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【#7】「産まないと後悔」よりも今の気持ちを大事に。子どもは持たず愛犬と暮らす綾子さんの場合・後編

#母にならない私たち

月岡ツキ

高橋千里

“子どもを持たないこと”を選択した既婚女性への匿名インタビュー連載「母にならない私たち」。その決断をした理由や、夫との関係性、今の心境など……匿名だからこそ語れる本音とは?

結婚するかしないか、子どもを産むか産まないか。女性に選択肢が増えたからこそ、悩んでしまう時代。本連載では、子どもを持たないことを選択した既婚女性に匿名インタビューを実施。

「どうして子どもを持たないことを選択したの?」「パートナーとどう話し合った?」「ぶっちゃけ、後悔してない?」……などなど、顔出しでは言えないような本音まで深掘りします。聞き手は、自身もDINKs(仮)のライター・月岡ツキ。

フリーランスデザイナーの志田綾子さん(仮名/39歳)は、夫と愛犬のマックスくん(仮名)とともに都内在住。いわゆる“DINKWADs”(※)である。

※DINKWADs(ディンクワッズ)とは……「DualIncome,No Kids,With a Dog」の頭文字を取った言葉。結婚して子どもを持たず、ペットを飼っている共働き夫婦のこと

子どもを持たない選択について、「無理な理由づけはしたくない」という綾子さんだが、親戚などから「後悔の予言」をされることがあるそう。

子育てしにくい現代社会や、子どもを持ちたいと思えない若い女性たちに対して、思いを伺った。

前編の記事はこちらから

https://woman.mynavi.jp/article/250326-3_12000673/

「子育てしたい」と思える好条件がそろったら……?

もうすぐ40歳ですが、妊活の焦りはないですね。

夫と時々「子どもがいたらこういう教育が良いのかな」などと話すことはあります。でも、それも感情的な後悔や焦りから出ているわけではなく、お互いの考え方や価値観を推し図る話題の一つとしてとらえています。

たとえ血のつながった子どもがいなくても、養子を迎える可能性だってありますし、あくまで「人生の選択肢の一つ」として、仮定の話をしている感じですね。

周りの友達を見ていると、子育てしながら仕事でキャリアを積んでいくのは、私には無理だっただろうな、と思います。子どもがいたらいたなりにがんばったとは思いますが、体力的にも経済的にも厳しそうだなと。

私は時間的にも経済的にも、暮らしにゆとりが欲しいタイプなんだと思うんです。受験勉強の時も徹夜はせずに眠りたい人間でしたし、自分のペースが守られていることが、私にとってはとても大事なんです。

もし仮に、出産にまつわるリスクが全て取り除かれて、経済的にも余裕があって、夫も子育てに十分時間を割くことができて……という条件下だったら、子育てをしてみても良いと思えるかもしれません。

でもそんなの現実的じゃないし、それら全てがそろっても、やっぱり産み育てたくないと思うかもしれません

経済面やケア人材の不足など、子育てに関わる現実的な課題は、社会みんなで解決すべきものだと思います。そこが解消すれば、子どもを持つことに前向きになる人は増えるかもしれない。

私も、良い環境が整えば、子どもを欲しいと思うかもしれない。でも、人間なので、条件面がすべて良い方向に整ったとしても、気持ちの面で、やっぱり子どもを欲しくないと思う人もいるでしょう。

「後悔の予言」をされても困る

実子を授かるリミットは近づいてきているわけですが、私の暮らし方を知った親戚などから「産まないと後悔するよ」と言われることもあります。

これって、言われてもどうしようもなくないですか? 今欲しいと思っていないのに、あとから後悔すると言われても……っていう。「今はこのケーキが食べたくないって言うけれど、あとから食べたくなるかもしれないよ、後悔するよ」と言われても困るのと同じ。

しかも、妊娠は女性にとって命懸けの行為でもありますし、子どもが生まれたら、その子の命を守らなければいけません。「今、経験しとかなきゃ後悔するよ!」というテンションで言われても、「じゃあ一回経験してみよう!」という軽いノリで決められないですよね。

