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「齟齬」の意味は? 「誤解」や「相違」との違いや使い方を解説

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

ビジネスシーンでもよく見たり聞いたりする機会の多い「齟齬」という言葉。しかし、その意味や「誤解」「相違」との違いを把握できていますか? 今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、「齟齬」の意味や使い方、「誤解」「相違」との違いや言い換え表現について教えてもらいました。

ビジネスシーンでもよく見聞きする「齟齬」という言葉。

文脈から何となくニュアンスが想像できるせいか、正確な意味を理解しないまま「齟齬」という言葉を使ってはいませんか?

この機会に「齟齬」の意味や使い方、「誤解」や「相違」との違いをチェックしてみましょう。

「齟齬」の意味は?

「齟齬」という言葉には、次のような意味があります。

そご【齟齬】
(上下の歯がくいちがう意)
くいちがい。ゆきちがい。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

【齟】ショ・ソ・か-む
(1)上下の歯をかみあわせる。かむ。
(2)歯がかみあわない。くいちがう。

【齬】ギョ・ゴ
上下の歯がくいちがって、かみあわない。
(『例解新漢和辞典』三省堂)

「齟」も「齬」も、歯がかみ合わないことを意味しています。

転じて、「齟齬」とは「話や物事が食い違うこと、予期に反すること」を意味しています。

例えば、誰かと誰かの意見、計画と結果、証言と真実、ミステリーの描写と犯人、仮説と検証などが食い違っていることを意味する言葉です。

「齟齬」と「誤解」「相違」の違いは?

「齟齬」と「誤解」や「相違」は、“違う”という点では似ていますが、微妙な違いがあります。

「誤解」「相違」の意味

「誤解」「相違」には、次のような意味があります。

【誤解】ごかい
意味をとり違えること。
間違った理解をすること。思い違い。

【相違】そうい
たがいに違っていること。
一致しない。ちがい。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

「齟齬」と「誤解」「相違」の使い分け

実際には、どのように使い分けることができるでしょうか?

例えば、ある事件を目撃したAさんとBさんがいるとします。

刑事が2人に話を聞いたところ、それぞれ証言が違っていた場合、「証言には相違がある」と使います。

そのまま捜査を進め、真実に辿り着こうとする手前で、改めて証言を突き合わせてもやはり双方の話が食い違っている場合、「2人の証言には齟齬がある」と使います。

しかし、さらに2人の話を聞き進め、刑事がBさんの目撃時間を誤って認識していたことが分かった場合、「刑事はBさんの話を誤解していた」と使います。

ここまでで分かるように、「相違」は単に双方の話が違うという事実だけで、「齟齬」のように互いの話をかみ合わせようとする前提がありません。

そして、「相違」している両者を突き合わせようとした場合に生じるのが「齟齬」です。

また、「齟齬」の対象はAさんとBさんですが、「誤解」の対象はBさん1人でも成立します。つまり「誤解」を使う場合は、「相違」や「齟齬」のように、複数の対象を比較する必要はありません。

以上をまとめると、次のように使い分けることができます。

相違:2つ以上の対象がそれぞれ異なっている場合に使う
齟齬:2つ以上の異なる対象を突き合わせ、内容が食い違っている場合に使う
誤解:対象の数を問わず、誤って理解をしている場合に使う

「齟齬」を使う上での注意点

ここでは、「齟齬」を使う上での注意点を紹介します。

「齟齬がある」は自分の確認不足や誤解を表す時には使わない

前段からも分かるように、「齟齬」は相違している2つのことをかみ合わせようとして生じるものです。

そのため、相手の意見を自分が取り違えている時に「齟齬がある」という表現は使いません。

例えば、Cさんが上司から指示を受けて作った企画書が、「全く指示と違うものになっている」と指摘を受けた場合。客観的に見れば、上司の指示とCさんの理解に相違があったことは確かです。

しかし、この場合Cさん自身が「申し訳ございません。私の理解不足でした」とは言えても、「申し訳ございません。齟齬があったようです」と言うことは適切ではありません。

後者の場合は、自分のミスを「齟齬」という言葉でごまかしているように受け止められ、上司から「私の説明が悪かったというのか?」と、かえって反感を買うことにもなりかねないからです。

