【File20】B級ホラー彼氏とのイタい恋
今振り返れば「イタいな、自分!」と思うけれど、あの時は全力だった恋愛。そんな“イタい恋の思い出”は誰にでもあるものですよね。今では恋の達人である恋愛コラムニストに過去のイタい恋を振り返ってもらい、そこから得た教訓を紹介してもらう連載です。今回は羅生門の老婆さんのイタい恋。
あれは人生の中でどん底だった時……。
今から5年以上前、まだ私が恋愛の右も左もよく分からなかったくらいの時に出会ったのが、見た目は平凡で可もなく不可もなくの地味系男子。私は恋人に顔面偏差値や高いスペックを求めるようなタイプではなかったので、その方と順調にお付き合いを始めました。その選択が私に「イタい恋」をさせてしまうことになるとは当時予想もせずに……。
初めは優しく、職場近くまで送り迎えをしてくれるなど、細かな気が利く好青年という印象でした。
しかし、私が職場の方たちとご飯に行った日のこと。みんなで和気あいあいとした様子をSNSにあげた私が、「今○○(職場)の人たちとご飯食べて帰るところなんだけど、迎えに来れたりする?」と彼にLINEを送ると、
「は?」
とだけ返信が。
今までこんなに冷たい態度の彼は見たことがなかったので一瞬頭が真っ白になりましたが、一度冷静になり、「何かあったの?」と尋ねてみました。すると……。
「お前、男と飯行っただろ」
え? 再び頭が真っ白になりました。男と2人きりだと勘違いしたのかな? とも思いましたが、SNSにはちゃんと全員の写真をあげたのに……とその時は本当に意味が分からなくなりました。
話を聞いた結果、最終的に言われた言葉は「1人でも男がいる場に行くなら別れる」でした。
そうです。彼は隠れモラハラ男子だったのです。
でも、その時の私は「いちいち避けられるわけないでしょ! だったら別れるわ!!」ではなく、「まあ根は良い人だし、私が少し我慢すれば良いだけの話か」と思ってしまったのです。
「まあ良いか」で流した違和感。しかしそれがエスカレートしていき……
しかし、その日からは彼の本性がだんだんと浮き彫りになり、「今○○さんと○○にいる」と一回一回連絡するのが必須になったり、彼がNGを出した誘いは全て断ったりと、彼中心の生活が始まりました。
そして私がオシャレだなと思った服を試しに買い、彼とのデートにウキウキで向かった日のこと。
彼が私に言ったのは、
「お前は地味に生きてるのがお似合いなんだから、人前で目立つような服を着るな」
という台詞でした。
それ以来その服は一度も着ませんでした。そして「私はキラキラした女の子のキャラじゃない」と思い込み、自分で自分を暗く地味にしていく方向に……。
彼中心の生活では何が正解かも分からず、客観的な見方もどんどん鈍くなっていきました。だからこそ周りの「別れた方が良いんじゃない?」という意見も無視し、彼だけを信じてしまったのです。
当時の私は自分がイタい恋をするイタい女だなんて1ミリも思っていませんでした。しかし、周りを見られず何の取り柄もないモラハラ男にすがりつく女はイタい以外の何者でもありません。
決定打は浮気。彼のスマホを見ると……
極めつきは「浮気」でした。
特にイケメンでもない平凡な男性が浮気なんてするわけがない、というかできるわけがないと考える人もいるかもしれませんが、ほとんどの人間は顔、スペック含め総合点が大体同じ人間と恋愛をするもので、どんな人でも総合点が同じくらいの人間となら浮気できるのがこの世というものです。
彼はかつて職場が同じだったという女性と浮気していました。悪いこととは分かりながらも彼のスマホをこっそり開き、その女とのやり取りを盗み見ると……。
「彼女が重いんだよね〜」という彼氏のメッセージに対して「そんなのもう別れちゃえば〜?」という女の返信と共に、定期的に繰り広げられる通話。
束縛してきたのは彼の方なのに、「重い女」と言われている絶望感。そして「こんな人間に時間を割いてしまった」後悔がドッと押し寄せて来ました。
誰と遊びたいか決めるのも私で、キラキラ女子になるかどうかも私が決めて良かった。誰の指図も受ける必要なんてなかったと、遅ればせながらその時目を覚ますことができました。
イタい恋から得た教訓「客観視を忘れてはいけない」
「顔が良いから付き合う」「収入が良いから付き合う」と言った理由の方がキッパリ別れられたり、ケジメがつけやすくなったりします。それは、好きな理由に「○○だから」と完結に言えることで、別れる理由にも明確さを見出すことができるからです。
しかし、この恋愛のような「何となく中身を好きになった」場合は終着点がなかなかありません。一番目に見えない「中身」のみを付き合う理由にしてしまうことで、去り際を掴めなくなるのです。
これが、私がモラハラ男と別れるタイミングを見失ってしまった一つの原因でもあります。
そしてもう一つの原因は、愛情の起伏が激しかったことにあります。彼はある日は優しく、ある日は冷たく、特に理由もないのに私に態度を変える人でした。例えば、1カ月以上急に冷たくされたら「もう別れようかな」という気持ちにもなるものですが、冷たくされて不安になっていた矢先に優しくされてしまうと余計に好きになってしまうという「飴と鞭」的な心情になります。
そして、彼からの愛情の起伏に合わせて自分の精神も不安定な状態になり、それが依存へと繋がって最終的に離れられない状態になってしまうのです。
この男性と付き合っている時は我慢の連続で、それが我慢ということもストレスになっているということにも気づかずに突っ走っていました。しかし、いつしか心身共に限界が来て、自分から別れを告げることになります。
最後は意外とあっさりでした。「もう別れよう」とLINEで一言だけ送ると、「お前は一生幸せになれない」とだけ返ってきて、私のイタい恋は終わりを告げました。それ以来、誰と付き合ってどんなに幸せな思いをしても、具合が悪い日の夜は私の耳元であの男が「お前は一生幸せになれない」と囁いてくる夢を見ます。
はい。あっさり……とは言ったものの、全くあっさりした別れではありませんでした。ほぼホラーです。
みなさんはどうかイタい恋愛をしないように、どんなに浮かれている時もどんなに病んでいる時も「客観視」を忘れないでくださいね。
みなさんが一生幸せになれる恋愛ができることを心から願っております。
(文・羅生門の老婆、イラスト・菜々子)
※この記事は2021年10月03日に公開されたものです