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処女の定義とは? 処女と非処女を見分けることはできる?

宋美玄(産婦人科医・医学博士)

「処女」の定義とは? とあらためて言われると何と答えていいのか戸惑いますよね。セックスをしたことがなければ処女? 初体験をしたときに血が出ていなければ? 今回は、産婦人科医・医学博士の宋美玄先生に「処女」の意味について伺ってみました。

セックスの経験がない女性のことを「処女」といいます。しかし、何をもって処女というのかと、あらためて尋ねられると、答えに戸惑う人は意外と多いのではないでしょうか。

指やセックストイを挿入した経験があっても、ペニスが入っていなければ処女? 初めてのセックスのとき、血が出なければ処女とはいえない? など、さまざまな処女の定義について調べてみましょう。

処女とは? 言葉の意味や語源

「処女(バージン、ヴァージン)」という言葉は、女性の性経験に対して使用するほかに、「処女航海」「処女作」のように、さまざまな言葉と組み合わせて「初めてする○○」といった意味で使われることもあります。まずは処女という言葉の正しい意味や語源を見てみましょう。

意味

辞書によると、処女の意味は以下のように紹介されています[*1]。

1 〔家に処(い)る女の意〕未婚の女性。男性と交わったことのない女性。きむすめ。おとめ。バージン。
2 他の漢語の上に付いて用いる。
ア.人が一度も手をつけていないこと。「――雪」
イ.初めての経験であること。「――演説」

「セックスの経験がない」ということから転じて、「誰のものでもない」「まだ成し遂げたことがない」ことを、処女という言葉で表すようになったようです。

語源

上記でも説明したように、処女とはそもそも「家にいる女性」という意味です。ここでいう家とは実家のこと。実家にいる=未婚=男性経験がないことが発端となっていると、語源辞典にも記されています[*2]。

処女の医学的定義

処女であるかどうかの定義として、よく引き合いに出されるのが「処女膜の有無」です。処女膜を確認すれば、処女かどうかを医学的に確認することはできるのでしょうか。

処女膜って何? なぜ初めてのセックスで血が出るの?

処女膜とは腟の入口から5~10mm程度のところにある “ひだ” のことです[*3]。「膜」と言っても、腟の入り口全部を覆っているわけではありません。上のイラストのように、処女膜の中央部には、孔(あな)が開いていて、処女膜が伸び縮みをすることで孔も伸縮します。

この孔からは生理(月経)の経血やおりものなどが排出されるほか、性交時はペニスがここから挿入されます。

ただし、伸び縮みはするものの、まだ何も受け入れたことのない処女膜は、初めて袖を通す服の布地がかたく感じられるのと同じように、かたくて窮屈な状態であることが少なくありません。

その状態の処女膜の孔に、伸び縮みできる限度よりも大きなペニスなどを挿入しようとすると孔の周囲が裂けて、血が出ることがあります。これが、初めてのセックスで血が出ることのメカニズムです。

「処女膜がある=処女」は間違い

初めてのセックスで血が出ることがあるのは、処女膜の一部が裂けるからだとご説明しました。つまり、セックスを経験すれば処女膜がなくなる、というのは間違い。セックスをしても、さらに出産をしても、生涯処女膜は残っています。したがって、処女膜がある=処女という定義は成り立たちません。

処女膜は最初のうちはかたく、窮屈な状態であることが多いのですが、伸縮を繰り返すうちに柔らかくなり、セックスに耐えられるようになっていくというのが、一般的です。

また、処女膜の見た目や状態などから、処女であるかどうかを医学的に判断することも、基本的には難しいといえます。処女かどうかについては、本人の申告のみで判断するしかありません。

処女喪失の定義

「処女であること」を医学的に定義するのが難しいのならば、反対に「処女ではなくなった」ことの定義付けをすることはできるのでしょうか。今度は処女喪失の定義を確認してみましょう。

セックス経験があれば「処女ではない」と判断

セックスはしていないけれど、なにかしらの挿入は経験済みである場合、自分が処女の定義に当てはまるのかどうか、判断に迷うことがあるかもしれません。たとえば、「生理のときにタンポンを使ったことがある」「セックスをしたことはないけれど、マスターベーションでセックストイを挿入したことがある」といったケースです。

そもそもタンポン程度の太さであれば、処女膜が傷つくことは基本的にないとされていますが、使うことで処女ではなくなってしまうのではないかと、不安になる気持ちはわかります。

この記事の冒頭でも紹介したように、辞書における処女の定義は「男性と交わった経験のない女性」とあります。ということは、処女であるかどうかの判断で重要なのは、男性経験の有無です。それを考えると、「ペニスを挿入された経験があれば、処女ではなくなる」と考えるのが、一般的な処女喪失の定義だといってよいでしょう。

マスターベーションでの挿入経験があっても、セックスでその経験がなければ、処女は喪失していないと考えられるのではないでしょうか。

35歳未満の4割超が「処女」

ある程度の年齢になると、処女でいることにコンプレックスを覚える人がいるかもしれません。しかし、年齢を重ねてもセックス未経験の女性の割合は意外に多いことが、調査からわかっています。

国立社会保障・人口問題研究所では、国内の結婚、出産、子育ての現状と課題を調べるために、ほぼ5年ごとに「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」を行っており、そこでは独身者に対し、セックス経験の有無を質問しています。

2015年に実施された、現時点での最新の同調査によると、18~34歳の年齢の女性のうち、「性経験なし」と答えた人の割合は44.2%でした[*4]。つまり、この世代の半数近くがセックス未経験、すなわち処女ということになります。このように、処女の割合は意外に多いのです。

処女とは証明できるもの?