自分の理解不足や誤解について「齟齬」という言葉は使わないように気を付けましょう。

「齟齬がある」は単なる意見の相違には使えない

前段でも分かるように「齟齬がある」は、単なる意見の違いを主張する際には使えません。

例えば、同僚が述べた意見に対して、違う意見を述べる際に「その意見には齟齬があります」とは使いません。

「私の意見は少し違います」「別の考え方もあると思うのですが」などと発言する方が適切です。

「齟齬がある」を目上の人に使うのは避ける

「齟齬がある」は、「かみ合うことが理想であるのにかみ合わない」状態を客観的に表す言葉です。

相手を責めるニュアンスはないものの、違和感や落ち着きの悪さを感じさせることもある言葉なので、ビジネスシーンで使うには注意が必要です。

例えば、部長に対して「部長のお話と課長のお話には齟齬があります」と言えば、単なる意見の相違だけでなく、そこにネガティブな印象を持たれる可能性もあります。

そのため、目上の人に対して使う場合には、特に注意が必要な言葉だといえるでしょう。

「齟齬」はどんな時に使えるのか?(例文付き)

あることをうまく進めたいのに、齟齬があり、障害となっている(あるいはなった)時には、以下のような言い回しをするといいでしょう。

・齟齬をきたす
・齟齬が生じる
・齟齬が生まれる
・齟齬がある
・齟齬が大きい

その逆に、予見されていた食い違いが起きなかったり、食い違いが少なかったりする場合には、

・齟齬がない
・齟齬が小さい

などと使います。

いくつか、例文と共に紹介します。

(1)両者の意見が食い違って、うまくまとまらない時

例文

・ワクチンの接種をスムーズにしたいのに、輸出国と日本の希望とに齟齬があり、契約がなかなかまとまらない。

(2)イベントを成功させたいのに、計画に食い違いがあり妨げになっている時

例文

・もともと無理のある計画を、このまま進めても必ず齟齬が生じるに違いない。

(3)チームをうまくまとめたいのに、互いの違いから理解が深まらない時

例文

・チーフとメンバーの考え方には齟齬が大きく、このままではまとまるチームもまとまらないだろう。

(4)企業や人、互いの理想や意見が違い、かみ合わない時

例文

・現実のビジネスでは、純粋な理想だけでなく、相互利益を尊重して進めなければ、齟齬をきたすことが多い。

(5)推理と証言が食い違っていない時

例文

・刑事の推論は、複数の目撃者による証言と一切の齟齬がなく、犯人はすぐに捕まった。

(6)研究を成功させる上で、仮説と実際の結果の食い違いが小さい時

例文

・演算で求めた数字と、実験で得た数字との齟齬が小さいことから、仮説はほぼ正しいと考えられる。

(7)概略や概算を考える上で、食い違いが起きないようにしたい時

例文

・いくらざっくりとした概算で構わないと言われても、公式な見積書を書く以上、なるべく齟齬が起きないようにすることが望ましい。

「齟齬」の言い換え表現

「齟齬」と言っても、受け手によってはあまりぴんと来ない場合や、ネガティブに受け止められかねない場合もあるかと思います。

そのような場合には、次のように似た意味を持つ言葉で言い換えると良いでしょう。

「行き違い」

「食い違い」を意味しています。

言動、やり方、考え方などが違うだけでなく、実際の行動が違う時に使います。

例文

・待ち合わせをしていた2人は、行き違いがあり、会えなかった。

「扞格」

読みは、「かんかく」。互いに相容れないことを意味します。

「格」には「こばむ」という意味もあり、単に行き違いがあるだけでなく、意思を持ってこばんでいる時に使います。

例文

・両社のビジョンには扞格があるため、合併してもうまくいかないだろう。

「矛盾」

読みは、「むじゅん」。

「齟齬」が単に話が食い違うことを意味するのに比べ、「矛盾」は論理的につじつまが合わないことを意味しています。

例文

・彼の話には、矛盾があり、聞いていても納得できない。

「齟齬がないようにすること」はポジティブな姿勢につながる

今回は、「齟齬」と「誤解」「相違」の意味の違いや使い方、言い換え表現について解説しました。いかがでしたか?

「齟齬をきたす」「齟齬が生じている」は、うまくかみ合わないネガティブなニュアンスがありますが、「齟齬のない」状態にしようとすることは、より良い方法論を求めることにつながります。

また、「齟齬がない」「齟齬が小さい」は、求めている理想や予測した仮説にきわめて近づいているポジティブなニュアンスです。

「齟齬」という言葉をうまく使って活用することで、より良い予測や理想を現実のものにできるといいですね。

(前田めぐる)

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