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アイドルだった私がミュージカルの世界で生きるまで。ソニン流・人生の切り拓き方

太田 冴

マイナビウーマンのコア読者は“28歳”の働く未婚女性。今後のキャリア、これからどうしよう。結婚、出産は? 30歳を目前にして一番悩みが深まる年齢。そんな28歳の女性たちに向けて、さまざまな人生を歩む28人にインタビュー。取材を通していろんな「人生の選択肢」を届ける特集です。

取材・文:太田冴、撮影:洞澤佐智子、編集:高橋千里/マイナビウーマン編集部、スタイリスト:Die-co★、ヘアメイク:井手真紗子

『おっととっと夏だぜ!』、『カレーライスの女』――。

そのパワフルな歌声とインパクトのある世界観で、2000年代に一躍人気者となったソニンさん(37歳)。

つんく♂プロデュースのダンスボーカルユニット「EE JUMP」として17歳で歌手デビューを果たした彼女は、今年デビュー20周年を迎える。今やミュージカル界に名を馳せる大人気女優だ。

「このままじゃ私、ずっと苦しんじゃうなって思ったんです」

20代でぶち当たった壁、強行突破でつかんだニューヨーク留学。今の輝きを手に入れるまでの紆余曲折について語ってくれた。

「アイドル出身の私がいる場所じゃないと思った」

ミュージカルに初めて出演したのは2007年、23歳のとき。女優・大竹しのぶさんの演技に衝撃を受け「同じ舞台に立ちたい」とミュージカルの世界に飛び込んだ。

「それまで、ミュージカルを見たことすらありませんでした。一歩踏み込んでみると、そこは舞台に人生を賭けてきた俳優・女優ばかりの世界。アイドル出身の私がいるような場所じゃないなって思いました」

ミュージカル初出演から13年が経った今も「うまくなりたい」という気持ちを持ち続けて舞台に向き合っている。

「ミュージカルに出たくて演劇の学校に通ったり、専門的な教育を受けたりしてきた人がたくさんいる。その中でメインの役をやらせてもらうんだったら、本当に頑張らなくちゃいけないんだと思いました。

舞台に人生の全部を賭けてきた方たちに失礼のないように、自分のできる限りのことを全力で取り組むことが私なりの誠意だな、と。昔も今も『うまくなりたい、うまくなりたい、うまくなりたい』と思い続けてやっています」

ミュージカルを主戦場にしようと思ったのは、どうしてだったのだろうか。

「アイドルとしてデビューして、バラエティ、ドラマなどいろいろなお仕事をしていたけれど、私はどのジャンルにおいても中途半端だなって思っていたんです。自分がハマっているようで実はどこにもハマっていないように感じられて、こんなふうに続けていいんだろうかとモヤモヤしていました。

でも演劇を始めてからは、需要と供給がカチッと当てはまった感じがしたんです。昔から根底にある音楽の情熱と演じる楽しさを両方感じられる場所だと気付いた瞬間でした」

28歳、強行突破でつかんだNY留学の切符

その言葉通り『ミス・サイゴン』『RENT』『モーツァルト!』『1789 -バスティーユの恋人たち-』『キンキーブーツ』など数多くの人気舞台作品に出演してきたが、華々しいミュージカルキャリアの間にも苦悩はあった。

「舞台中心にやっていきたいと思ったときに、いろんな悩みが重なって意味もなく壁にぶつかっていたんです。20代後半に差しかかり『若い』というカテゴリーからは抜け出して、周りも見え始めたし、自分のやりたいことも分かってきた。けれど、それらを客観視して自分で解く力はまだない、という状態でした」

そんな彼女が考えていたのは、ニューヨーク留学の道だった。

「一人旅でニューヨークに行った時、街を歩いている人たちが人種とか職業とか関係なく堂々と生きている姿を見て、ここに住んだら今わたしが悩んでいることが吹っ切れるかもっていうインスピレーションが湧いたんです。いつか絶対ニューヨークに長期滞在するんだ、という夢を持ちながら働いていました」

