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【新連載】苦しかった彼との恋は、今ではまるで夢のよう……

見上げると営業所の通用口のひさしに、
いつの間にか蜂が巣を作っていた。

「ああ、これアシナガバチの巣ですね。
面倒だから今のうちに落としましょう」
そう言うと加賀くんは、
通用口を素早く開けて中へ入り、
モップと殺虫剤とゴミ袋を持って戻ってきた。
そうして広げたゴミ袋の上に蜂の巣を落とすと、
たっぷりと殺虫剤をかけて袋の口を固く結び、
巣のあった場所にもスプレーする。

「これで大丈夫だと思います」
その時の笑顔が、ひどく心に染みた。
まるで何か、傷口を消毒されたようだった。

「で、どうしようか」
「あの……何がですか?」
「ゴルフの打ちっ放しに行く話だけど」
「え、行ってくれるんですか。やった!
えーと、じゃあまずは道具を片付けてきますね」
「あ、ね、ちょっと待って……」
あわてた加賀くんはカードキーを持ったまま、
中に入りドアを閉めてしまった。
締め出されたわたしは、やれやれと空を仰ぐ。
ああ、きれいな青空。
今年の夏は、いい夏になるといいなあ。

(おわり)

※この記事は2013年07月04日に公開されたものです

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