「所存」の意味とは? 使い方や誤用例・言い換え表現を解説
ビジネスシーンなどで目にする「所存」という言葉ですが、意味や使い方をしっかり把握できていますか? ライティングコーチの前田めぐるさんに、「所存」の意味や誤用例、正しい使い方や言い換え表現を解説してもらいます。
ビジネス文書やメールなどでよく見かける「所存」という言葉。
本来の意味や正しい使い方を知って、さらに有効に活用できると良いですね。
今回は「所存」の意味や使い方について解説します。
「所存」の意味とは?
「所存」とは、次のような意味です。
しょぞん【所存】
心中に思うところ。おもわく。考え。
あらたまった言い方や書簡文などに用いる。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
つまり、「所存」とは「考えや思うところ」という意味で、ビジネスでの改まった場面や目上の人へのメール・手紙などで、自分の思いや意思・意欲を伝えたい時に使います。
例えば、「〜したい所存です」は、「〜したいと思っております」という意味です。
「所存」を使う上での注意点
ここでは、「所存」を使う際の注意点をいくつか紹介します。
「所存」は目上の人に対して使う言葉
漢語としての「所存」を訓読みにすると、「存ずる所」となります。
「存ずる」は「考える」「思う」の謙譲語です。自分を低めて相手を高める敬語なので、同僚や後輩・部下など、目下の人には使いません。目上の人に対して使えます。
「所存です」のままでも目上の人に使えますが、「所存でございます」と使えば、さらに丁寧です。
ただし、主に書き言葉として使われており、日常会話ではあまり聞きません。会話で使われる場面は、スピーチなど改まった席などに限られます。
「所存」を相手や他人の行為に使うのは誤用
「所存」は謙譲の性質を持つ言葉なので、相手や他人の行為には使いません。
例えば、「彼は来年こそ大学に合格したいと考えています」を「彼は来年こそ大学に合格したい所存です」と言い換えることはできません。
また、相手への質問で「あなたのご所存をお聞かせください」と使うのも適切ではありません。いくら「ご」を付けても、元々「所存」自体に謙譲の性質があるためです。
この場合、「ご意向」という言葉で言い換えると良いでしょう。
「〜と考える所存です」という使い方はNG
前段で説明した通り、「所存です」は「〜(したい)と思っております」「〜(したい)と考えております」という意味です。
まれに「〜と思う所存です」「〜と考える所存です」と書かれているのを見かけますが、「所存」自体に「思惑・考え」という意味があるため、意味が重複するという観点から、適切な用法ではありません。
「〜したい所存であります」という表現は堅すぎる印象
「〜したい所存である」を丁寧語にしたのが「〜したい所存であります」なので、間違いではありません。
ただし、「〜であります」という口調は、警察や自衛隊をモチーフにしたドラマでよく見聞きするような言い回しで、日常のシーンにおいては少々堅すぎる印象を与えます。
丁寧語にしたい場合は「〜したい所存です」で良いでしょう。
「所存」はどんな時に使えるのか?(例文付き)
「所存」という言葉は、自分の考えや思い、意見を改まった場面で表明したり、文書で伝えたりする時に使います。
例えば、次のような場面で使うことができます。
式典などのスピーチであいさつを述べる時
受賞や就任などの式典で自身の気持ちを述べたり、周年記念や感謝祭のような場面で社を代表して社外にスピーチをしたりする時に使います。
例文
・10周年を機に、より一層社会に貢献できる企業として社員一丸となって邁進したい所存です。
文書やメールで取引先への謝罪を伝える時
クレームや不祥事などへの謝罪を、文書やメールで示す時にも使えます。
謝罪の際には丁寧さを心掛けるあまり「所存でおります」と書きそうになるかもしれません。
しかし、元々「所存」には謙譲の意味が含まれているので、「いる」の謙譲語「おる」を重ねる必要はありません。そのため、「所存です」と表現するのが良いでしょう。
例文
・今回のようなことが二度と起きないよう、お客様の大切な情報をなお一層の厳重な管理に努める所存です。
DMなどにあいさつ状を添えたい時
店舗リニューアルや社名変更、新商品発売などで、企業やお店が送るDM(ダイレクトメール)。
その中で、チラシやリーフレット以外にあいさつ状を添えたい時にも使えます。
例文
・リフレッシュした内装で、新しいことにも積極的に取り組んでまいりたい所存です。
履歴書の志望動機などで意欲を表現したい時
入社したらどんなふうに頑張りたいのか、意欲を表す時にも使えます。
例文
・多角的に展開されている貴社で自身のスキルを磨きたい所存です。
「所存」の言い換え表現
「所存」と同じような意味合いを持つ言葉を以下に挙げます。
いずれも、「所存」のような謙譲の意味は含まれていないので、目上の人に使う場合は丁寧な文末表現を心掛けましょう。
「所感」
読みは「しょかん」で、「感じている事柄」という意味。
書き言葉として使います。
例文
・以上、私の所感を申し述べる次第です。
「一存」
読みは「いちぞん」で、「自分一人だけの考え」という意味です。
日常会話の中で使われます。
例文
・そう言われましても、私の一存では決めかねることです。
「所懐」
読みは「しょかい」。
「心に思うところ」という意味で、書き言葉として使います。
例文
・以上、勝手気ままに、所懐の一端を書き連ねましたこと、お目こぼしください。
「意向」
読みは「いこう」。
「心がある物事を目指して動くこと」という意味で、書き言葉・話し言葉両方で使います。
「ご意向」=「お考え」とも言い換えられます。
例文
・先生のご意向をお聞かせください。
「思っております」
「思っています」の丁寧な表現。
会話でも文章でも、ストレートに意味が伝わります。
例文
・スタッフ一同、頑張りたいと思っております。
「存じます」
「存じる」は、「知る・思う」を謙譲語にした言葉で、主に「ます」を付けて使います。
文章で使われることが多いですが、改まった席でのあいさつでも使えます。
例文
・今回の受賞を励みとして、さらに努力してまいりたいと存じます。
似た意味の言葉が多い「所存」は、場面に合わせて言い換えよう
今回は、「所存」の意味や使い方、言い換えについて解説しました。
「所存」とは、自分の思いや意思・意欲を伝えたい時に使える謙譲語で、相手や他人の行為に対して使うのは誤用。また、「~と考える所存です」は意味が重複するため言葉の使い方としては適切ではない、と紹介しました。
主にメールなどの書き言葉、スピーチなどの改まった場面で使用する「所存」ですが、似たような意味を持つ言葉は他にも多くあります。その場に応じた言葉選びが求められるといえそうですね。
(前田めぐる)
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