男性にとっては「結婚するにはお金やコスパで考えざるを得ない現実」があることも知っておいてほしいと思います。
(荒川和久)
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