舞台出演のオファーがある中での休業・留学。不安はなかったのかと聞くと「一切なかったですね」と笑顔で即答した。

「これで仕事がなくなるんだったら、(留学に)行っても行かなくてもなくなるんだろうと思いました。そんな恐怖より、悩んだり迷ったりしている心の気持ち悪さをどうにかする方が優先でしたね。これを実現させないと、一生後悔するんじゃないか、と思ったんです」

しかし、周囲からは大きな反対にあったという。

「ニューヨークに行こうか迷いながら仕事をしていた期間が3〜4年あったのですが、周囲からはもったいないとかリスキーだとか、いろいろ言われました。でも、反対する人はその間ずっと同じことを言うんです。『今行くべきじゃない』って。こりゃあ永遠に言われ続けるなと思いましたね。みんな、他人だから言うんですよ」

それでも彼女は文化庁の新進芸術家海外研修制度に自ら応募し、1年間の留学への切符を手に入れた。28歳の時だった。

「人の意見を聞いていたらいつまで経っても行けないなと思って、勝手に応募しました。受かったら誰もNOとは言えないはずだ、と」

強行突破でつかんだニューヨーク留学の切符。そこまでするエネルギーは、どこから湧いてくるのだろうか。

「良くも悪くも、忍耐強いんです。デビューしてから、理不尽なことが重なって自分を抑え込んでしまうことが多かった。でも、このままじゃ私はずっと苦しんじゃうなと思ったんです」

「自分で決める道が、自分にとってベストな道」

今年、デビュー20周年を迎えたソニンさん。決して平坦な道ではなかったはずだが、どうしてここまで続けてこられたのだろうか。

「もちろん、ファンの方やお客様がいてくれたから今の私がいる。ただ、ここまで踏ん張ってこられたのは、EE JUMPが解散した時に『自分は諦めない』『自分の気が済むまでこの世界に居続ける』って決めたから。

もう本当に無理です、私これ以上はできませんって言えるところまでやるんだ、という強い気持ちでやってきたのが、今につながっています」

人生に悩む28歳の女性へのアドバイスを、と聞くと力強い言葉をくれた。

「人生っていうのは、何が起きようともあなたにとって一番良い方に進んでいるんです。例えばA・Bという2つの道で迷っているとして、世間的にはAが優等生、Bが劣等生の道だとしても、それはあくまで世間からの評価でしかない。

Aに行こうがBに行こうが、あなたにとっては絶対にベストウェイであることが決まっているんです。だから、とことん悩み抜いてほしい。自分で決める道が、自分にとってベストな道になるはず」

現在、新型コロナウイルスの影響で、ソニンさんが出演する舞台『ウエスト・サイド・ストーリー』Season3の公演ができない状況が続いている。

「今は、ネットで何でも見られるじゃないですか。でも、演劇の魅力って“生”であることなんです。みんなが時間をかけて劇場に出向いて、同じ舞台を見て、同じ時間を共有するって本当にすごいこと。

私たち演者は、命を賭けて舞台に立っています。それを見て、お金を払って良かった、とお客様が思ってくださるのなら、これはもう言葉では説明できない感動がありますね」

感染防止のため、急遽オンラインのビデオ通話で対応してくださった今回の取材。舞台への愛を語るソニンさんのキラキラした眼が印象的だった。舞台公演が再開し、ほとばしるエネルギーを生で感じられる日が待ち遠しい。

INFORMATION

舞台『ウエスト・サイド・ストーリー』Season3

初演から60年以上を経ても愛されつづけている不朽の名作が、360°回転する円盤状の客席を巨大なスクリーンとステージが取り囲む日本唯一の“没入型”エンターテインメント劇場で生まれ変わる! 現代最高峰のクリエイターによって選び抜かれた魅力的なキャストたちが勢揃い。

会場:IHIステージアラウンド東京
公演日程:公式HPをご確認ください

※この記事は2020年05月03日に公開されたものです

太田 冴

ライター/平成元年生まれ。舞台、韓国ドラマ、俳優、アイドルグループ、コスメなどを幅広く愛する雑食オタク。ジェンダー・ダイバーシティマネジメント・メンタルヘルスなどの社会問題にも関心あり。30歳で大学院に入学し、学び直しをしました。

●note:https://note.com/sae8320

●Twitter:https://twitter.com/sae8320

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