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将来の妊娠に影響? 20~30代女性が考えたい「プレコンセプションケア」を産婦人科医が解説

古賀文敏

マイナビウーマン読者のみなさんは、将来の妊娠について考えたことがありますか? 「将来結婚したいし、子どもが欲しい」という方も、「結婚するかわからないし、子どもを持つかどうかわからない」という方も、今からでもできる「プレコンセプションケア」という考え方があることはご存じでしょうか。今回は、古賀文敏ウイメンズクリニック院長の古賀 文敏先生に、独身のうちから考えておきたい「プレコンセプションケア」について解説していただきます。

4.4組に1組が不妊治療や不妊検査を受けている

みなさん、はじめまして。古賀文敏ウイメンズクリニック院長の古賀と申します。今回は、独身のみなさんにも今からぜひ考えておいてほしい「プレコンセプションケア」という考え方についてご紹介します。

早速ですが、初めに日本の不妊治療や不妊検査の現状について知っていただければと思います。結婚や出産を具体的に考えるのはこれから、という女性にとってはピンとこない数字かもしれませんが、実は日本は不妊大国と言われており、4.4組に1組が不妊治療や不妊検査を受けています。

その他にも、日本は以下のような現状をかかえています。

  • 働く女性の4~5人に1人が不妊治療で退職
  • 年間約45万件の体外受精が行われている(アメリカは約26万件)
  • 14人に1人が体外受精で誕生
  • 40歳で出産される方の3分の1が体外受精

避妊をしなければ、すぐに妊娠でき、元気な赤ちゃんを出産できると思われている方も多いかもしれませんが、このように、実はそうでないことも多いのです。

広がるプレコンセプションケアという考え方

将来、結婚・出産を考えている若い世代の方が、未来の自分や赤ちゃんのために、今からできることの一つが「プレコンセプションケア」です。

プレ(Pre)は「〜の前の」、コンセプション(Conception)は「受精・懐妊」という意味で、プレコンセプションケアとは、「将来の妊娠を考えながら、女性やカップルが、自らの生活や健康に向き合うこと」を意味する言葉です。

若い世代の健康を増進し、より質の高い生活を実現してもらうことで、より健全な妊娠・出産のチャンスを増やし、次世代の子どもたちをより健康にすることが目的の一つです。

2006年には、米国疾病管理予防センター(CDC)が「プレコンセプションケアの10の主要な指標」を発表しています。

1.多量飲酒
2.うつ
3.糖尿病
4.葉酸摂取
5.高血圧
6.適正体重
7.運動
8.喫煙
9.望まない妊娠
10.産後の効果的な避妊

さらに、2012年にはWHOがプレコンセプションケアを「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と定義しています。

近年、日本でもプレコンセプションケアという言葉を耳にする機会が増えてきましたが、このように、海外ではだいぶ前からプレコンセプションケアが重要視されていました。医療制度の違いもありますが、ヨーロッパでは、家庭医というものが根付いており、生理が始まったら医師と自分の体について話し、自分の体を知っていくというのが当たり前です。一方、日本は病気になって初めて産婦人科にいき、自分の体について知る女性が多いと思います。

こういった背景もあり、これまでは結婚や妊娠を考えはじめる前の女性がプレコンセプションケアを考える機会はほとんどありませんでしたが、2021年に日本で初めて福岡市がAMH(卵巣予備能検査)という残りの卵子の数を調べる検査をワンコイン(500円)で受けられるという取り組みを始めるなど、少しずつ動きがでてきています。

妊孕率は35歳を境に下がっていく

女性が子供を妊娠し、健康的に出産することができる率を表す「妊孕率(にんようりつ)」は、「35歳頃から下がっていく」という事実をご存じでしょうか。

実は、世界の中でも日本人はこういった「妊娠能力」についての知識レベルが低いという結果が出ています。

学校で避妊については授業で教えてくれますが、妊孕率の話までしてくれる学校はほとんどないと思います。実際、私のクリニックの患者さんも、不妊治療をするようになってから、はじめて知ったという方も少なくありません。

ただ、35歳になるのはあっという間ですよね。学校を卒業して働き始め、仕事が楽しくなってきた頃には、このくらいの年齢になっているのではないでしょうか。当然ながら、結婚や妊娠・出産は個人によって希望するタイミングもちがうはずです。

ただ、女性の場合、どうしても年齢と妊孕率や胎児に異常があらわれる確率、出産に伴うリスクは関係してきます。

そこで意識したいのがプレコンセプションケアです。日ごろから体調管理等に意識を傾けることで、結婚して妊娠したいと思った時に、これらのリスクを低減できることもあります。

妊娠する前から意識することで対策できることも

日常生活で気をつけるべきこととして、まずは栄養面について紹介したいと思います。

例えば、プレコンセプションケアの一つとして重視されている「葉酸」は、胎児の神経管閉鎖障害のリスクを低減できるとして、日本でも厚生労働省がサプリメントからの摂取をすすめています。ただ、妊娠に気づくころには形成されており、妊娠がわかってから飲み始めるのでは少し遅いのです。

