【#5】“子どものいない人生”どうだった? バブル期を生き抜いた56歳・佐都江さんの場合・後編
“子どもを持たないこと”を選択した既婚女性への匿名インタビュー連載「母にならない私たち」。その決断をした理由や、夫との関係性、今の心境など……匿名だからこそ語れる本音とは?
結婚するかしないか、子どもを産むか産まないか。女性に選択肢が増えたからこそ、悩んでしまう時代。本連載では、子どもを持たないことを選択した既婚女性に匿名インタビューを実施。
「どうして子どもを持たないことを選択したの?」「パートナーとどう話し合った?」「ぶっちゃけ、後悔してない?」……などなど、顔出しでは言えないような本音まで深掘りします。聞き手は、自身もDINKs(仮)のライター・月岡ツキ。
千葉佐都江さん(仮名/56歳)は、フリーランスのWEBディレクター。40代になってから結婚するも、妊娠は難しいことが判明し、程なく“閉経”を迎えた。もう子どもを授かることはないと一時は落ち込んだものの、現在は仕事に推し活に充実した毎日を送っているという。
時間が戻せるとしたら? 若い世代の女性に伝えたいことは? 子どもを持たない人生を送ってきた今、思うこととは。
閉経を一緒に笑い飛ばせる女友達がいてよかった
閉経したのは、47歳のとき。平均よりは比較的早いタイミングでした。
生理が毎月来ていたときは、旅行中に急に始まってしまったり、貧血になったりと、それはそれで大変だったのですが、終わってしまったら複雑な気持ちでした。生理の煩わしさから解放された一方で、「これで完全に妊娠ができなくなった」ということなので。
でも、女友達と「(生理が)上がっちゃったよ〜」なんて笑い話にしていたら、その翌月に友達も「私も上がったわ」なんて言ってくるもんだから、また二人で大笑いして。そんな風に、あまり深刻に捉えずにいられたのは良かったです。持つべきものは女友達ですね。
いざ「子どもを持たずに生きていく」ことになって、やっぱりモヤモヤした気持ちはありました。そんなとき、体調を崩していたときからお世話になっていた精神科の先生が「どうやって夫婦二人で年を取っていくか、前向きに考える生活に切り替えてみてはどうですか」と言ってくれて、すごく楽になりました。
「子どもがいたらどうだったかな」「不妊治療を頑張ってみたら良かったのかな」と考えるよりも、これからの人生をどうやって充実させていくかを考えよう! という思考になってから、人生の方向性が定まった気がします。
時間を戻せるとしても、同じ道を歩く
今は夫も仕事が忙しく、二人の時間はあまり取れていないのですが、「毎日一緒に料理する」ということだけは決めてます。
私がメインで食事を作るのですが、夫にもいつも手伝ってもらっています。「お茶碗取って」とか「大根おろして」とか。あまり本人には言いませんが、この時間はすごく貴重で、大切にしたいなと思っています。
夫は家事もやってくれるし、真面目で優しい。交際期間を含めたらもう20年近く一緒にいるので、そりゃあ言いたいことも山ほどありますが、おおむね仲良く暮らせているのはありがたいですね。
もう一つ大切にしたい時間は、姪と一緒に楽しむ“推し活”です。姪は今アラサーで、ちょうど私に娘がいたらこれくらいの年齢かな、という年頃。
彼女が学生の頃から一緒に遊んでいるのですが、今は二人とも共通の「推し」がいて、一緒に現場に行ったり、推しの話をしながらご飯を食べたりするのがすごく楽しいんです。
大阪や九州まで二人で遠征することもあるので、旅行気分で楽しんでいます。夫も姪のことを昔からとてもかわいがっていて、私たちにとっては娘みたいな存在です。
会社員としてバリバリ働いていた時期を経て、フリーランスの仕事をしながら推し活を楽しむ今の生活は、結構気に入っています。
「自分は子どもを授かる可能性がとても低い」という事実に直面したときは落ち込みましたが、周りに相談できる人たちがいたから前向きでいられたような気がします。
