お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

愛想笑いはホントに必要? 負担になったらどうすればいいの?

平松隆円(化粧心理学者)

ビジネスパーソンである以上、「愛想笑いをしたことがない」という人は、ほとんどいないのではないでしょうか。場の雰囲気を壊さないため、えらい人の気分をよくするためのスキルとはいえ、愛想笑いってけっこうバレていますし、する側の疲れもたまるものです。今回はこの「愛想笑い」の是非について、心理学者の平松隆円さんと考えていきしょう。

愛想笑い”って、あんまり響きのいい言葉じゃないですよね。意味は「人の機嫌を取るための笑い、おせじ笑い」(『デジタル大辞泉』小学館)、英語ではズバリ、“fake smile”というそうです。

英語にも愛想笑いという言葉があるということは、つまり日本だけでなく欧米にもその習慣があるということです。どうして人は愛想笑いをするのでしょうか。

人はなぜ愛想笑いをするの?

愛想笑い
ひと昔前、外国人から「なぜ日本人は意味もないのに笑うの?」と不思議がられたものですが、英語に “fake smile”という言葉があるように、英語圏の人たちも愛想笑いをしているわけです。

ただ、彼らからすると、それは「作り物、うそっぱちの笑顔」という認識があるからこそ、“fake smile”とよんでいるわけです。

笑顔の種類

愛想笑い
そもそも笑顔に、本物やウソはあるのでしょうか。もっといえば、笑顔とは、そもそもひとつなのでしょうか。

タイという国はよく、“ほほえみの国”なんていわれますよね。ヘンリー・ホームズという人が書いた『Working With the Thais』という本によれば、タイ人にはほほえみ(笑顔)がなんと10種類以上あるそうです。

うれしいから、おもしろいから、楽しいから笑顔になるとわたしたちは考えますが、ヘンリー・ホームズによると、タイ人は“悲しいときにもほほえむ”そうです。つまり、文化や社会が異なれば、笑顔の種類も異なるということ。ですから、愛想笑いがダメなのかといえば、決してそうともいいきれないんです。

喜怒哀楽の表情は普遍的ではない

愛想笑い
またある研究(※)によれば、タイ人から見ると、日本人の“怒り以外の表情”は、怒っている顔にしかみえないそうです。日本人もタイ人も、表情を読み取る能力にちがいはなく、まして10種類以上の笑顔のちがいを読み取れるタイ人が、日本人の表情を読み取れないのは不思議なことですよね。
(※)『顔表情からのネガティブ感情認知における日タイ異文化』(堀本 美都子、米谷 淳)

喜怒哀楽の感情とその表情は、人類に普遍的なものだと、わたしたちは考えがちです。ですが、日本とタイでほほえみの種類がちがうように、喜怒哀楽の表情は普遍的ではありません。日本人の愛想笑いを理解できないという欧米人がいても、当然といえば当然なんです。

愛想笑いはコミュニケーションの戦略


人には喜怒哀楽の感情があるわけですが、怒っていたり、悲しんでいたりする人がそばにいると、こちらはどうしていいのか困りますよね。たいていの場合、そういう人と一緒にいたいとはあまり思いません。それよりも、楽しそうにしている人、笑顔でいる人と一緒にいたいと感じます。

つまり、笑顔のひとつである“愛想笑い”も、他人と円滑なコミュニケーションを取ろう、仲良くしよう、という戦略として生まれたといえるわけです。少なくとも、愛想笑いが一般的な日本の社会では、それが不要とはいえないでしょう。

愛想笑いは、文化や社会によって異なる

愛想笑い
愛想笑いが効くかどうかは、人の心理の問題ではなく、その人がどんな文化や社会で生きているかに影響されます

文化や社会によるちがいというのは、実におもしろいものです。たとえば、日本人は魚介のイカとタコを区別できますが、同じに見えるという人たちがいます。「えー?」って思うでしょう。ですが、自分が生きている文化や社会にイカやタコがなければ、見分けがつかないんです。

同じように、笑顔やほほえみを区別する社会に生きていなければ、そのちがいを相手に伝えることはできません。日本人がタイ人の10種類以上のほほえみを読み取れないように、愛想笑いも、その人がどんな文化や社会で生きているかによるものです。ちなみに、世代のちがいや性別のちがいでも、“生きている社会”は異なってきます。

愛想笑いするのに疲れたときは……

愛想笑い
なぜ愛想笑いをするのかといえば、“人の機嫌を取る”ためですよね。おもしろくない話でも、相手がおもしろいだろうと聞かせてくるから、仕方なしに笑う。正直なところ、こんなの面倒だし疲れます。「もういい加減、愛想笑いをやめたい」という人もいるでしょう。その場合、どうするのがいいのでしょうか。

コミュニケーションをきちんと取る

愛想笑い
日ごろから、きちんとコミュニケーションを取るというのは、大事なことです。

友だちがおもしろくない話をしても、愛想笑いはしませんよね? そして、愛想笑いをしないからといって、お互いの関係が悪くなるってことはありません。だってそれは、その友だちときちんとコミュニケーションが取れているからです。きちんとコミュニケーションが取れていれば、愛想笑いはいらないんです。

愛想笑いはバレている

愛想笑い
愛想笑いがある文化や社会で生きている人同士は、相手の笑顔やほほえみが愛想笑いかどうか、わかるものです。つまり、あなたの愛想笑いを、相手は気づいているといえるわけです。

もちろん、愛想笑いされるのが気持ちいいという人も、中にはいるでしょう。ですが、お互いに「これは愛想笑いだ」とわかっている状況なら、いっそのこと、スパッとやめてしまっても、さほど大きな問題ではないかもしれません。

愛想笑いは疲れるし、意味がないと感じてしまうのも当然のことでしょう。ただ愛想笑いには、コミュニケーションをスムーズにする働きがあることも、少なからず事実です。ですから負担にならない程度に、コミュニケーションに取り入れることも、決して損ではないのかもしれませんね。

(平松隆円)

※画像はイメージです

 

 

※この記事は2019年09月24日に公開されたものです

平松隆円(化粧心理学者) (化粧心理学者)

1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、タイ国立チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理にも詳しい。日本やタイを拠点に、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は『化粧にみる日本文化』『黒髪と美女の日本史』『邪推するよそおい』など。

この著者の記事一覧 

SHARE