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クリエイターのお部屋にはアイディアがいっぱいつまってる

「外はお仕事モードの場所で、部屋はなんだろう? こもりモード?(笑)」

そう言ってお部屋の紹介をはじめてくれたのは、東京都世田谷区の1DKに住むたきせあやえちゃん。白く塗られた壁がかわいい、果物の名前がついたアパートに住んでいる。玄関ではお気に入りのフライヤーが出迎えてくれて、アパートならではの大きなドアがのどかな光をキッチンにとどけている。

美大を卒業して、ウェブサイトのディレクションから、シェアオフィスのコミュニティマネージャーまで、彼女の仕事は多岐にわたる。実は少しまえに彼女に偶然出会ったときから、この透明感と軽やかで繊細な物の見方はどこからくるんだろう? と思っていた。

「キッチンは今カオスだから見ないで!(笑)」

入ってすぐ右手にあったキッチンに目を向けると、そんな声が飛んできた。でも、キッチンもちゃんときれいだ。

言い忘れたけれど、あやえちゃんの才能は職業だけにとどまらない。自身もアーティストとして作品を制作しているというワンルームのお部屋には、大きな低いテーブルがあって、作品のかけらが広げられている。

「このローテーブルは祖父母から譲り受けたもので?…ちょっと大きいけど、なかなかしっかりして味もあるでしょう。すごく気に入っていて、ここで仕事もしたりするし、作品も作ってるんだ」

「ひとつひとつのパーツを、服のパーツをデフォルメしたものから作り出してるんだ。陶器で作っているものもあれば、これはコルクをレーザーカッターで加工したもの。あ、ちょっとまってね。接着剤をこうやって混ぜて……」

薬剤をへらで混ぜてくれるあやえちゃん。部屋のなかにはなんだか変な匂いが漂ってきた。

「そうそう臭いんだよね! でも、こうやってほら、できた」

差し出してくれた手のひらには、作品がもうできあがっている。「普段お部屋のどのあたりで過ごしているの?」と聞くと、「このへん?」とマットレスを指差した。

「すのこの上に直接マットレスを置いたの。ここで作った作品を眺めたり、窓から入ってくる光を眺めたりするのも好き。ここで何をする、と決まりを作ってはいないかな。お部屋で過ごすのに気をつけていることは、こまめに掃除すること。散らかっちゃうと頭の中も散らかっちゃって、落ち込みやすくなってしまう。だから小さい掃除を週に1回してる。綿棒とか使って……」

おおらかなあやえちゃんから綿棒という言葉が飛び出したのに驚くと、

「えっ変かな?(笑) 部屋の状態で今の自分がわかる気がするんだ。部屋を綺麗にしていれば、外に行っても、なんか大丈夫」

と続けた。

そう、あやえちゃんの部屋は彼女のアトリエでもあり、自分に戻る場所でもあり、それはおそらく彼女自身でもある。だから、少しずつ気持ちの整理をつけてまえに進むように、こまめに部屋を掃除して、毎朝カーテンからこぼれる朝日をあびて1日をはじめている。

バスルームには陽の光があふれている。東京で窓があるお風呂って珍しい。

この部屋でお気に入りのポイントは?

「やっぱりこの大きい窓。朝、ベッドからカーテンの間から光がふわっと入ってくるのを見るのが好きなの」

エリアにもこだわりがあるの?

「桜新町といえば、サザエさんの街って言われてるじゃない? 私昔から忘れ物することが多くって、サザエさんに勝手にシンパシー感じていて……(笑)」

そういうところがもうすでにサザエさんぽい。

「“サザエさん通り”を通って帰るでしょう? 外壁見てほしいなぁ。すごくかわいいよ。あれ毎日楽しみにしてるの」

うれしそうに話してくれるあやえちゃん。だけど、実はこのお部屋はもうすぐ引っ越しなんだって。

「実家のある横浜に帰ることにしたの。実家のほうも、いいところなんだ~」

そう言って猫のようにのんびり見上げる空は真っ青で、向かい側の家にはみかんの実がなっていた。

この取材が終わったあと、あやえちゃんからメッセージが入った。

「この前はありがとうございましたー! ところで祖父母から譲り受けたローテーブル、カリンの木でできているそうです。引っ越しが惜しい」

彼女が毎日作品を作っているというローテーブルの原料のカリン、教えてくれたとおり木材として使われているのは珍しいのだそう。あの丸っこくて光沢のある質感が蘇る。カリンの花言葉は「純粋な恋」、「努力」。

クリエイティブに敬意をはらって働けるところを一生懸命探して、働いて、家では自分と向きあいながら作品を作っている。そのひたむきさと、作品作りに向ける乙女のような純粋な気持ち。

あやえちゃんの透明感と軽やかさのひみつは、そんな彼女のお部屋、いや、あの机にあったのかもしれない。

(文・写真:出川 光/マイナビウーマン編集部)

※この記事は2018年04月17日に公開されたものです

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