【少女マンガに学ぶ脈あり脈なし】第11回『東京タラレバ娘』
少女マンガを読んで、萌え萌えするだけではもったいない! ここには恋のノウハウが詰まっているのです。「魅力ある人物像」を追求している少女マンガだからこそ、恋愛の教科書にするべきですよ。片想い中に悩む「脈あり」「脈なし」について検証する連載です!
こんにちは、少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子です。
3年前に、2カ月ほどトルコに行ってたことがあります。
1カ月目はイスタンブルで語学学校に入り、トルコ語を習いました。
初心者向けレベルでクラスメートは7人。そのうち4人は20代で彼氏・彼女がトルコ人。3人が40代以上のシングル女性でした。3人の内訳はインド系のイギリス人、ドイツ人、和久井です。私たち、目も当てられないほどの落ちこぼれでした。初心者クラスなのに!!
3人で休み時間にカフェに行って、
「……クラスをさ、分けてほしいよね。若者クラスとババアクラスと」
「いや、いっそ『カレシがいるヤツのクラス』『いないヤツのクラス』がいいよ」
「現地人の恋人なんて家庭教師だもんね」
「で、恋人と別れたらあたしらのクラスに降りてくる、と」
などと愚痴というか妄想を語り合ってました。
とは言うものの、根っから落ちこぼれ人生が長い和久井は、レッスンが辛いとは大して思いませんでした。ところが……ドイツ人の女性は、たいへんなエリートだったんです。ドイツ国営放送のマネージャーだかなんかの役職つきでした。彼女は、
「ぶっちゃけ、自分に失望しているわ。私はドイツ語はもちろん、英語、フランス語、イタリア語ができる。トルコ語でこんなにつまずくとは思わなかった」
と言っていました。
「お前のできる語学ってったって、全部ヨーロッパ語じゃねえか」とひそかに思ってましたが、彼女はあまりにトルコ語のクラスで落ちこぼれるのが辛かったようで、最終日には早退して帰ってしまいました。
その最後の数時間が耐えられないほど、彼女にとって「その世界で落ちこぼれること」が辛かったのでしょうか。そんなの、あまたある世界の中のたった一分野のことなのに。
大人になると、なかなか新しいことにチャレンジをしなくなります。
自分の得意な世界だけで生きて、いつの間にか慢心してしまうこともあるかもしれません。
それではどんどん世界が狭くなってしまう。自分を客観視して前に進む機会は、積極的に作りたいものです。
今週の教科書『東京タラレバ娘』
本日、最新6巻発売の『東京タラレバ娘』は、アラサー以降が読むと身につまされて辛い作品です。
シナリオライターの倫子、居酒屋の娘・小雪、ネイリストの香は、高校時代の同級生。なにかというと小雪の店に集まり、3人で大酒をくらってます。
そこで出会ったのが、モデルのKEY。
彼女たちの女子会話を聞き、そうとう厳しい意見を浴びせます。
「いい歳して『痩せたら』だの『好きになれれば』だのなんの根拠もないタラレバ話で、よくそんなに盛り上がれるもんだよな…」
「オレに言わせりゃあんたらのソレは女子会じゃなくてただの…行き遅れ女の井戸端会議だろ」
とりわけ、仕事でからむ機会の多い倫子にはきつく当たります。
「この状況でそんなことも思いつかないなんて、アンタほんとに終わってるよ」
「なにかあったらすぐ女子会女子会って、ヒマな女同士でつるんでギャーギャー騒いで、今日はオレの話で盛り上がったんだろ?」
倫子はガンガン浴びせられる厳しい言葉に、いちいち反論します。
「あのね あなた、まだ新人だからわからないかもしれないけど」
「女同士でさわいで女子会ばっかやってるのをかわいいって思ってくれる男を捜すわ」
5巻までの間に、KEYと倫子が恋仲になるという展開ではないので、彼の厳しい言葉が「脈あり」とは言い切れません。……が、逆境にある主人公を叱咤激励する男性……どこかで覚えがありませんか?
