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犬山紙子が考える「性の主体性」とは

#犬さやの遠吠えやってまーす!

犬山紙子

エッセイスト・TVコメンテーターとして活躍する犬山紙子さんが、恋愛・人間関係・趣味などあらゆるテーマで語るラジオ『犬山の遠吠え!やってまーす』。本連載では番組内のトークを言葉にし、音声と共にお届けします。今回は2020年8月28日放送分から。

『犬山の遠吠え!やってまーす』今回の番組トーク音声はこちら

こんにちは、犬山紙子です。

最近、週刊少年ジャンプで連載中の『チェンソーマン』の展開に毎回「ヒーッ!」てなってます(笑)。

ネタバレになるから何も言えないんですが『チェンソーマン』はこれまでの少年漫画のお約束を全部ぶったぎっている感じがして。「えーっ!?」の連続。これからも私たちの予想外の展開を描いてくれると思います。最高に面白いので、このまま楽しませてもらいます。

『アクタージュ』原作者逮捕の報道

ジャンプ作品といえば、やっぱり『アクタージュ』についてですね。

週刊少年ジャンプに『アクタージュ』という漫画が掲載されていたんです。作画担当の方と、原作者の方の2人で作られていた作品で。

先日、原作者の方が性犯罪で捕まったというニュースが報道されました。路上で女子中学生にわいせつな行為をして、作品が打ち切りになったんですよね。

それに対して、作画担当の宇佐崎しろ先生がTwitterで発信した文章が、本当に素晴らしくて。これがスタンダードであってほしい、と思わされました。

宇佐崎先生はこの一件で、ジャンプでの連載という大きな仕事をなくされているわけですよ。しかし被害女性のことを第一に考えていらっしゃる文章でした。

「性犯罪によって受けた傷は自然に癒えるものではありません。この先も似た身なりの人とすれ違うたびに身体が強張り、足早になり、夜道を歩くことに恐怖を覚え、被害に遭われた方の人生に本来必要なかったはずの緊張と恐怖をもたらします。『アクタージュ』という作品そのものを見ることによってそれらが誘発されたり、苦痛を与える原因になる可能性を考慮して、作品の終了は妥当だと判断しました」

まずは被害者女性にしっかりと寄り添われている。そして、ここからが本当に大切なところ。

「作品が終了するのは被害に遭われた方のせいではありません。被害に遭われた方が声を上げたこと、苦痛を我慢して痴漢行為や性犯罪に対して泣き寝入りしなかったことは決して間違いではありません。正しいことが正しく行われた結果です。その勇気と行動を軽視したり、貶めたり、辱めるような言葉でさらに傷つけることは、あってはならないことだと思います」

例えば『アクタージュ』という作品を愛するあまり、「それくらいでこの作品がなくなるなんておかしいんじゃないか」などの言葉を投げ掛けるファンの方がいたとしたら、それは絶対にやめましょうというメッセージも含まれていますよね。

これがあるべき姿だなと思いました。そして、宇佐崎先生を心底尊敬します。私もジャンプ読者の一人ですが、被害に遭った方が二次被害に遭うことなく、心穏やかになれる日が早く訪れてほしいなとすごく感じています。

「性の主体性」を持つのは良くないこと?

このラジオを聴いている方の中にも、性別関係なく、性被害に遭ったことがある方っているんじゃないでしょうか。

私は中学生時代、痴漢されたことがあります。兵庫の新三田駅から宝塚駅に向かう福知山線に乗って電車通学していた時のことでした。

当時の私は体も小さくて、どう見ても子どもっぽい身なりで。NOと言わなそう、騒がなそうな雰囲気だったし、きっと狙いやすいですよね。そんな私が、電車通学中に痴漢に遭ってしまったんです。それも1回だけじゃなく。

実は自分だけではなく、同じ学校の同級生の女の子も泣いて登校してたんですよ。「どうしたの?」と聞くと、「痴漢に遭った」と。

中には、泣けない、人に言えない子もいるんです。私も人に言えないタイプで、もし言って「自分のことかわいいって思ってるの?」とか嫌な言葉を返されたら怖いなと思って。だから、「実はあの時、痴漢に遭ってた」と人に言えるようになったのも、30歳を超えてから。

被害に遭った時に適切なケアをせず、とりあえずふたをして、なかったことにしていたんです。

だけどそのせいで、“自分の体”・“自分の性”というものが他者に決定権があるものだって自分の中に植え付けられてしまったんですよね。

だから、自分の性に自信なんてまるでなかったし、主体性を持つことは良くないことなのかなと思って生きてました。

だから性被害に遭った方がいたら、絶対に石を投げない。責めない。相手の話をきちんと聞いてケアすることが、その方の今後の人生にとっても大切なことだなって思います。

犬山紙子が救われた作品

私が痴漢被害に遭ってから数年後、小説家・山田詠美先生の作品を読んで思ったことがあります。

山田先生の小説には、自分の意思で恋愛をしてセックスをする、主体性のある女の子が描かれているんです。

「自分の性は自分で決めていい」って当たり前の話だと思うんですけど、当時の少女向けの作品は恋愛に受け身な女の子、自分の体は相手に求められるから差し出すものだって描かれている印象が強かった。

だから山田先生の作品を読んで衝撃を受けたし、そういう女の子をかっこいい、憧れるなあと感じました。

大人になって「あの時、山田詠美先生の本を読んで本当に良かったな」と思い、女友達にそれを話すと「分かる! 山田先生の本、良いよね!」と盛り上がったこともあります。

痴漢をされて傷ついたけど、山田先生の作品で救われた、という話でした。

ラジオ番組『犬山の遠吠え!やってまーす』最新のトークはこちら

毎週木曜日、深夜0時30分からMBSラジオ(AM1179/FM90.6)で放送する他、アプリやネットで楽しめる「radiko」でも生配信。また、過去の放送は音声配信サービス「Radiotalk」で聞くことができます。

※この記事は2020年10月24日に公開されたものです

犬山紙子

1981年生まれ。エッセイスト。美人なのになぜか恋愛が上手くいかない女性たちのエピソードを綴ったイラストエッセイ『負け美女』(マガジンハウス)で作家デビュー、女性観察の名手として注目を浴びる。SPA!やananなどで連載中。「スッキリ!」、「みんなのニュース」などコメンテーターとしても活躍する。

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