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【File21】クリスマスイブに急遽宿泊研修の予定が入る彼との恋

#イタい恋ログ

深爪

今振り返れば「イタいな、自分!」と思うけれど、あの時は全力だった恋愛。そんな“イタい恋の思い出”は誰にでもあるものですよね。今では恋の達人である恋愛コラムニストに過去のイタい恋を振り返ってもらい、そこから得た教訓を紹介してもらう連載です。今回は深爪さんのイタい恋。

彼とは合コンで出会った。某大手企業勤務で顔もスタイルも良く、話も面白くて、気遣いもできるパーフェクト超人みたいな男性だった。

みな彼を狙っていたが、私なぞ箸にも棒にも掛からぬ存在だろうとハナから期待をせず、ひたすらビールを飲んでいると「お酒、好きなんだね」と頭上から彼の声がした。

「ええ、まあ」と顔も上げずにそっけない返事をしたが、内心「っっしゃあああああ!!!!」と大きくガッツポーズを決めてたし、大気圏をブチ抜く勢いで舞い上がっていた。

私の横にすっと座り「お酒好きな子、良いよね」と私の目をじっと見つめながら微笑む彼。早くも脳内ではウエディングベルが鳴り始めた。そしてその夜、電話番号の交換もそこそこに体液の交換をしてしまった。思い立ったが吉日、ならぬ、乳首立ったが吉日である。

身に余る彼氏を手に入れて浮かれていたが、ひとつだけ気になることがあった。なぜか彼は私を自宅に入れたがらないのである。部屋が散らかっているからとか恥ずかしいものがいっぱいあるからなどと理由を並べて、家に入らせない。

軽く不信感はあったものの、あまりに頑ななので「きっと何か人には言えない事情があるのだろう」「男性はミステリアスな方が魅力的」「全部知ってしまったらつまらない」と自分自身を納得させた。しかし、付き合っていくうちに「気になること」はどんどん増えていく一方だった。

募る不信感。やっぱり隠し事が……?

ふたりの初めてのクリスマス。言うまでもなく、カップルが最高に盛り上がるイベントである。

「いろいろ考えておくから楽しみにしていてね」とサプライズを匂わせる彼に、期待と乳首を膨らませていたのだが、1週間前に突然「ごめん! イブに宿泊研修が入っちゃったからクリスマスデートは23日に変更して」と電話がかかってきた。

若干引っかかりがあったものの「お仕事お疲れさま。大丈夫だよ! イブイブ、楽しもうね♡」と返事をした。ちなみに、特にこれといったサプライズはなかった。きっと研修の準備でそれどころではなかったのだろうと、これまた自分自身を納得させた。

その後も、私の誕生日に彼の叔母さんが突然亡くなったり、バレンタインデーに実家の両親が急に訪ねてきたりと、イベントがいちいちキャンセルされたが、そのたびに自分を強引に納得させ続けた。

相変わらず私の頭の中はお花畑だったが、さすがにここまで続くと不信感がぬぐえなくなった。さりげなく「ねえ、なんか隠してることない?」と彼に聞いてみると、「え、ないよ? そんなことよりウチに来ない?」と思わぬ答えが返ってきた。あれほど頑なに自宅に入れなかった男がである。あまりの嬉しさに不信感なぞ、一瞬でどこかへ吹き飛んでしまった。

だが、どこかへ吹き飛んだはずの不信感は秒速で舞い戻って来た。彼の家でシャワーを浴びようと脱衣所に入ると、洗面台に銀色に輝くスティック状のものが目に入った。口紅である。

いくらなんでもこれは言い逃れできないだろう。銀色に輝くスティック状のものを彼の目の前に突き出して「これなに?」と追及すると、あろうことか「あちゃ~、バレちゃったか。恥ずかしくて黙ってたんだけど、俺、趣味でたまに化粧するんだよね~。誤解させちゃってゴメン!」と澄み切った大空のような笑顔で答えが返ってきた。

さすがに「そうなんだ! じゃあしょうがないね!」とは思えなかったが、「私を傷つけまいとこんな“優しいウソ”をついてくれるなんて、私って超愛されてるのかも」と強引な解釈で再び自分自身を納得させた。

ふとした瞬間に頭をもたげる不信感を「でも毎日電話くれるし」「でも好きっていってくれるし」「でも会ってくれるし」と、「でも」で打ち消して自分を誤魔化しながら付き合っていた。

しかし、彼の携帯の中に他の女とのいかがわしい写真を見つけた時には、さすがにギブ。混乱の中、ひとつだけはっきり分かったのは、私は「彼女」などではなかったということだ。

彼女でもないのに別れるもへったくれもないが、とりあえず「私たち、もう終わりにしよう」と告げた。すると「本当にゴメン。こんなことになっちゃったけど、できれば今後も関係は続けたい」とキラキラと目を輝かせながらお願いをしてきた。

ナイスチャレンジだが、さすがにこの状況で「うん! わかった!」となるはずないだろう。なんでこんなクルクルパーが好きだったのか。突然我に返り、それを最後にもう二度と会うことはなかった。

イタい恋から得た教訓「楽しさよりも不安が勝り始めたら恋愛末期」

「別れの予感」は”直感”などではなく、相手の態度から客観的に判断した確信的な感情なのだと思う。恋愛中、楽しさよりも不安感が勝って追いすがりたいような気持ちになったり、「〇〇だから大丈夫」とふたりの関係に“裏づけ”を探し始めるようになったら、すでに終わったも同然なのだ。

そもそも、その状態に陥ると、安心を求めるために相手を試すようになるので、関係は悪化する一方である。だから「あ、この人、もう私の方を向いてないな」と感じたら、無駄に足掻かずにすっぱり関係を断ち切る。実はそれが一番傷が浅くて済む方法なのである。

そして、未練なく関係を断ち切るには彼氏の携帯を見るのがベスト。よく、安心するために携帯を盗み見る人がいるが、そもそも携帯を盗み見なければ安心できないような状態はすでに末期であり、ロクな結果にはならない。むしろ、携帯は別れを決意するために見るべきものなのだ。

(文・深爪、イラスト・菜々子)

※この記事は2021年10月10日に公開されたものです

深爪

コラムニスト/主婦。2012年11月にツイッターにアカウントを開設。独特な視点から繰り出すツイートが共感を呼び、またたく間にフォロワーが増え、その数16万人超(2019年2月現在)。主婦業の傍ら、執筆活動をしている。主な著書に『深爪式 声に出して読めない53の話』『深爪流 役に立ちそうで立たない少し役に立つ話』(ともにKADOKAWA)。また、女性セブン(小学館)にて隔週コラム「立て板に泥水」を連載中。芸能、ドラマ、人生、恋愛、エロと、執筆ジャンルは多様。

Twitter:@fukazume_taro

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