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女性が鋼であってもいい。トイアンナの根底にある少女革命

あこがれの人、がんばってる人、共感できる人。それと、ただ単純に好きだなって思える人。そんな誰かの決断が、自分の決断をあと押ししてくれることってある。20~30代のマイナビウーマン読者と同世代の編集部が「今話を聞いてみたい!」と思う人物に会って、その人の生き方を切り取るインタビュー連載【Lifeview(ライフビュー)】。

2018年1月17日。仕事で死ぬほどお世話になったライターのトイアンナさんが、ブログで離婚を告白した。

タイトルは、「離婚して、わんわん泣ける女になりたかった」。そこに散りばめられていたのは、想像よりはるかにポジティブな離婚の形。そして、彼女が守られるような女性ではなかったということ。ああ、なんだかもう。書くことが仕事だという人を前に、こんな拙い文章を綴るのは恐れ多いけれど。この気持ちは、私自身の言葉と一緒に伝えたかった。

王子様に選ばれるだけの女の子は、もういいよね。

「すさまじく恥ずかしい話ですが、子どものころに『少女革命ウテナ』というアニメがあったんです。そこに込められていたのは『王子様に選ばれるだけの女の子って、もういいよね』という価値観。セーラームーンを制作したチームが打ち出した作品なんですが、描かれていたのはもっと強い女の子像でした。セーラームーンの横にはタキシード仮面がいたけれど、それすらいらんっていう。自分のことは自分で救えばいい、というテーマにそれはもう影響を受けたんです」

フリーライターになる前のトイアンナさんは、一流外資で総合職としてバリバリ働いていた。当時の残業時間を聞けば「230時間以上。さすがに眠かった」なんて、とんでもない数字が返ってきて、目が回りそうになる。

彼女が就職活動を経験した数年前、総合職になりたい女性は少数派。前進的な価値観など、そう簡単に受け入れてもらえる社会じゃなかった。

「今は女性の働き方改革や労働推進が進んできたように思いますが、当時はえげつないことをたくさん言われました。『ちゃんと30歳で辞めてくれるよね?』と面接で確認されたり、説明会で『女性の幹部候補はいらない』『女性の採用は顔で決めます』と明言されたり。『女性の総合職志望は帰れ』と言われたこともありました」

でも、そんなことで考えを曲げるほど弱くもない。惹かれたのはウテナのように自分の力で生きていく女の子だ。

「どうしても男女平等に出世できる社会で働きたかった。そんな基準で選んだら、もう外資しか残っていなかったんです」

守られる女性じゃないなら、守ればいい。

女性が前線で働いて、お金を手にして、自分のために生きる。ちょっと前までは足蹴にされていた価値観だって、今となっては標準になりつつあると思う。だけど、ジレンマもある。プライベートで男性が選ぶのは、やっぱり一歩うしろを歩いていくような女性なんじゃないか、って。

あの日、彼女はブログの中でこう綴っていた。彼から「次に付き合うなら、米系外資っぽい詰めをしない女がいい」なんて笑えるフィードバッグをもらった、と。私たち女性をとりまく環境はもう十分リベラルで、性別なんて関係ないはず。実際、総合職として男性と同じように働いてきた自負のある私はそんな風に思っていたけれど、ちがったのかもしれない。でも、当の彼女はケロッとしていた。

「そもそも離婚をネガティブなものに思えていないんです。失恋という意味では、すごく落ち込んでいるんですけど。これが経済的な損失だったら本当に苦しかったはず。でも、ウテナのせいで狂った人生のおかげで幸い経済力は身についていました。だから、離婚は男女の別離でしかない。金稼いでおいてよかったな、っていう雑な人生の結論しか出なかった」

これだけ聞けば、トイアンナという女性があまりに無機質で感情のない存在に思えるかもしれない。でも、彼女の強さはそうじゃなくて。向き合えば、そのロジカルだってちゃんと感情で、ひとりの男性のことがすごく好きだったんだなってすぐにわかった。

「離婚が決まってからは、To Doリストを作って、あとは動くだけという状態でした。もともとすごく落ち込むタイプだけど、リカバリーも早いんですよ。『もうだめ、死んじゃう。無理、無理』と言ってるくせに、離婚が決まれば『うん、もう離婚する』って割り切っていました。個人的には元夫が傷ついていないか、ひどい思いをしていないか、のほうが心配だった。私を忘れないで、なんて気持ちは別にないんです。どうせ私は酒に呑まれて、何回か泣いたら復活するから」

そう。彼女は守られる側じゃなくて、ただ守る側の人間だっただけ。別れは誰のせいでもない。そして、彼女の理路整然とした言葉が、すっと私の中に入り込んだ。

「女性が鋼であってもいい。それなら、守られてくれる男性を選べばいいんです」

働いて、働いて、女性が強くなること。時々、それを求める自分と恐れる自分が交差する。これは、私の人生だ。だから、自ら生きていく力がほしい。でも、それを追求すればするほど好きな人と生きていくことが難しくなりそうで怖い、と。それでも彼女の話を聞いて、やっぱり私は強い女性になりたいと思ったし、守られることが無理なら守ればいいという選択に共鳴した。

最後に、どうしても聞きたいことがあった。トイアンナさんは結婚してよかったのか、って。尋ねれば、「ああ、それはもうよかったです」と今日いちばんの表情で笑ってくれた。

「好きな人と無限に時間を持てるのは幸せでした。合法的にいちばん傍にいる権利をもらえたことも。きっとこれから3回、4回と結婚することになったって、『結婚はいいよ』って言うんだと思います」

彼女は、離婚してわんわん泣く女になりたかったと言うけれど。その笑顔がどうしても悪いものには思えなかったから。

私はいつか、フラれても笑える強い女性になりたい。

(取材・文:井田愛莉寿/マイナビウーマン編集部、撮影:浦田大作)

※この記事は2018年02月28日に公開されたものです

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