【File54】失恋後、ネトストで本命彼女を特定した話
今振り返れば「イタいな、自分!」と思うけれど、あの時は全力だった恋愛。そんな“イタい恋の思い出”は誰にでもあるものですよね。ライター・コラムニストに過去のイタい恋を振り返ってもらい、そこから得た教訓を紹介してもらう連載です。今回はぱぴこさんのイタい恋。
イタい恋愛……と振り返って一瞬フリーズしてしまいました。
なぜならミドサー結婚7年目ともなると、恋とか性欲とか執着とかのクソデカ感情に振り回された日々など、「存在した?」レベルで遠い昔のことだからです。埃をかぶった記憶から「イタい恋愛」を引っ張り出した結果、思い出し怒りでイライラしてしまいました。
ちなみに、本原稿を書くにあたり最初に調べたことは「不正アクセス禁止法」の時効の確認でした。どうやら犯罪行為から3年で時効だそうで心置きなく記載できます。
結婚する女友達の夫の大学同期
当時、私は焦っていました。27歳。結婚適齢期。
周囲にはポツポツと結婚する友人が出てきて、届く招待状、結婚式で埋まる予定……。「まだまだイケるっしょ」という気持ちと「このまま一人だったらどうしよう」という気持ちを高速反復横跳びする、情緒不安定期です。
27歳の私は、結婚するつもりでプロポーズをされていた恋人と、遠距離恋愛を原因として双方合意の上で別れたばかりでした。久々にシングル街道に放りだされ、焦りと同時にフリーの自由さも思う存分味わっており、「正常な判断能力が無い脳みそお花畑の浮かれポンチ状態」だったと言えます。ええ、イタい恋はこういう時にやってくるのです。
脳内パッパラパー状態の中、結婚する女友達から「夫(予定)の大学時代の友人が出会いを探しているから飲み会できないかな?」と誘われた先で、私は人生の汚点、黒歴史の男と出会ったのでした。
彼は出版社勤務の編集者で、私の周囲にいなかった「文化系サブカル男性」でした。あの映画、この本、そのゲーム! え、あれも知ってるの!? 私も好き!! といった具合に、初めて「趣味が合う」男性の登場にテンション爆上がりし、恋に落ちました。ラブ・ストーリーは突然に。
クリスマスデート、指輪のプレゼント、そして……
何回かデートをし、彼に彼女がいないことを聞き、友人にも確認した上で交際っぽいステータスに移行、約2カ月頃でクリスマスを迎えました。
24日と25日を過ごす約束をして胸をなでおろす私に提示されたデートプランは「THE 王道デート」でした。24日夜にクリスマスコンサート鑑賞後、ホテルディナー、ホテル泊……という、これでもか! と正解を詰め込んだコースです。
当日は楽しく過ごした上に、クリスマスプレゼントに差し出されたのは指輪。指輪は、デート時にジュエリーショップで「かわいい~」とつぶやいたものを用意してくれるサプライズ。最高の流れに、脳内ファンファーレが鳴り響き天使がラッパを吹いて祝福します。
なんとも思っていなかったら指輪なんて贈らなくない!? 「これは完全にいけるっしょ……」なんてことを考える暇もなく、「嬉しい! 楽しい! 大好き!」な最高な夜を過ごしました。
ドリカムが流れるくらい浮かれてた私は、自分が「恋人ではないなにか」である可能性など微塵も持たず「このまま付き合うよね~」と激甘な見通しを立てていました。
素敵な夜を提供してくれた彼への恋心は加速し、ご機嫌に迎えた25日のクリスマスの朝。指にはプレゼントしてもらったダイヤのリングが光ります。
なのに、あれ? まだ早朝なのに、彼はそそくさと帰り支度を始めています。チェックアウトはお昼ごろだったはずだし、「え、早くない??? どうしたの???」と素直な疑問をぶつけると、こちらを一切見ずに彼が言葉を発しました。
「これから彼女とデートだから、帰ります」
え、ウケる。
指輪のダイヤモンドをあなたの血で染めろってこと???
私、ルビーも好きよ???
