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「拝受」の意味。「拝受いたしました」は正しい使い方?

前田めぐる(ライティングコーチ・文章術講師)

ビジネスシーンにおいて「拝受」という言葉は、一度は使ったことのある言葉なのではないでしょうか? また、「拝受いたしました」という表現は二重敬語ではないのでしょうか? 今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、「拝受」の意味と正しい使い方を詳しく教えてもらいます。

「拝受」という言葉は、ビジネスシーンで書類や物のやりとりをする際に、メールや文書などで使われる言葉です。

取引先とのやりとりが多い部署にいる人であれば、意外と目に付く言葉かもしれません。

こうした言葉を、必要な時にさらりと使いこなせるように、意味を把握しておきましょう。

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「拝受」の意味

まず、「拝受」という言葉を辞書で調べてみましょう。

はいじゅ【拝受】
受けることの謙譲語。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

「拝」は、相手を敬い、自分をへりくだって言う時に使う漢字です。この文字と「受ける」を表す「受」と組み合わせた「拝受」には、「謹んで受ける」という意味があります。

では、それぞれの漢字については、どんな意味があるのでしょうか。

【拝】はい
(1)おじぎをする。むなもとで両手を重ね合わせ、頭を下げて敬意をあらわす。おがむ。
(2)神社などにお参りする。
(3)官職・任務をさずけられる。
(4)相手を敬い、自分をへりくだっていう言葉。
(『例解新漢和辞典』三省堂)

「拝受」の「拝」は、(4)の意味です。

【受】じゅ・う(ける)
(1)うけとる。さずかる。もらう。うける。
(2)うけいれる。ひきうける。こうむる。
(4)相手を敬い、自分をへりくだっていう言葉。
(『例解新漢和辞典』三省堂)

「拝受」の「受」は、(1)の意味です。

以上のことから、「拝受」には、「謹んで受け取る」という意味があります。

「拝受いたしました」は二重敬語ではない?

さて、日頃から敬語の用法に気を付けている人は、ここで、ちょっと気になることはありませんか?

それは、「二重敬語」についてです。通常、敬語の用法では、一つの語に対して同じ種類の敬語を二重に使ったものを「二重敬語」と定義しています。

例えば、「ご覧になられる」は、既に「ご覧になる」だけで「見る」の尊敬語ですが、さらに尊敬語の「られる」を重ねており、二重敬語です。こうした用法は、一般的には過剰な表現だとされています。

そして、「拝受いたしました」も「拝受」だけで既に謙譲語であるところに、さらに「いたしました」と謙譲語を重ねているので、「二重敬語になってしまうのでは?」と疑問に思う人がいるかもしれません。

しかし、「拝受いたしました」は二重敬語ではありません。その理由を説明します。

異なる種類の敬語から成り立っているので二重敬語ではない

「拝受いたしました」の原形は、「拝受する」という動詞で、これは謙譲語Ⅰ(※)に当たります。

そこから、「拝受する」の「する」を「いたす」に変化させると、「いたす」の部分は謙譲語Ⅱ(※)に当たります。

さらに、「拝受いたす」に丁寧語の「ます」を加え、「た」を加えて過去形に変化させたものです。

したがって、「謙譲語Ⅰ+謙譲語Ⅱ+丁寧語」という異なる敬語がつなげられた形となり、二重敬語の定義にはあてはまらないというわけです。

「拝受」と同様に、「拝」の付く単語を使った「拝見」「拝聴」「拝読」などについても同じように捉えることができます。

もちろん、「拝受しました」や「拝見しました」でも謙譲語として成立します。十分な敬意を表しつつも、すっきりした印象を与えることができるでしょう。

※「謙譲語Ⅰ」とは、自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて、その向かう先の人物を立てて述べるもの。「謙譲語Ⅱ」は、自分側の行為・ものごとなどを、話や文章の相手に対して丁重に述べるもの。(「敬語の指針」P15~20より)

