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【新連載】おれんち泊まれば? 10年ぶりの再会は急展開をむかえ……

「今の会社に入る前は、そうでもなかった?」
そう言うと、彼の顔はみるみる曇る。
「故郷では……飲み屋でバイトしてたんだけど、
桜坂酒造が倒産して、おれがフリーターになったのを、
うれしがるヤツがかなりいてさ、ショックだった。
代わる代わる店に来て、聞こえよがしに嘲笑して、
あからさまな負け犬扱いだよ。
それで必死で東京に職を探して、逃げてきたんだ」

それを聞いて自分でも驚くほど大きな声が出た。
「違うよっ、逃げたんじゃない。前進したんだよ!」
「ありがとう。
でもあんな故郷なんてもういい、と考えると、
なぜかかなりガックリきて。まあ、寂しいのかな。
そんな時に、茜に会って。茜がいれば別に、
故郷と縁が薄くなっても大丈夫な気がしたんだ」

「わたし、そんな大した女じゃないよ」
「おれには、大した女なの」
そう答えた啓太には、高校時代の彼になかった、
大人としての厚みと魅力があった。

「ね、茜。もう一度、おれと付き合ってくれない?」
啓太は微笑みながら、わたしにたずねた。
「どんな時も、ちゃんと連絡するって約束するなら」
わたしも彼に微笑みながら、そう答えた。

(おわり)

※この記事は2013年09月05日に公開されたものです

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