執着心との向き合い方が変わる。『その恋、執着です』書評
仕事、結婚、からだのこと、趣味、お金……アラサーの女性には悩みがつきもの。人生の岐路に立つ今、全部をひとりじゃ決め切れない。誰かアドバイスをちょうだい! そんな時にそっと寄り添ってくれる「人生の参考書」を紹介。今回は、『その恋、執着です(大和出版・見知らぬミシル著)』を、ライターのミクニシオリさんが書評します。
女性の人生を狂わせるものを3つ挙げろ、と言われたら、私はこう答えます。
男、美、お金。この3つの共通点って、なんだと思いますか?
それは、執着が生まれるということ。一度手にしてしまえば、ないことに耐えられない。そして、追っても追っても手に入った気にならない。その理由は、追いかけているものが男や美、そのものではなく、追いかけてきた自分自身への執着になっているから。
誰しも経験したことがある「執着」の感情ですが、たいてい自分から切り捨てるのは難しいもの。だからこの本は、執着に自覚がある人ではなく「自分は恋愛において執着していない」と思っている人や、友人が執着的な恋愛をしていて、心配している人などにおすすめです。
【この本を読んで分かること】
・自分が執着を持って生きているという客観的な事実
・執着を自覚して、開放される方法
・執着とともに上手に人生を生きるコツ
誰もが執着心と隣り合わせの人生
私は、自分の人生は執着だらけだと思っていました。振られる時は別れたくないと泣きついたのに、別れて1週間経ったら大嫌いになった元カレもいたし、なんとなく入れてみた顎のヒアルロン酸だって「ないと死ぬ」と思っていた時期もありました。ウィズマスクの生活に慣れた頃、気づいたらヒアルロン酸の入っていない顎に慣れていました。
いつだって自分の執着心に気づくのは、その時期が過ぎ去ってから。超一般人の自覚を持っていても、気づくとハマってしまうのが執着の沼。『その恋、執着です(大和出版/見知らぬミシル著)』の著者である見知らぬミシルさんは、カウンセラーとして一般人の恋愛や人生の相談に乗っているインフルエンサー。そんな彼は、執着を「自分を苦しめる思いを手放せないこと」と定義しています。
たぶん執着とは、思い込みのようなものです。執着するものがあると、それが自分の軸のような気もしてくるので、「私はこうするしかないんだ!」と、ダメ恋愛の真っ只中でもなぜか胸を張って言えてしまう、ヤバい状態になってしまうんです。だけど思い込んでいるわけですから、自分ではその沼から抜け出すことはできません。
本の冒頭に執着度を判定するチェッカーがあったので、試しにダメンズを渡り歩きがちな友人に自己診断をしてもらいました。しかし真に執着をしている人は、自分が執着しているとは思いたくないのか、異様にポジティブにチェッカーに取り組み「ほらね、執着とかしてないんだってば」とドヤっていました……。自分に執着心があるかを自己判断するのはかなり難しそうなので、仲のいい友人と一緒に内容を確認するのがベストだと思います。
本の前半では、執着心を抱いてしまいやすい女性の特徴や、執着心を抱かせやすい男性の特徴などが語られていきます。チェッカーでは自分の行動を顧みることができなくても、特徴を客観的に読みこむと、いくつか「これ、私のことかも」と感じざるを得ない瞬間も。人間関係が狭い、SNSが好き、真面目すぎる、実は女性として見られたいと思っている……など、意外にも自分含め、多くの女性に当てはまりそうな項目も多かったです。そのくらい、私たちは執着と隣合わせなのだと、改めて考えさせられました。
女性は自身の恋の話を周囲に打ち明けがちですが、その時に友人たちから否定的な意見をもらったことのある人も多いのではないでしょうか。私自身も過去の恋愛で「そんな人で大丈夫?」と友人から心配されたことが何度もありましたし、自分だって何度も、友人にそう言ってきました。決して意地悪で否定しているわけではありません。客観的に考えて、その女性が傷つくのではないか、そう心配して声掛けされていることがほとんどでしょう。でも、自分ではなかなかその意見をまっすぐに受け取ることができませんでした。
本を読む時は一人きりなので、目の前の本と自分と、じっくり対話することができます。あの頃友人から言われてもピンと来なかった言葉と同じようなことが書いてあるページもたくさんあって、自分でも少しヒヤリとしました。
本を読んで分かったのは、恋愛する中では誰しもが執着しやすいということ。性格によって多少の誤差はあれど、常に「これは執着なのかな?」という自分への問いかけを続けることが必要なのだと気づきました。
執着に向き合うと、恋愛だけでなく人生が変わる
後半部分に記された「執着の手放し方」も、かなり参考になりました。相手に頼る、モテてみるなど、言うは易し、行うは難しな項目もいくつかありましたが、楽観的な言葉を口癖にする、運動してみるなど、根本的なネガティブ思考を解決する……などの今日から始められそうな行動改善も提案してくれています。
そして本の末尾には恋愛に限らず、人生そのものを豊かに生きる考え方のコツも書かれています。自己肯定感という言葉に常に縛られる現代を生きる私たちに「善悪や優劣で自己判断するな」と語りかける著者。執着はよくない、執着するくらいなら恋愛などしないべきなど、白黒思考で善悪を区別するのも、よくないのだそうです。
自己否定して反省した気持ちになっていても、行動が変わらなければ執着に養分を吸い取られる人生のまま。人の恋愛事情がSNSでおおっぴらにひけらかされる現代だからこそ、自身の感情や自己承認の大切さを思い知らされます。こういった自己との向き合いには、本音で語れる友人との語り合いや、自分を作らずに接することができるカウンセラーなどとの対話も重要なのだそう。
本を読んでも、すぐに執着心を捨てられるわけではないかもしれません。だけど、読後は「執着とともに生きていく」という覚悟ができました。自分が何に執着しやすいのか、どんな時にムキになったり、傷つきやすいのかを理解していくことで、執着心に囚われすぎずに生きていくことができるのだと思います。
大切なのは、過去や現在の状態に囚われず、ありのままの自分を好きになること。自身の執着心と向き合うことで、恋愛だけでなく、人生そのものの舵を大きく切れることもあるはず。
私がこの本を手に取ったきっかけは、友人の執着的な恋愛を心配したからなのですが、最後は「自身の執着心」に向き合うことになってしまいました。執着とは決別していたと思いこんでいたけれど、今も自分は執着とともに生きていました。けれど自覚的に本を手に取れる人は、きっと少ないはず。だから、きっかけは「友人の恋」でもいいと思います。そうすればその友人と一緒に、幸せへの第一歩を踏み出すことができるでしょう。
(ミクニシオリ)
※この記事は2024年01月20日に公開されたものです