セックスが原因で「膀胱炎」になるって本当? その理由と予防法
膀胱炎の原因のひとつにセックスが挙げられることを知っていますか? 産婦人科医・医学博士の宋美玄先生いわく、とくに女性はセックスが原因で膀胱炎になりやすいのだそう。その理由とは? 予防法と併せて聞いてみました。
「おしっこを我慢しすぎると膀胱炎になる」と聞いたことがある人は多いかもしれません。
しかし、膀胱炎の原因はそれだけではありません。じつは、セックスが原因で膀胱炎になったり、ひどいときにはセックスのたびに繰り返し膀胱炎を発症したりすることもあるのです。
今回はセックスと膀胱炎の関係について詳しく解説します。
女性が膀胱炎になりやすい2つの理由
膀胱炎は、男性よりも女性に発症しやすい病気といわれています。なぜ女性のほうが膀胱炎になりやすいのでしょうか。主な理由として、次のようなことがあげられます。
(1)尿道口と肛門の位置が近い
膀胱炎(急性感染性膀胱炎)は、細菌が尿道から膀胱へ侵入することによって起こる病気です。尿道口がペニスの先端にある男性に比べて、女性は尿道口と肛門との距離が近く、大腸菌などの雑菌が尿道から入り込みやすい傾向にあります。これが男性よりも女性のほうが膀胱炎になりやすいといわれる理由のひとつです。
(2)女性のほうが男性より尿道が短い
尿道とは文字通り、膀胱と体の外とをつなぐ、尿の通り道のことです。この尿道の長さも、膀胱炎の発症しやすさに関係しているとされています。なぜなら、尿道が短いと、細菌が膀胱まで簡単に到達できてしまうからです。
女性の尿道の長さは約4cmであるのに対し、男性の尿道は約20cmと、男女で尿道の長さはだいぶ異なります[*1]。このことも、女性のほうが男性よりも膀胱炎を発症しやすいことの一因と考えられます。
こうした体のつくり以外にも、たとえば生理用ナプキンやおりものシートを変えずに長時間つけっぱなしにすることが雑菌の繁殖を招き、膀胱炎発症の一因になるといわれることがあります。
また女性は外出先のトイレが汚かったり、長い会議中などにトイレに行きたいことを言い出せなかったりして、トイレを我慢してしまうことが多くなりがちです。
このように長時間、排尿を我慢することも膀胱の機能に影響を与え、膀胱炎のきっかけになると考えられます。注意しておきましょう。
膀胱炎の症状
若い女性がかかる膀胱炎のほとんどは、大腸菌などの細菌が尿道から侵入することによる急性感染性膀胱炎だといわれています。急性感染性膀胱炎には3つの特徴的な症状があります。
(1)排尿痛
排尿時に痛みが生じることがあります。特に排尿の終わりごろに不快な痛みを感じやすくなります(排尿終末時痛)。
(2)頻尿
おしっこが近くなり、トイレに行く回数が増えるのも急性感染性膀胱炎の特徴的な症状といえます。 30分~1時間ごとにトイレに行きたくなることもあります。
(3)血尿、濁った尿が出る
膀胱の炎症により、おしっこに血が混じることがあります。また、細菌と戦うために集まった白血球や炎症部分の分泌液、はがれた膀胱の粘膜などが混入して、濁った尿が出ることもあります。
急性感染性膀胱炎の治療には、薬(抗菌剤)が使われます。処方された薬を飲むと、基本的には数日以内に完治しますが、場合によっては検査が必要になることもあります。なお、処方された薬は自己判断で飲むのをやめず、きちんと飲みきることが大切です。
とくに治療をしなくても自然に治ってしまうこともありますが、放置すると高熱や倦怠感などの全身症状が現れたり、悪化して腎盂腎炎(じんうじんえん)へと重症化したりすることがあります。思い当たる症状があれば、すみやかに医療機関を受診して、治療しましょう。
膀胱炎は泌尿器科の担当ですが、内科や婦人科でも受診が可能なことがあります。事前に医療機関に問い合わせておくとよいでしょう。
セックスが原因で膀胱炎になるって本当?
