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ここに住み続けるために、もっと仕事にチャレンジできる。ギャラリーオーナーのお部屋

「ここねー、今まで住んだなかで一番広い部屋なの」
雑司が谷から歩いて15分ほど。外国のカフェのようなモダンで開放感のあるお部屋を取材しにきた。1LDKで40平米ほど、ダイニングスペースにはカフェテーブルとソファが置かれており、窓の外にはコンクリートに這った蔦が見えている。時折そこに遊びに来た鳥の声がする。閑静な住宅街である。

インタビューに答えてくれるのは、石川かよこさん。自由が丘でアーティストが制作したインテリアやクラフト雑貨、作品を販売するギャラリー「KIAN」のオーナーでもある。最近引っ越したばかりで、30件以上検討して決めたというお部屋をうれしそうに見渡す。

自身が運営するギャラリーで展示したり販売したりする作品を探すのがお仕事とあって、お部屋の中のインテリアも一味ちがうようだ。さりげなく出してくれたマグカップは、手にもつと大量生産されたそれではない感触だ。

「そのカップはANNA BEAMさんというロンドンの作家さんが作ったものなの。インスタグラムで見つけて素敵だなと思って展示してもらったんだ。その花瓶もだよ。かわいいでしょう」

絵の具から出したようなブルーが冴える花瓶も作家さんの作品だと知ると、この部屋にあるものがすべてアーティストの作品なのではないかと思ってしまう。どれが作品なのかと尋ねると、次々にインテリアを紹介してくれた。

ソファの上に置かれたブランケットはSLOWDOWN STUDIOという、グラフィックデザイナーが主催するブランドのもの。

寝室の目隠しに使っているのはMIRADORというオーストラリアの作家さんが制作したストール。ちょっとしたお皿や箸置きなどいたるところにかよこさんの目利きにかなった作品が散りばめられている。

もしかしてこれもかな? と目を向けたネイビーに塗られたカフェテーブルを指すと、

「ううん、それはもともとあったテーブルに色を塗ったんだよ」

とさらりと返ってきた。

「椅子は落ちてるのを拾ったの」

と続けるかよこさん。なんかそういう身軽にDIYができてしまう感じや、さっきから洋楽のベース音を唸らせているスピーカー、このお部屋にある何もかもが羨ましくなってくる。一体どんな風にしたら、彼女のように自由で身軽に、こんなおしゃれな生活ができるんだろう。

「今の仕事は、ギャラリー『KIAN』のキュレーターとアーティストのコーディネーター。フリーランスとしてふたつを軸に仕事をしているよ。基本的にはギャラリーにいて、店番をしながら別の仕事をしたりもする。月に一週間くらいはギャラリーの作品を入れ替えるので、その間は家で仕事したりもする」

それだけ聞くと、忙しくて息をつく間もないような生活を想像してしまう。

「昔、仕事がすごく忙しい時期があったから、ふっと息をつく何気ない時間がなかったんだ。仕事をして、夜ご飯作って、翌日のお弁当つくって、洗濯をしたら、もう座る時間もなかった。それじゃいけないと、思い切って半年間お休みをしてからは、意識的にひと息つく時間をつくるようになったんだ。昔は夜中の1時や2時まで働くのが当たり前だったけど、今は家で仕事をしていても切り上げるのが早くなったと思う。ひと息つくときはこのソファに座っているよ」

一番のお気に入りスポットはと尋ねると、寝室に案内してくれた。ベッドの横のガラス張りのドアからは外に出られるようになっている。

「このガラスのドアから、朝日がたくさん差し込んでくるところが大好きなの。朝日と一緒に起きて、ベランダで日光浴をしてから家を出るんだ。最近カラダをメンテナンスすることの大事さに気づいたんだけど、このお部屋のおかげかもしれない」

彼女にとってこのお部屋はどんな存在なのだろうか。

「フリーランスとして働く理由みたいなものかな。実はこのお部屋、広さも家賃の高さも過去最高なの。正直、いまのお給料に対してすごく余裕があるわけではないから、ちゃんとこの家賃を払うということがモチベーションになってる。この部屋を失いたくないから、もっと仕事もチャレンジしてみる。会社に勤めていたこともあったけど、今のフリーランスの働き方も大事にしたいんだ」

一見すると、身軽で自由で、怖いものなしのように見える。かよこさんはそこで暮らすことで、フリーランスでいることの幸せと責任を、ちゃんと確かめていた。

(文・写真/ 出川 光)

※この記事は2018年04月25日に公開されたものです

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