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「僭越ながら」の意味とは? 使い方・例文・類語

ビジネス敬語マナー

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

「僭越ながらお祝いのご挨拶を申し上げます」……結婚式や宴席などで誰しも耳にしたことがあるのではないでしょうか。人前で挨拶する時だけ通用する言葉なのか、それとも他の場面でも使える言葉なのか、上司や取引先に対しても使えるのか、「僭越ながら」の使い方についてライティングコーチの前田めぐるさんに教えてもらいました。

スピーチなどでよく使われる「僭越ながら」という言葉。「何となく恐縮している感じを出したい時に使うのかも?」などと自己解釈で終わらせてしまい、そのままになってはいませんか?

いざ自分が人前で話す時に慌てないで済むように、知っておきましょう。

「僭越ながら」という言葉の持つ意味とは

「僭越」を辞書で引くと、次のように書かれています。

せんえつ【僭越】
自分の身分・地位をこえて出過ぎたことをすること。そういう態度。でしゃばり。謙遜の気持ちでも使う。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

また、それぞれの漢字には次のような意味があります。

【僭】セン・おご(る)
身分をこえて下の者が上の者をまねる。上の者の領分をおかす。おごる。

【越】エツ・オチ・こ(す)・こ(える)・こし
順序や範囲をこえる。
(『例解新漢和辞典』小学館)

「僭越」の後に続く「ながら」は接続助詞で、「〜けれども」「〜ではあるが」と、その前の言葉を受けて逆説的な意味で続ける場合に使うものです。

クッション言葉によく見られる言い方です。

以上のことから「僭越ながら」は、「出過ぎた態度ではありますが」「出しゃばった態度ではありますが」「身の程知らずではありますが」という意味だと分かります。

「僭越ながら」はどんな場面で使う?

「僭越ながら」の意味から考えると、次のような意味合いでクッション言葉のような形で使うことができます。

・出しゃばってしまいますが
・身の程知らずで厚かましくも
・自分の地位や立場をわきまえずに差し出がましくも
・出過ぎたことですが

「僭越ながら」を使うのにふさわしい場面にはどのようなものがあるでしょう。

大きく分けると2つの場面があります。

・大勢の人を前に挨拶する時
・目上の人に身分・地位を超えて何かを言う/する時

大勢の人を前に挨拶する時

祝賀会や結婚式などでは、さまざまな立場・年齢の人が大勢集まります。自分よりも役職や地位、年齢が上の人もたくさんいるはずですね。

そんな時、挨拶のスピーチや乾杯の音頭などを頼まれたら「僭越ながら」と前置きしてから始めるといいでしょう。
「他にもふさわしい方がたくさんいらっしゃるので、本当は私では分不相応ですが」というニュアンスで使います。

また、上司の代理で挨拶する場合にも、よく「僭越ながら」と前置きします。

「僭越ながら」の他に、「僭越ではございますが」「僭越に存じますが」なども使えます。「甚だ」「誠に」を加える場合もあります。

以下に例文を挙げます。

・「本日は開発部長の畑中がよんどころない事情にて欠席しておりますため、僭越ながら、代理の私近藤より皆様にご披露のご挨拶をさせていただきます」

・「ただいまご紹介にあずかりました斎藤と申します。僭越に存じますが、一言ご挨拶を申し上げます」

・「それではご指名を受けましたので、甚だ僭越ではございますが、乾杯の音頭を取らせていただきます」

・「それではご指名を受けましたので、誠に僭越ではございますが、乾杯の音頭を取らせていただきます」

目上の人に身分・地位を超えて何かを言う/する時

「僭越ながら」は、大勢の人の前(1対多数)だけでなく、目上の人がいる1対1、1対少数の場でも使えます。

自分より役職、地位などが上の人に対して、何かを進言したり、行ったりする場合の表現です。

主に「頼まれていないのに、立場的にも出しゃばった行為ですが」というニュアンスで謙遜する場合にも使えます。

また、普段なら直接話す機会があまりないような立場の相手から何かを尋ねられたり、意見を聞かれたりする場合の答え方でもあります。

以下に例文を挙げます。

 

・「僭越ながら、その計画にはまだ改善の余地があるように存じます」

・「僭越ながら、私から専務のお耳に入れたいお話がございます」

・「僭越ですが、先方様のおっしゃる内容にも確かに一理あると存じました」

・「T社との共同事業が始まると伺いましたので、僭越とは存じますが、参考資料をご用意いたしました」

・「僭越ではございますが、F社との面談に私も同席させていただくわけには参りませんでしょうか?」

なお、上記の場面はいずれも、上位にいる相手に有益だと思っての言論や行動です。

注意! 上司から部下に対して「僭越ながら」は使わない

ここまで書いたように、「僭越ながら」は下の立場にある人が、上の立場にある人に対して使う言葉です。

上司から部下に、目上の人から目下の人に対して「僭越ながら」と使うことはありません。

もし逆の立場で使ってしまうと、嫌味に受け止められたり、不自然な印象を与えたりするので気を付けましょう。

他にも「僭越ながら」と似たような表現はあるの?

さて、他にも「僭越ながら」と似たような言葉があります。

(1)恐縮ながら

・「恐縮ながら、一言言わせて頂きます」

恐縮する状況において、また恐れ多い立場の相手に対して使う言い方です。「恐れながら」も同じです。

(2)はばかりながら

・「はばかりながら、私もこのチームの一員と誇りを持っております」

「生意気な言い方かもしれませんが」の意。

自分ごときが語るには生意気かもしれないが、とチームのメンバーに遠慮を示しつつ、言いたいことをしっかり発言する場面で使います。

(3)厚かましくも

・「厚かましくも、このたびチームリーダーに立候補いたします」

「遠慮なくも、図々しくも」の意。「遠慮が足りない、力量が足りない、厚かましい」と相手や周囲に思われても、堂々と主張したい時に。

上司が相手でなくても、同僚以上のメンバーがいる場面で使えます。

(4)おこがましいのですが

・「私が言うのもおこがましいですが、スタッフたちは皆優秀で頑張っております」

「さしでがましいですが。生意気ですが」の意。「おこがましい口を聞くようですが」とも言います。

自分のことを言う時などに使います。また、上司や外部に対して、自分の身内や部下をかばったり、誇らしげに語ったりするような場面でも使います。

(5)差し出がましいようですが

・「差し出がましいようですが、その案件は中止なさった方がよろしいと存じます。」

「でしゃばるようですが。生意気ですが」の意。

相手が上位でなくても、自分が部外者であるなど、立場的に進言するのは気が引ける場合に使えます。

意見や主張を述べる場面で立場をわきまえるということ

ビジネスシーンでは実にさまざまな立場の人がいて、それぞれの役回りがあります。上司がいつも全てを見抜いているわけではなく、部下には部下の立場だからこそ見える景色や道理があります。

そんな時、控えめな態度を示しながらもしっかりと主張し、周囲に貢献するための言葉が、今回の「僭越ながら」です。スピーチの場面以外でも、ここぞという時に上手に使いこなせるといいですね。

(前田めぐる)

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