【File19】ハイスペ男性に目がくらんだ恋
今振り返れば「イタいな、自分!」と思うけれど、あの時は全力だった恋愛。そんな“イタい恋の思い出”は誰にでもあるものですよね。今では恋の達人である恋愛コラムニストに過去のイタい恋を振り返ってもらい、そこから得た教訓を紹介してもらう連載です。今回は神崎桃子さんのイタい恋。
あれは人生の中でどん底だった時……。
「こんな会社、辞めてやる! こんな上司の元では働けない! フリーランスになってやる!」
長年勤めた会社を退職し、フリーランスで生きていくため昼間は専門学校に通っていた私は、高額な学費を稼ぎつつ生活するため、夜の仕事をしながら土日は結婚相談所でバイトを掛け持ちしていた。
その頃は、おかしなくらいダメンズが寄ってきた。
「おお、神よ。どうして私にこんな試練をお与えになるのですか?」
と訴えたいくらいのダメンズが連チャンで続く。付き合ってみたら相手に借金があることが発覚したなんてことも……。
彼らとのデートは大抵チェーン店や安い居酒屋。自分がアルバイトを掛け持ちしている状況だったことから、たまには懐を気にせず、思いっきりおいしいものを食べに行きたいもんだ……なんて思ったりして。
そんな願いが天に届いたのだろうか。なんと年収ウン千万円のハイスペックな男が現れたのである。
彼に初めて誘われたディナーはミシュランガイドにも紹介されたレストラン。なかなか予約の取れない人気の店……。その素晴らしい店の個室で彼はこう言った。
「桃子さん、僕は貴女の夢も希望も何でも叶えてあげられます。あなたの周りの男達にはできなかったことが僕にはできます。これまでさんざん苦労してきたじゃないですか。もう、自ら苦労など選ばなくても楽しい道を選べば良いじゃないですか。差し伸べられている手が貴女の目の前にあるのです。どうぞこの手を掴んでください」と、交際を申し込まれたのだ……。
普通なら「コレって宗教の勧誘か?」と思ってしまうところだけど、おいしいコース料理とドンペリに酔いしれていた桃子は「彼こそ運命の相手かも」と思ってしまったのだった。
彼と付き合えば「自分はプリティ・ウーマンになれる?」
彼のその申し出を「神さまからのご褒美」と信じてしまった私。
「昔、観たあのプリティ・ウーマンの世界が広がるんだわ」「私は主役のヒロイン、そうジュリア・ロバーツ……」
彼はイタリアンやフレンチは有名どころのシェフの手掛ける店しか行かない。寿司ならあの大統領が訪れたあのお店か、銀座の名店か……。夜景がきれいな展望レストラン、ホテルのバー、三つ星レストランでドンペリを飲み干した後は『神の雫』に出てくるような長いウンチクがつくワインの数々。
彼は支払いで堂々とブラックカードを見せつけた。
初めて覗くセレブな世界。
しかし残念なことに、彼はお金はあっても人としてはあり得なかった。
何年もののワインが置いてないとなると「このレストランも質が落ちたものだ」と文句をつけ、お店で自分が一番の特等席でないと機嫌が悪くなり支配人を呼ぶ。お店に居合わせた他のテーブルのカップルを見て「あんなみすぼらしい奴等がここに来るとは、店の品位が損なわれる」などとブツクサ。
気に入らないことがあるとすぐ不満を口にし、威圧的になる。そんな彼に次第に不信感が募るように……。
そんな時、VIPしか入れないホテルのラウンジで東京の街を見下ろしながら、彼は決定的な言葉を吐いた。
「下々の者は今宵もあくせく働き汗を流している……。そんな中で桃子はオレに見染められて本当に幸せ者だな」と……。
あ、あり得ない! 下々の者って何様? 働く人の汗と涙を馬鹿にすんじゃないよっっっ!
彼は金があっても心の貧しい人だった……
「え? 私、幸せなんかじゃない!!」
その時ハッキリ分かった。彼といても私はちっとも幸せを感じていないことに。心から笑っていないことに。むしろ笑顔がなくなっていることに。
この人の隣にいたら心が貧しくなってしまう。
これまで恋愛コラムを10年以上書き続けてきた中でさんざん言ってきたけど「目下の人や弱い立場の人に横柄な態度を取る男とは別れるべき」というのはここが発端。
男なんて好きな女には良くするのは当たり前。下心があれば相手の女性に親切にするのはなおのこと。だからこそ、自分に対してよりも自分ではない人への対応こそ、その男性の本性なのよ。
「この人は他人を見下すことしかできないんだ」
高級レストランにいたあのカップルはコツコツ貯めたお金でレストランに来たのかもしれないし、誕生日や記念日で彼が頑張って彼女へのプレゼントにそのレストランを選んだのかもしれない。
ハッキリ言って毎日こんな高級レストランに来て当たり前に高いワインをかっ食らってるアナタなんかより、たま~にしか来れないあの二人の方が、よっぽどよっぽど幸せだよ。心が豊かよ。愛があるよ。
金があるから普通にできることなんてそんなの愛じゃない! アナタなんかともう一緒にいられない。この人とは生きていけない。オシャレな店じゃなくったって良い。安い居酒屋でも、チェーン店でも気のおけない相手と飲める方がよほど幸せ。思い切り笑えて心から楽しめることのほうが幸せ。
前に付き合っていたダメンズは、たしかにお金は無いけど性根は腐ってなかったよ。ウエイトレスさんやボーイさんを見下したりしないし、自分の思い通りにならないからって文句を言わないし、「ありがとう」「ごちそうさま」って言える人間だったよ。
私はそういう相手と一緒にいたい。
……ということで桃子の「プリティ・ウーマンごっこ」は幕を閉じた。
イタい恋から得た教訓:「恋愛で必要なのはどこに行くかじゃない! 誰と行くか、だ!」
あの時の自分は最悪だ。
自分が苦しい状況のときに好都合の相手を選ぼうとしていただけ……。
だからよく分かる。
「恋愛で大事なのはどこに行くかじゃない! 誰と行くか、だ!」
「大事なのは何を食べるかでなく、誰と食べるか、だ!」
条件の良い男に目をくらませると危険。条件で選んでもそこで愛は育たない……。
これから恋愛する人も婚活している人も、どうか相手の条件、つまり欲に目がくらんで本当に大事なことを見過ごさないで。
(文・恋愛事情専門家・恋愛コラムニスト/神崎桃子、イラスト・菜々子)
※この記事は2021年09月26日に公開されたものです