「拝受」という言葉を使う上での注意点

ここでは、「拝受」を使う上での注意点を紹介します。

「拝受」は自分の行為についてのみ使う

「拝受しました」「拝受いたしました」は、謙譲語なので、相手の行為については使えません。

あくまで、自分が書類や物を受け取る側である時に、自分の行為について使います。

「拝受」は口頭では使わない方が無難

「拝受しました」という表現は、「拝受いたしました」ほどかしこまった語感はなく、それでいて「謹んで」という意味も既に含まれており、活用度が高いといえるでしょう。

この点は、「拝見しました」「拝読しました」なども同様で、相手を立てながらもすっきりした言い回しができる例です。

ただし、口頭となれば少し事情は違ってきます。「拝読しました」「拝見しました」が日常的に使われるのに比べると、「拝受しました」は口頭ではあまり使われていません。

間違いではありませんが、目で読むことのできる文書と違い、耳から入る言葉は人によってはイメージしづらいことがあります。

よって、口頭で「拝受」と言われると、「“はいじゅ”……? あ、“受け取った”ということか!」と理解に時間を要することも。

そのため、口頭で伝えるなら「確かにお預かりしました」「ありがたく頂戴しました」などの方が自然でしょう。

「拝受」という言葉はどんなふうに使えるの? (例文付き)

ここまでで分かるように「拝受」という言葉は、重要な書類や物など何らかのやりとりにおいて、「謹んで受け取る」という意味で使います。

例えば、次のような場合に使うことができるでしょう。

・領収書や提案書を受け取った場合
・契約書のように、記入後の返送が必要な物を受け取った場合
・賞などを受けた場合

「拝受」という言葉を使える相手は、主に取引先や上司、目上の人です。また、主にメールやメッセージ、手紙など文面で使います。

以下に例文を示します。

「拝受しました」

・お知らせいただいていた資料を拝受しました。早速ありがとうございました。

「拝受いたしました」

・弊社の製品が文部科学大臣賞を拝受いたしました。ますます、精進したいと思います。

「拝受しております」

・出張中でお知らせが遅くなりましたが、契約書の件、既に拝受しております。

「拝受いたします」

・この度は、結構なお品をお贈りいただき恐縮です。ありがたく、拝受いたします。

「拝受」の類語・言い換え表現

「拝受」という言葉を使わない場合には、どのような表現ができるでしょうか? ビジネスメールやメッセージ、また口頭で「拝受」と同じように使える言葉の例を挙げます。

「頂戴」

「もらうこと」の謙譲語。

「拝受」と同様に、「頂戴します」「頂戴いたします」両方とも使えます。また、口頭でも自然に使える言葉です。

ただし、何かものを預かっただけで、返す必要がある場合には使いません。

例文

・結構なお品が届きました。ありがたく頂戴します(頂戴いたします)。

「預かる」

書類のやりとりでは、契約書のようにいったん預かった上で、記入して返送するものを受け取る場合もあります。

もらったわけではなく、一部あるいは全部を返送する場合には、「預かる」の語を使うといいでしょう。敬語では、「お〜しました」を加えて使います。

こちらも、口頭でも自然に使える言葉です。

例文

・契約書をお預かりしました。記入次第、ご返送いたします。

「受領」

「受け納める」という意味です。

「受領」の言葉自体に謙譲の意味は含まれていないので、敬語の場合には「いたしました」「いたします」を加えて使います。

例文

・迅速なご手配をありがとうございました。確かに、受領いたしました。

職種によっては煩雑に使う「拝受」という言葉

書類のやりとりでよく使う「拝受」という言葉について取り上げました。

「謙譲語Ⅰ」「謙譲語Ⅱ」などといわれると難しく感じるかもしれませんが、「拝受いたしました」が二重敬語でないこと、「拝受しました」でも十分使えることを覚えておくと良いでしょう。

ビジネスシーンで必要な時にさらりと使いたいものですね。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

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