だからこそ、特に女性は、「今現在の自分の気持ち」を優先することが大切だと思うんです。

この「後悔の予言」をされたとき、地域や世代によってはまだそういうことを言う人もいるんだなあと、自分や周りの人たちとのギャップを感じています。女性は母親になって然るべきだと思っているんですよね。

私の母も、「女とはこうすべき」「母親とはこうすべき」という風潮に縛られていたのかもしれません。異性との交際には反対するくせに、「将来は絶対に結婚して子どもを産んだ方がいい」とも言っていたので、ずっと矛盾を感じていました。

私の親のような、今60代後半から70代くらいの世代って、成長とともに少しずつ「女性の自立」が叫ばれ始めてきた世代ですよね。でも実際に仕事でキャリアを積めるかといったらそうではなく、結局専業主婦になる人が多かったと思います。

私の母は一人で働いて私を育ててくれたので、「良き母でありたいけど、男並みに稼がなければいけない」というダブルバインドに苦しめられていたのかもしれません。

そうやって、母のことを責めるのではなく、客観的に考えることで、母個人を恨まないようにしたいなとは思います。

育て方の価値観が違うのは「犬育て」も同じ

そもそも、日本の子育てのハードルが上がりすぎていると思います。日本で親をやっている人は、子どものために全てを完璧にしないと咎められてしまうような空気を感じます。

北欧の大学に行った知人がいるのですが、現地には幼い子どもを何人も育てながら学生をしている親がわりといると聞きました。日本だと「子どもはどうしてるの?」「仕事しなくて大丈夫なの?」と責められてしまいそうですよね。

海外の制度が全部良いとは思わないですが、少なくとも日本には「親になったら自分の人生は後回しにして、子育てに尽くさないといけない」という雰囲気があると思いますし、それが親になることへのハードルを上げている側面は少なからずあるのではないでしょうか。

「責任」という言葉の元、みんなで疲弊しているのではないかと。

昔は「子育てはこうすべき」という像が一つだったのかもしれませんが、今は情報が多すぎて、逆に自分で調べたり選んだりしなければならないプレッシャーもありそうです。

実は、犬の育て方もいろんな情報がありすぎて、流派ごとに議論が対立して、SNS上で炎上することもあるんですよ。例えば「留守番をさせてはいけない派」と「適度に留守番させた方が自立心が育つ派」の対立とか。

あと、10人のトレーナーがいたら10人が良いと言うしつけの方法を試してもうまくいかなくて、「私のやり方が悪いのかな……」と自己嫌悪に陥ったり。

ちゃんとしてない飼い主だと思われたくなくて、周りの目を気にしてしまったりするのも、なんだか人間の子育てと似てますよね(笑)。

“今の感情”を犠牲にすると後悔する

「今は子どもを持ちたくないけど、将来後悔するのではないか?」と悩む若い人には、将来の不安を予想するよりも、今の自分がどうしたいかを大切にして欲しいと思います。

今の自分がやりたかったらやるし、やりたくないならやらない、で良いのでは。逆に自分の今の感情を犠牲にする方が、よほど将来後悔するんじゃないでしょうか。

「子どもがいないと将来寂しいよ」みたいなことを言う人もいますが、寂しさを埋めるために子どもを持つのは違うと思います。子どもが将来寂しさを埋めてくれるかといったら、私と母のような事例もあって、そうとも限らないですし。

マックスを迎えてから、私たち夫婦の生活は変わりました。今までよりも一層、些細な瞬間がとても幸せに感じられるんです。

仕事の合間にふと目をやると、マックスが気持ちよさそうに昼寝をしていたり、お気に入りのおもちゃをくわえて「遊ぼう!」と誘ってきたり。忙しくて余裕が無い日でも、ふわふわであたたかい体を撫でているだけで、とても心が安らぎます。

子どもを持つことを考えたとき、将来「もしあのとき産んでいたら……」と思う可能性はゼロとは言えません。でも、それは子どものことに限らず、人生のあらゆる場面でついて回るもの。

