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「公認不倫」は、新しい夫婦の形として成立するのか

最近のドラマやマンガの設定として、「新しい人間関係のあり方」をテーマにしたものが多いように思う。

2016年に放送されたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』では、星野源と新垣結衣が演じる男女が契約結婚をする話だったし、是枝裕和監督の映画『海街diary』は4姉妹で暮らしていく話だった。 どちらの作品も、物語を通じて血のつながりだけでは決してはかることのできない家族や人との関係が描かれている。

この中に、婚外恋愛許可制、いわゆる「公認不倫」をする夫婦を描くマンガ『1122』を並べると、一見なんだか自然だ。新しい夫婦の形として、ちょっとアリな気さえしてくる。今まで夫婦の形を描く漫画はたくさんあったけれど、公認不倫か! なるほど、新しい! かなり斬新だ。

『1122』から学ぶ、夫婦のあり方

(c)渡辺ペコ/モーニング KC

簡単にあらすじを説明すると、30代・結婚7年目になる仲よし夫婦の一子(いちこ)と二也(おとや)はセックスレスに陥り、その解決方法として婚外恋愛許可制(=公認不倫)の手段を取るというものである。

まあ、自分に置き換えて考えると生理的に絶対無理なわけなんだけど、いったん自分の気持ちはどうなのかは置いておいて。夫婦のあり方なんて、家族の形と同じく本当に多様であり、他人に理解されなかったとしても当人同士がよければ案外なんでも乗り越えられたりする。家庭内のおかしなルールから、変なあだ名まで。相手の性格や考え方だけではなく、お互いの関係性にもゆだねられるわけで。

そこで、公認不倫! うん、たしかにね。内でダメなら外で、ってことですか。現在の日本でセックスレスの夫婦は増えてきていると聞くし、行為の可否なんて生理的な問題だ。相手への尊敬の念や結婚生活を継続したいという意思があったとしても、無理なものは無理。

私は知っている。一子や二也と同じように30代で夫婦仲はいいけれど、セックスレスになっている人が、世の中にはたくさん存在することを。そして2人と同じく外で解決していることを。……まあ、この場合、奥さんに不倫の事実を言えるはずがなく、単なる不倫になるわけなんだけれども。

婚外恋愛許可制を取った一子と二也もお互いが納得できていれば、それはそれでいいのかもしれない。しかし、物語が進んでいくにつれ、仲のよさや関係性に変化はないのにどこかちぐはぐになっていく。主人公の一子が、ただ物分かりのいい人のつもりでいるだけで、心から納得できていない。そりゃあそうだ! 自分の旦那がどこの馬の骨なのかわからん女に堂々と恋をしているんだから! 読んでいるこちら側が消化不良を起こしたような、モヤモヤとした気持ちになる。

そこで、気がついた。これは新しい夫婦の形でも家族のあり方でもなんでもなくて、ただの不倫だ。そのへんに落ちている汚くてドロドロしたものとなんら変わりがない。セックスレスという事実に蓋をし、現実を見ない代わりに、苦し紛れの折衷案を採用する。それが2人にとっては公認不倫だったわけで、本質的にはなんの解決にも至っていないのだ。

だから、モヤモヤとした気持ちを抱えながら読み進めてしまう。一子は一子で、セックスレスになったきっかけを自ら作ってしまったことを負い目に感じて公認不倫を持ちかけたのだから、二也が恋に浮かれていても、自分との記念日を守らなかったとしても、「ルールはちゃんと守ってね!」程度で、ほかには何も言えない。

二也だってバカだ。家事を一切手伝おうとしない旦那とその姑に不満があり、子育てもうまくいかない美月(みつき)と、公認不倫であることを伝えずに不倫をしてしまう。そりゃあ美月も「私は夫婦の緩衝材?」なんて怒ってしまうのもうなずける。

結婚に恋心はいらない。それでも、一緒に暮らす上で「大切なこと」

こういう面でも、一子と二也の夫婦は互いに考えが足りず、他人を巻き込んで不倫をすることによって誰を傷つけてしまうのかをわかっていない。そもそも、公認不倫をするのであれば、せめて相手とその旦那にも了承を取った上で、でしょう。だとしても、うまくいく気がまったくしないのだが。

恋愛感情は3年で尽きる。家族の間には恋心はいらない。この類の言葉は、きっと本当だ。だけど、一緒に生活を営んでいく上で重要な“好意”の部分を外に持ち出してしまえば、いつか関係は崩れていくだろう。人間は欲張りだ。いくら隣にいる時間が長かろうと、言葉を尽くそうと、自分に対しての気持ちが足りなければ不満や不安を覚える。

イラスト:つぼゆり

一子と二也の生活から、一種のコミュニケーション手段であった性行為が消え、崩れたバランスをほかの誰かで補おうとしても、きっと気持ちはますますどこかへ逃げていく。何か夫婦間(というか人間関係全般に言えることではあるけれど)に問題が起きたら、目をそらさず、いったい何が問題なのかを直視し、話し合いを重ねて双方が納得できる方法を見つけるしかないのだと思う。一子と二也は、「夫婦の仲が悪いわけではないから」という上澄みの理由だけで、大きな問題を先延ばしにしているだけだ。

この夫婦はどうなっていくんだろう。まだ最終回は迎えていないし、話は途中だ。さらに一子は風俗に行こうとし、ここでダブル不倫の構図ができあがってしまう。……どうすんの? 絶対に、うまくいくはずがない!

しかし、もしかすると私や世間一般が乗り越えられないと思っている問題を、いとも簡単に乗り越えていく夫婦だったりするんだろうか。健やかなるときも病めるときも愛し合うことを誓いますか、の延長みたいな感じで。そんなことは絶対ない、と思いたいが。

(文:あたそ、イラスト:つぼゆり)

※この記事は2018年10月29日に公開されたものです

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