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熱海と東京の新幹線通勤。「東京から出るのは逃げじゃない。踏ん張ってきた自分を否定しない選択肢」

ずっとここで働き続けることが正解? 転職、上京、Uターンっていろいろあるから迷い、不安になる。でも、このままじゃいけない、動かなきゃってのはわかってるんだ。 そんなくすぶっているすべての人に読んでほしい、働く場所を変えた人のインタビュー連載【MOVIN'(ムービン)】。働き方を見直していく人々の姿が、行動のきっかけになりますように。

「迷いや不安は誰だってありますよね。私もそうだし。でも、大事なのはまず自分が楽しく心地よい状態でいること。そのために、もっとわがままに働いてもいいと思うんですよね。やりたいと思ったら、まず動いてみることが大事なんじゃないかな」

意志の宿った目で彼女がそう言ったとき、私は言葉に詰まった。話を聞いているうちに悶々とした迷いは消えて、躊躇する必要なんてないんだって思いはじめていたから。

彼女の名前は水野綾子さん。年齢は32歳。3児の母でもある。仕事を続けながら育児もする現代の女性を象徴するようなキャリアウーマンだ。

ただひとつ、新幹線通勤していること以外は、多くの女性と同じ。

彼女は平日、地元の熱海と東京を新幹線通勤している。1年ほどまえ、東京での育児環境や父の体調不良などさまざまなタイミングが重なり、実家のお寺を継ぐべく熱海へ移住することになった。

平日朝はサラリーマンの姿が多いです。通勤時間帯は10〜15分おきに新幹線が来るんですよ(水野)

「熱海へ移住することで東京の仕事を辞めようとは思わなかったです。東京の生活も、仕事も好きだし、移住することで仕事を続けられなくなるのは不本意。実家のお寺を継ぐことは決意したけど、いきなり僧侶修行一色になるのは、私も家族も負担だと思った。育児環境も整えつつ、仕事を続けながら、お寺とも向き合いたくて。会社に気持ちを伝えたら、ポジティブに受け入れてくれました。今は熱海と東京のサーキュレーションライフ(循環生活)をおくっています」

新幹線通勤ってきっと、毎朝早く起きて、夜は遅く帰ってきて、交通費は地下鉄とは比にならないくらい高くて。東京での消耗がいやと地方に暮らしても、むしろ生活はハードになる気がするけど……。

「私も夫も、週5で新幹線通勤してるけど、満員電車と無縁でいいものですよ。熱海と品川間は約40分で、その間に仕事を少し片づけたり、読書や勉強ができる。品川からは電車で会社へ向かうんだけど、満員電車に30分近く揺られるより断然、有意義な時間になってます」

東京で仕事をしながらの移住というとかなりの費用がかかりそうだけど、そうでもない。都内に比べ、住宅にかかる費用や維持費も抑えられると思うと、長い目で見ればむしろ安い。交通費だって都心から近い田舎であれば、会社負担の補助範囲内かもしれない。

移住してから家の重要度が増した気がする。居心地のいい空間づくりを意識するように(水野)

「職場と距離をとることで、物事を整理して考えられるようになったかな。熱海には、仕事でインプットしたことを還元できるし、東京には都会ではできない熱海での暮らし方を伝えていける。都会にも田舎にもそれぞれちがったよさがあり、逆に足りない部分もあります。それを埋め合い、還元し合う関係になれば、素敵じゃないですか」

移住のよさはすごくわかるけど、いざ一歩が踏み出せない。何からはじめればいいのかわからない。変化が怖い。現状より悪くなりそうで怖い。それが人間のサガってもの。

夏は海でたくさん遊びました。楽しそうな子供たちを見てすごく豊かだなって感じます(水野)

「もっとわがままに働いてもいいと思うんですよね。やりたいと思ったら、まず動いてみることが大事なんじゃないかな。私個人の意見だけれど、終身雇用の崩壊や、働き方の多様化が進むこの時代、ひとつの会社に依存して生きるのはリスクだと思っていて。価値観も狭まる気がする。いろんな場所にコミュニティをつくり、少しずつ自分の価値や可能性を広げていったらいいと思う。急な移住が不安なのだとしたら、たとえば週末だけ田舎に足を運ぶ生活でもいい。これまで培ってきた経験や仕事は誇るべきものだし、無理に辞める必要もないんです」

3人目は育児休暇を取らずにリモートワークで復帰。働き方の可能性を広げたくて(水野)

熱海という場所だったらそれができると思った。今の仕事を続けながら別の居場所もつくり出す。そうして自分の価値を高めていくことができるはずだと。移住って自分の現状といやでも向き合わなくちゃいけなくなる。私はこれくらい自由に使える時間やお金がほしい、でも生活費はこれだけ必要。私はどんなストレスに弱くて、何をしているときが幸せで、何を大切にしたいと思っているのか。こういう生活を手に入れたいなら、じゃあやっぱり移住をしたほうがいいよね、などの分析をしなくちゃいけない。

「私自身、移住が自分や家族、仕事と向き合ういいきっかけになりましたね。仕事を変えるときって、“いまの不満を改善したい”がゴールになりがち。給料が安いから高い企業に転職したいとか、残業が多いから少ない企業に行きたいとか。でもそれって実は、根本的な解決にはならない気がして」

お寺はもともと地域コミュニティのハブ機能を持っていた。それをもう一度アップデートしたい(水野)

「自分の状態と向き合わない限り、転職してもまた同じような不満が生まれる。いまの現状に何か迷っていたり、モヤモヤしているなら、思い切って住む環境を変えてみるのもいいかもしれない。やっぱりちがうと思ったら、戻ったっていいし、また別の選択肢を探せばいいだけ」

今や女性の働き方が多様化して、お手本となるロールモデルがいない時代。ちゃんと頭を使って考えて、試行錯誤していかなくちゃいけない。彼女の場合、移住の理由が育児環境や実家の跡継ぎだったかもしれない。でも彼女の考えは、独身で子どもがいない女性にも共感できることがたくさんある。

お寺にあがったお供え花を捨てずにドライフラワーに。スワッグにして飾ったりしてます(水野)

東京は便利。いろんなものや情報に溢れていて、刺激もある。だけど、毎日の忙しさから自分とちゃんと向き合えていない気がする。「何やってんだろ」と声が漏れる。そんな自分を変えたいと思ったら、小さくとも動いてみればいい。

東京から出るのは逃げじゃない。踏ん張ってきた自分を否定しなくてもいい。自分の未来をつくるために東京を出るっていう選択肢があったっていいじゃない。
輝ける場所は自分が決めた先にあるんだよ。

水野綾子さん

編集者。1985年熱海市生まれ。都内で会社員をしながら、2017年4月に家族で移住。熱海のまちづくりにも関わる。三児のママ。Instagram:@ayako_miz

写真/田中洋二(1枚目)

(マイナビウーマン編集部)

※この記事は2018年03月26日に公開されたものです

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