『ガラスの仮面』の速水さま(紫のバラの人)ですよ!
演劇少女マヤを引き立てるために、彼は憎まれ役を買って出てマヤを挑発し、マヤに嫌われながらも影でひたすら応援を続ける、いたいけな速水真澄さま。速水さまに発奮したマヤは結果、つまずいてもつまずいても不死鳥のようによみがえり、演劇の世界に戻ってくるのです。
時代は変わり、相手は「超年上のやり手経営者」から「年下のタレント」に設定替えになりましたが、自分の尻をたたいてくれる人は、少女漫画的にはやっぱり恋愛のターゲットじゃないでしょうか。
KEYに学ぶ男性の脈ありサイン
KEYが倫子たちに言っていることは、まあ正論です。KEYからしたら、どうしても放っておけなくて厳しいことを言っちゃうわけです。「好き」の反対語は「無関心」なのだから、口出しをする時点で、何かしら気があることは確かですよね。
だけど倫子たちにとってその言葉はあまりに厳しい。身に覚えがあるから腹が立つし、反論したくなるのでしょう。
だけど女同士、共感しあって傷をなめあっているだけでは、自分を客観視できません。
「合コンの後、女子で集まって反省会をしてはいけない」という説があります。たいてい反省会では、合コン相手の男性に対してあーだこーだとツッコミ合いますよね。実は「ちょっといいな」と思っていても、友人たちから否定をされると、盛り上がるはずのものも盛り上がりません。「ないよね~、ない、ない!」とか言ってスルーしちゃうんです。
なにかショックなことがあったとき、傷ついたとき、その場その場で口に出して騒いでストレスを解消していたら、楽ですよね。だけどそれでは、脊髄反射的な作業の繰り返し。辛くても悲しくても、その傷に向き合って原因を考えて、どう対処すればいいのか、どういう道に進めばいいのか考えることも必要かもしれません。
大人になって、KEYのように客観的に評価をしてくれる人は貴重ですよ。
孔子さまの言う「忠言は耳に逆らえども行いに利あり(よい忠告は聞くのはつらいが、反省し行いを正せば自分のためになる)」ってやつです。
プライドは誰にでもあります。
だけど、それをどう人に見せるかで、その人の人間性がわかると思うんです。
倫子は、職場で空威張りしてみたり、見栄を張ったり、ものごとを大きく言ったり。わかりやすーくダメ人間ですよね……。
もっと「わあ! 確かにKEYさんの言うとおりだったわ! あたし、心を入れ替える!」と言えるくらい素直だったらよかったのに。そうなったらそうなったで連載が終わっちゃうので、ファンとしてはもう少しダメ人間のままでいてほしいですが。
ところで、倫子が途中でいい感じになる男性が現れるんですが、自分の気持ちを出すことができず別れてしまいます。
どうして倫子は、
「自分の趣味を否定されるのは気持ちがよくない」
「あなたの趣味に合わせるばかりで楽しめない」
とハッキリ言わなかったのかしら?
もしかしたら彼は無意識だったかもしれないですよね。指摘することで気遣いができるようになったかもしれないのに。
その点、KEYは言葉はキツいけど、ちゃんと人と向き合っているように見えます。
まとめ
「自分を叱ってくれる人」をありがたいと思おう!
人は、自分を否定されると壁を作ってその人をブロックしてしまいます。なので最近は「コーチング」といって、話を深掘りしていく質問を繰り返し、相手に「気づき」を与える方法がトレンドです。ただしコーチングは、その人が「気づく」まで気長にやらないといけないので、速球タイプのKEYには向かなそうです。
まあ、単なる説教好きのおせっかいおっさんも世の中に多いので、言われたことをいったん咀嚼して、「イラネ」と思ったら距離を置く、とかでいいと思いますけど。
(文・イラスト/和久井香菜子)
★次回の『少女マンガに学ぶ脈あり脈なし』は9月20日(火)掲載予定です、お楽しみに!
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※この記事は2016年09月13日に公開されたものです