昨夜、流れていた祝福のラッパは、世界の終末を呼ぶ黙示録のラッパへと早変わり。危うく某ラグジュアリーホテルに血のクリスマスの刻印を刻むところでしたが、凶器が周囲に無かった点に神のご加護を感じます。
「どういうこと?」と詰め寄る私。
「とりあえず出るから……」と逃げる彼。
押し問答の末に、本命彼女とのデート後の26日に説明時間を取る合意を経て解散しました。その場でアポを取った自分は偉いと思いますが、人間は自分の脳の処理限界を迎えると通常では考えられない行動を取ってしまうのかもしれません。
「モテを味わいたかった」
26日、本命彼女とのデート後に説明責任を果たしに現れた彼は、誠実なんだか不誠実なんだかよく分かりませんが、私からの「なぜ、このようなことをしたのですか?」という質問の回答は「モテ気分を味わいたかったから」でした。お前は藤本(モテキ)か。
彼は「モテ」に対するコンプレックスがあると再三語っていました。何度か話には聞いていましたが、スペックやビジュアル的に「困る」要素があるとは思えず、あまり真剣に考えず聞き流してしまっていました。
しかし、彼にとっては「モテ」は自分のアイデンティティに関わる非常に大きな問題であり、今回の浮気は「彼女がいながら別の女の子とも付き合う自分」という虚像に酔える、降って湧いた大イベントだったわけです。
「本命彼女がいる状態で他の女性と恋愛関係になったことで自尊心が満たされた。彼女がいる状態での“遊び”のため、自分が傷つかず、余裕をもって振る舞えた。強者の立場になれた」ことが非常に魅力的だったそうです。恋愛工学的な発想が根底にあるようでした。
「モテるための装置」として利用されたことは非常に腹立たしく、反射的に暴力行為に出てしまったのですが、これも時効は成立しているので大丈夫です★
イタい恋は女に執念とネトスト技術を授ける
「自分が浮気相手」という事実を突きつけられ、相手の欲望を満たす装置扱いを受けたことはショックでした。ショックのあまり殴る蹴るの暴行を加えてしまいましたが、即座に彼と関係を切ることはできませんでした。「モテを味わいたい」彼は、自ら離れていくこともありません。
そんな中で私には、怒り・執着・嫉妬・対抗心・好奇心が混ざった「本命彼女はどんな女なのか」という興味が湧いてしまいました。自分以外の本命彼女がいる以上、「相手」が気になるのは人間の性です。
「彼女」の存在を私に馬鹿正直に伝える、恋愛経験が無い男の相手を突き止めることなど赤子の手をひねるより容易いことです。人生最初で最後の“モテ”に浮かれているため脇も甘く、また、女の執念を経験として理解できていないので、様々な情報の隠ぺいが下手くそでヒントが駄々洩れでした。そんな状態の人間の周辺情報を調べるなんて簡単! こちとらWindows95からインターネット触ってるんだぞ。
大学情報などからmixiページを特定
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mixiから元カノを特定、写真確認
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mixiで過去の当人の日記をサルベージ、過去開設ブログを特定
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mixiとブログの記事整合性、日付情報から現彼女との交際開始時期特定
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facebook情報を確認し現彼女候補を絞る
当人の個人情報は知っている状態なので、概要情報を集めるのは難しくはありませんでした。
どんとこい! 不正アクセス禁止法
本命彼女のことを知りたかったのは、さっさと踏ん切りをつけて関係を終わらせたかったからです。そんな私の気持ちも裏の情報収集も知る由もない彼は、スマホやPC管理がザルでした。
結果、仕事PCを私の自宅に置き忘れるというインシデントを起こします。郵送での返却も視野に連絡を取ったところ「〇〇日にそっちに行くからその時でいいよ~」と、相変わらず私と定期的に会ったり、家に来ることを当たり前と考えている態度にスっと心が冷えて迎撃スイッチがONになりました。
まぁ、PC、見るよね。パスワードのロックは、いろいろやって外したよね。Gmailはもちろん、カレンダー情報も見るよね。
本命彼女との連絡は一部Gmailで実施していたようで、連絡先、名前、スケジュール、旅行の写真などが確認できました。
お相手は私とはまったくタイプが違うため比較する気持ちにもならず、かつ「誰か」が分かったため、憑き物が落ちたように興味が失せました。
執着した時の女のリサーチ能力は異常というのは有名な話ですが、対象が明らかになったことで気が済んだ私は、PCを返却したあと、無事連絡ブロック! して関係を終了することができました。ラッキー!(ラッキー?)
イタい恋から得た教訓「相手の言葉を自分に都合よく解釈してはダメ」
原稿を書きながら苦虫を噛み潰したような顔になるほど忌々しい過去ですが、学びはありました。一番重要な点は「本人から明確な回答を受領すること」につきます。
私が「彼女いないんだよね?」と聞いた時、彼はYESともNOとも言わずに会話を続けることで誤魔化しました。私はその沈黙を「YES」と解釈してしまったのです。相手がずるいのは確かですが世の中にはハンター試験よろしく「沈黙! それが正しい答えなんだ」と、無音を都合よく利用する人は存在します。
恋愛をしていると相手の言った一言や仕草で一喜一憂したり、何気ないやりとりで盛り上がったりしていまいます。また、信頼している友人や関係性があると、つい「この関係性で下手なことをしてこないだろう」と自分に都合の良い解釈をしてしまいがちです。感情の起伏は恋ではなく「勘違い」を加速させるだけなので、安易な刺激に惑わされて本質を見失ってはいけません。
自分が聞きたいことへの答えを持っているのは当人のみです。最終的な回答はきちんと本人の口から明確に、誤解の余地がない回答を受領しましょう。曖昧にしたいことこそハッキリと! これを意識すると仕事の交渉も強くなりますよ♡
また、失恋直後や長い恋人との突然の別れの後も判断能力がバカになりやすいので、「男の傷は男で埋める!」なんて言わずに、少し時間をおいてゆっくり自分を振り返ることをオススメします。皆クレイジーでハッピーな恋をしようね!!!
(文・ぱぴこ、イラスト・菜々子)
※この記事は2022年06月26日に公開されたものです