「もしあのとき違う仕事を選んでいたら」「もしあのときあの場所に住んでいたら」──そう考え出したらキリがありません。

だからこそ、私は「今この瞬間」を大切にしたい。マックスと夫と三人で過ごす、今のこの時間が幸せだと感じられるなら、それが私たちにとっての正解なのだと思っています。

ただ、自分が死ぬ時にどのように死ぬのかは私自身も未知で、正直不安はあります。

今までは、子どもたちや“嫁”が家にいて、老いた人の世話をする前提でさまざまな社会制度ができていたんだと思います。だけど現にそのシステムが崩壊してきている以上、私たちはどのように人生を終えればいいのか? という課題は、ずっと考えています。

老いたあとに寂しくならないように、何かしらの新しいコミュニティや共同体があったら良いのかなとは思います。子どもがいる人だって、老いたあとも子どもと一緒に暮らせるとは限らないので、家族以外の繋がりって誰にでも必要だと思うんですよね。

かといって日本の旧来の地域コミュニティは無くなりつつあるし、無宗教派にとっては、教会やお寺で集まるような宗教コミュニティがあるわけでもないから、既存には無い仕組みを作る必要がありそうです。

今後の数十年で、みんなで助け合って暮らせるコミュニティを作ったり、見つけたりできたらいいな、というのが目下の私の目標です。

インタビュー後記(文:月岡ツキ)

私も含め、子どもを持たない理由を「言語化」し、自分の考えやスタンスを理解したりされたりすることが必要だと思っている人は多い気がする。しかし綾子さんが「無理に理由づけはしない」と言っていたのは目から鱗だった。

自分の気持ちを「言語化」してしまうのは、ある種「楽になるため」の行為でもある。「aだからbなのだ」とすることで、自分の立ち位置が定まったような気がして救われたりもする。

反面、そのスタンスに自分自身でハマりにいってしまって、「実はそうとも言い切れない部分」を切り捨ててしまっている……なんてこともあるのではないか。

私は『産む気もないのに生理かよ!』(飛鳥新社)という本を書いて、自身の子どもを持ちたいと思えない気持ちの「言語化」を試みた。

しかし、裏を返せば「子どもを持ちたいと思えない」という気持ちは、本1冊にしてようやく言葉にできるような複雑かつ複合的な理由の集合体であり、一言で説明できるようなものではないのである。

ああかもしれないし、こうかもしれない、やっぱりこうなのかもしれないと、客観的に自身のスタンスについて話してくれた綾子さんは「こんな話で記事になりますか……?」と心配してくれた。

しかし、人の心や選択の理由はそう簡単に白黒はっきりつけられない。むしろその曖昧さや決めきれなさを抱えたまま生きるというのは、忍耐がいることだ。これが人として重要な「学び」以外の何であろうか。

そして、「子どもを持たない理由」は「子どもを持つ理由」と同じように、本来であれば事細かく言語化して説明できなくても良いはずなのである。ピーマンが嫌いな理由の説明を求められないのと同じように。

「言語化」し「理由づけ」することで救われることもあれば、そうしないことで生まれる視野の広さや懐の深さもある。綾子さんの話を聞いて、やはり人として成長するかどうかと子どもの有無は関係が無いのだと思えた。

(取材・文:月岡ツキ、イラスト:いとうひでみ、編集:高橋千里)

※この記事は2025年03月27日に公開されたものです

月岡ツキ

1993年長野県生まれ。大学卒業後、webメディア編集やネット番組企画制作に従事。現在はライター・コラムニストとしてエッセイやインタビュー執筆などを行う。働き方、地方移住などのテーマのほか、既婚・DINKs(仮)として子供を持たない選択について発信している。既婚子育て中の同僚と、Podcast番組『となりの芝生はソーブルー』を配信中。創作大賞2024にてエッセイ入選。2024年12月に初のエッセイ集『産む気もないのに生理かよ!』(https://amzn.asia/d/7nkb2q6)を飛鳥新社より刊行。
X:@olunnun
Instagram:@tsukky_dayo
note:https://note.com/getsumen/

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高橋千里

高橋千里(たかはし ちさと)

2016年にマイナビ中途入社→2020年までマイナビウーマン編集部に所属。タレントインタビューやコラムなど、20本以上の連載・特集の編集を担当。2021年からフリーの編集者として独立。『クイック・ジャパン/QJWeb』『logirl』『ウーマンエキサイト』など、紙・Webを問わず活動中

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