友人たちも、私が結婚や子育てをしているイメージがあまり湧かないようで、「子どもは?」などと言ってくる人はいなかったですね。私はどうやらそういうキャラではないみたいです。
「もし自分に子どもがいたら……」と考えることもありますが、それはそれで大変だったと思うし、自分にとってはやはり「母親になっている自分」は現実味がないんです。今のこの人生を、良くも悪くも「こんなもんかな」と受け入れられています。
時間を戻せるとしても、きっと同じ道を歩くでしょうね。私は仕事人間の母親に育てられて寂しい思いをしましたが、もし私が母親になっても、きっと同じことをしてしまうと思う。
仕事が一番で、子どもは二の次になってしまうことが目に見えている。だから、これで良かったんです。
若い女性たちに伝えたい「決めすぎない」ことの大切さ
私は40代になってようやく仕事をペースダウンして、子どもを持つかどうか考える余裕ができました。でも一般的に、身体的に出産や子育てが適しているのは20代〜30代半ば。このギャップがどうにかならないと、なかなか妊娠・出産は難しいのではないかと感じます。
ただでさえ私たちの世代は「男に負けるな」「生理なんかで仕事を休むな」という風潮が強かったので、子育てのために仕事をセーブしたり、周りにカバーしてもらったりしながらキャリアを築くということは、やっぱり難しかったでしょう。
正直に言えば、周りにフォローしてもらいながら子育てと仕事を両立させている今の若い人たちを見ると、「私たちの時は我慢しなきゃいけなかったのに……」と複雑な気分になることもありますよ。
一方で、後輩たちから将来のことや妊娠・出産について相談されることも増えてきました。そういうときは「もし今後子どもが欲しいと思った場合のために、卵子凍結などを含めたいろんな選択肢を、若いうちから考えておくのはいいかもね」と話しています。
「こうしなきゃ」とか「こうすべき」と自分を縛らないで、その時の自分の感覚を大事にして欲しいです。「結婚して子どもを持たなきゃいけない」とも「子どもを持たずにバリバリ働かなきゃ」とも、決めすぎない方がいい。
常にいろんな選択肢を持ちながら、その時々で移り変わっていく自分の気持ちを大切にして欲しいですね。
インタビュー後記(文:月岡ツキ)
佐都江さんは終始明るい方で、妊娠が難しかったことも閉経のことも、とてもカラッと話をしてくれた。
「子どもを持たない人生で本当にいいのだろうか?」と現在進行形でためらってしまう世代にとっては、子なしの人生の先輩が日々楽しそうにしてくれているのは希望だ。「時間が戻せるとしても同じ道を行く」「この人生を受け入れている」という言葉が心強かった。
一方で、現代の仕事と子育てを両立している女性たちに対して複雑な気持ちがあるのも、ある意味当然のことのように思えた。
佐都江さんたちの時代では、仕事か家庭(結婚と子育て)は二者択一で、前者を選ぶなら「これだから女は」と言われないように、男性以上に身を削る必要があった。そういう時代に戦ってくれた女性たちがいたから、今の私たちには少しずつ選択肢が広がってきている。
しかし、そういう「戦った女性たち」一人ひとりにも当然ながら人生があり、得たかったものや失ったものがある。“時代を切り開くための犠牲になった世代”としてひとまとめに扱いたくはない。
そういう複雑な気持ちを少しずつ飲み下しながら、姪や仕事で出会った若い世代の女性と関わり合って暮らせるのは、佐都江さんの強さだと思った。
私がもっと年を取ったとき、子どもを持つかどうかでこんなに悩む必要がない世界になっていてほしい。一方で、私が苦悩したことを少しも悩まなくて済んでいる若い女性たちに、どのように接することができるだろう、とも考える。
少しの寂しさを感じるかもしれないけれど、それでも私たちの苦悩を次の世代に引き継ぐよりも、ずっといいと思う。
(取材・文:月岡ツキ、イラスト:いとうひでみ、編集:高橋千里)
※この記事は2025年01月25日に公開されたものです