セックスは、女性が膀胱炎を発症しやすくする原因のひとつとされています。なぜならセックスによって、女性の尿道から細菌が入り込むリスクが高まることがあるからです。
最初にもお話ししたように、女性の尿道口は腟や性感帯であるクリトリスなどに近い位置にあります。セックスではその周辺に触れることが多いため、尿道口の周囲に大腸菌などの細菌がつきやすくなります。さらに尿道口周囲の粘膜がこすれて小さな傷がつき、そこから細菌などが入り込むこともあります。
こうしたことから、セックスの後の尿道口周辺は、細菌が繁殖しやすい状態になっており、膀胱炎を起こす可能性が高くなっています。
セックスによって膀胱炎にならないための予防法
セックスの後、膀胱炎になる可能性を高めないためには、以下のようなことに気を付けておくとよいでしょう。
(1)手を清潔にする
新型コロナウイルス感染症の流行でも大きく取り上げられたように、手には多くの雑菌やウイルスが付着しています。それらの細菌がパートナーの手から移り、膀胱炎のきっかけになることもあります。一見きれいに見えても、油断は禁物です。とくに男性はセックスの前に、まずはしっかり手を洗い、事前に爪も切っておきましょう。
なお、手をアルコール消毒した場合、性器に触れるのは、アルコールがきちんと乾いて(揮発して)からにしてください。アルコールが残っていると刺激になり、性器がヒリヒリすることがあります。
(2)シャワーを浴びてデリケートゾーンを清潔にする
セックスの前後にはシャワーを浴びて、体、とくにデリケートゾーンを清潔にすることで、さらに雑菌の繁殖を防ぐことができます。気持ちもさっぱりするのでおすすめです。2人で体をきれいにしてからセックスをすることで、膀胱炎以外の感染症予防にもつながります。
(3)セックスの後に排尿をする
尿道や膀胱に細菌が侵入しても、多くの場合はおしっことともに排出されます。セックスをした後は排尿をして、付着した雑菌を流しておきましょう。
膀胱炎になっている時にセックスはしない方がいい?
そもそも膀胱炎の最中は、セックスをしてもあまり気持ちが良くないかもしれません。なぜならセックスをするということは、腟に挿入したペニスなどで、膀胱を裏側から刺激することにつながります。
炎症が起き、痛みなどがある時に膀胱を刺激されると、性的快感よりも不快感のほうが先立って、いつもの気持ち良さが得られないことのほうが多いでしょう。
膀胱炎が治るまでの間はセックスを絶対にしてはいけないということはありませんが、膀胱炎が完治してから再開したほうが、よりセックスを楽しめるはずです。相手の気持ちに応えたいと思うかもしれませんが、自分の気持ちに添って行動しましょう。
なおその時は先ほど紹介した予防法を実践して、膀胱炎の再発を防ぐことを忘れないようにしましょう。
膀胱炎は再発しやすい病気、油断は禁物です
人によってはセックスをするたびに繰り返してしまうこともあるなど、膀胱炎は再発しやすい病気です。そうなってしまうと今度は「また膀胱炎になるのではないか」という不安で気持ちが沈んだり、セックスに消極的になったりといった別のトラブルにつながる可能性もあります。
適切に予防することで膀胱炎の発症や再発の確率はぐんと減らせます。油断しすぎず、アフターセックスまで健やかに過ごして、膀胱炎を正しく防ぎましょう。
(監修:宋美玄、取材・文:山本尚恵)
※画像はイメージです
参考文献
[*1] がん情報サイト | がん情報各論:[患者さん向け]尿道がんの治療(PDQⓇ)「尿道がんについての一般的な情報」
https://cancerinfo.tri-kobe.org/summary/detail_view?pdqID=CDR0000435963