「処女の医学的定義」のところでも少し触れましたが、処女を医学的に証明することは、とても困難といえます。女性器の専門家ともいえる産婦人科医が診察しても、証明はできません。

処女膜は出産経験のある女性にも存在するため、産婦人科医が診察で処女膜を見ても、セックス経験の有無を判断することはできません。他に処女かどうかを正確に調べる方法も報告されていません。したがって、処女であることの証明は、現時点では不可能です。

処女であるうちに接種すべきワクチン

証明の有無に限らず、そもそも世の中には「処女でなければダメなこと」というのは、ほとんど存在しません。しかし、HPVワクチンの接種に関しては、処女のうちに行うことが勧められています。

HPVワクチンとは、子宮頸がん、咽頭がん、肛門がん、腟がん、尖圭コンジローマなどの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を予防するワクチンです。とくに子宮頸がんにおいては90%以上がHPVへの感染が原因で発症しており[*5]、セックスの経験がある女性の半数以上が、生涯に一度はHPVに感染するといわれています[*6]。

感染しても、大半の人は自然にウイルスを排除しますが、なかには排除できずに感染した状態が続き、子宮頸がんを発症してしまう人もいます。

それを予防するために、HPVワクチンを接種するのですが、HPVワクチンには、接種する時点ですでに感染しているウイルスを排除したり、がんの病変の進行を止めたりする効果は確認されていません。

そのため、最大限の効果を享受するには、セックスを経験する前に接種を受けることが推奨されています。日本では小学校6年~高校1年相当の女性を対象に、定期接種が行われています(2021年2月時点)[*6]。

もちろん、セックスを経験している人でもHPVワクチン接種による新たな感染予防の効果は十分にありますから、未接種の場合は医療機関に相談のうえ、HPVワクチン接種を受けましょう。

男性はセックスのとき、相手の女性が処女だと気付く?

処女であることを隠したい女性がいますが、その心理の背景に、「相手の男性に自分が処女であることを知られたらどう思われるか不安」という感情があることが考えられます。セックスをする相手に自分が初めてであることを知られると引かれてしまうののではないかという思いから、処女であること自体を忌まわしく思ってしまうかもしれません。

自分に経験が少ないことをコンプレックスに思う気持ちはとてもよくわかります。しかし、医学的にみても処女かどうかの判断は難しく、初めてのセックスで血が出るかどうかも個人差があります。初めてでなくても、腟への摩擦で傷ができれば血が出ることもありえます。

「セックスに慣れていないのかな」と感じることはあるかもしれませんが、処女かどうかを正確に判断することはできないでしょう。

処女かどうかより、相手との関係を充実させて

セックスをするとき、相手のセックス経験の有無を気にしている人は、じつはあまり多くないのではないでしょうか。セックスにおいて大切なのは、2人の間で楽しい時間を過ごすこと。処女であることを気付かれるかどうかの心配をしていると、せっかくのセックスを楽しめなくなってしまうかもしれません。

処女が知られてしまうかどうかを心配せず、まずは目の前の相手とのスキンシップを楽しみ、愛情を育んでいきましょう。

「処女」「非処女」にこだわる必要はない

ここまで、「処女」について述べてきましたが、処女の定義は、ここで紹介したものだけがすべてではありません。人によって考え方も定義もさまざまです。なかには処女を神聖なもの、希少なものと考え、価値を見出す人もいます。

ですが、先に紹介した調査にもあったように、18~34歳の女性の約半数がセックス未経験≒処女ということを考えると、処女はそれほど特別な存在ではないように思えます。

また、一度セックスをしたからといって、処女だったときと比べて、急に何かが大きく変わるものでもないでしょう。セックス経験の有無よりも、大切な相手と気持ちのいいセックスができることのほうが、ずっと大切なことではないでしょうか。

 

(監修:宋美玄、文・構成:山本尚恵)

※画像はイメージです

【参考文献】

[*1] 「大辞林 第三版」松村明・編/三省堂 p1260
[*2] 「暮らしのことば 語源辞典」山口佳紀・編/講談社 p344
[*3] 「セックスセラピー入門 性機能不全のカウンセリングから治療まで」日本性科学会/金原出版 p29
[*4] 「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」国立社会保障・人口問題研究所 p24
http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/NFS15_reportALL.pdf
[*5] 「HPVワクチンQ&A」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/qa_shikyukeigan_vaccine.html
[*6] 「ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html

 

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