近年の研究で、葉酸が充足していると、それ以外にも

  • 生殖補助医療の成績が上がる(着床率、臨床妊娠率、生児出生率が高い)
  • 自然流産を低減させる
  • 産後うつのリスク軽減する

といったことがわかっています。

妊娠を考えはじめる年齢になったら、葉酸は意識するとよいでしょう。

また、摂取したほうがいい栄養素でいうと、「ビタミンD」や「ラクトフェリン」も意識的に摂取するとよいです。

ビタミンDは、これまでも腸や腎臓からのカルシウム吸収に関わるため、欠乏すると骨の軟化がおこり骨軟化症やくる病になることはよく知られていました。

そして、最近では乳がんや大腸がんの予防にも一役買っていることがわかってきました。また、多くの方に関係するかもしれませんが、花粉症などのアレルギー疾患を予防することもわかってきており、今、アメリカでは売れ行きナンバーワンのサプリのようです。

免疫にも関係しているため、元トランプ大統領がコロナ感染した際にビタミンDと亜鉛をまず内服していたとも報じられていましたね。

ビタミンDの血中濃度は30ng/ml以上を理想としますが、当院の患者さんは実に95%の方が不足していました。コレステロールを原料として紫外線をあびると体内でビタミンDは作られるのですが、不足している方がこれほど多いということは、それほど日本人は紫外線対策ができているということかもしれません。

なお、ビタミンDは、妊娠しやすさや流産予防にも効果があることがわかってきており、不妊治療や妊活中の方、妊娠中の方はすぐにでも取り入れていただきたい栄養素です。

色々な栄養素を知ると、つい色んなサプリを摂りたくなってくるかもしれません。なんとなく体調が優れない、疲れやすい、肌つやや髪が気になる……。でも逆説的に言うと、サプリを摂るだけで元気になるのは、健康だからなのです。つまり栄養は、何を摂るかと同時にどれだけ吸収できるかが大事なのです。

そこで重要になってくるのが胃腸です。流行りの腸活ですね。

腸を健やかに保つには、まず余分なものを入れないことが大切です。その余分なものの最たるものが食品添加物です。食品添加物が沢山入った加工食品はなるべく避けるようにしましょう。

そして、良い油や和食によくあるような発酵物をとるように心がけてください。また、腸はゆったりした気持ちになると動くので、なるべくストレスを抱え込まないことが大事です。

さらに腸の中の悪玉菌を増やさないという意味では、余分な鉄を吸収して免疫を調整してくれるラクトフェリンという栄養素が効果的かもしれません。初乳に多く含まれ、赤ちゃんをウイルスなどから守ってくれる働きがあるので、小さく生まれた早産児には特にお母さんからの初乳が大事です。

腸内フローラ(菌の集まり)が私たちの健康に関わってきていることがわかってきていますが、近年、妊娠が上手くいくために、子宮内フローラが関わっていることが研究発表されました。良い受精卵なのになぜか着床しない。そんな時に子宮内フローラが異常だったということがわかってきています。通常、子宮内は「ラクトバチラス」という乳酸菌がほとんどを占めているはずなのですが、その乳酸菌が少なかったり、悪い菌がいたりするということです。子宮内フローラが良くなかった場合の治療にラクトフェリンは大事になってきます。

なお、現在、子宮内フローラを調べる検査は先進医療となっており、2022年に保険診療となった体外受精の取り組みの中で子宮内フローラの検査を受けても混合診療とならず、体外受精は保険が適用されます。

赤ちゃんの健康にもつながる生活習慣病

妊娠する時期の体はものすごく大事で、この時期の健康状態が赤ちゃんの体内記憶に組み込まれていくことがわかっています。ナチスドイツに占領されていたオランダでは、妊娠中かなりの低栄養だったお母さんから生まれた赤ちゃんはその後糖尿病や高血圧などの生活習慣病になりました。体内にいるときに飢餓状態を感じて、生まれてからなるべく栄養を吸収しようとして体重が増えてしまったのです。

また、その他にも

  • 妊娠中に高血圧になった方は将来高血圧になりやすく、その方の赤ちゃんも将来高血圧になりやすい
  • 糖尿病既往のある女性にプレコンセプションケアを行った結果、血糖値をコントロールすると赤ちゃんの奇形や早産、妊娠中の死亡リスクが抑えられた
  • 高血圧や太りすぎ、タバコなどは妊娠・出産においてはよくない

といったことがわかっています。

これらは遺伝とは別で、「エピジェネティックス」といって妊娠中の健康状態がお子さんの遺伝子を調整しているためです。だからこそ皆さんの健康状態は決して自分だけの問題ではないのです。

今の日本人女性は少し痩せすぎでは? と言われています。妊娠のためにはもう少し体重があったほうが良いのです。プレコンセプションケアとは、つまり妊娠前の自らの健康を見つめ直し、色々な検査で自らを知り、必要に応じて栄養の取り方を変えること、そしてこれからの人生を想像することだと思います。

まずは、日々の生活を見直し、ご自身の健康に意識を向けてみてください。

※この記事は2023年08月30日に公開されたものです

古賀文敏

古賀文敏ウイメンズクリニック 院長

・略歴
1996年 大分医科大学(現大分大学)卒業、久留米大学産婦人科入局
1999年 国立小倉病院周産期病棟医長
2004年 久留米大学病院不妊・内分泌部門主任
2007年 福岡市中央区大名に古賀文敏ウイメンズクリニック開院
2014年 福岡市中央区天神に移転・拡張、胎児診断部門併設
2021年 事業構想大学院大学卒業、事業構想修士(MPD)

日本生殖心理学会理事長、日本レーザーリプロダクション学会副理事長、
日本IVF学会理事、日本受精着床学会評議員、日本生殖内分泌学会評議員

・資格
日本産科婦人科学会専門医、日本人類遺伝学会専門医、
福岡大学産婦人科臨床教授

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