手紙やメールなどの締めくくりの言葉で「まずはお礼まで」という表現を見かけることがあります。よく使ったり、目にしたりする表現だけに、実際は正しいのかどうか改めて考えてみると迷ってしまうことも多いものです。
みなさんは「まずはお礼まで」という表現をどんな場面で使っていますか?
よく使うこの言葉について、正しい使い方やニュアンスを見直してみましょう。
■「まずはお礼まで」の言葉の意味は?
「まずはお礼まで」の「まず」について見ていくことで、その意味やニュアンスが分かってきます。
広辞苑によると、「まず」とは次のような意味を持ちます。
1.最初に。真っ先に。「―母に知らせる」。
2.何はともあれ。ともかく。「―安心」。
3.おおよそ。だいたい。多分。「―間違いはない」。
ですから、言葉使いとしては正しく、目上の人に対して使っても間違いではないことが分かります。
◇「本当に目上の人に使っていいのか」の議論
しかし、これは少々私見もありますが、私個人としては、たとえ言葉の意味は正しくとも、響きやニュアンスとしては、目上の人に対してやや使いにくい感があります。
「まずはお礼まで」の「まずは」という語を言い換えると、多くの場合、上記1の「何よりもまず・真っ先に」という言葉が当てはまるでしょう。それだけなら気にはならないのですが、2の「何はともあれ、それはさておき、ひとまず、とりあえず」と言い換えられる可能性もあります。すると、なんだか落ち着かない感があるのです。
◇「とりあえずお礼」といったニュアンスの違和感
「とりあえずビール」ではないですが、もちろん「真っ先にそれがいいから」という意味もあることでしょう。
とはいえ「まずもう待っていられないから」「あまり考えられないからこれで……」というようなニュアンスも含んでいる感があるのも事実。それをお礼に持ってきてしまうと、「とりあえずお礼だけ(先にメールでいいか)」というような印象も与えてしまい、使いにくさや違和感を覚える人も少なからずいるということです。
◇言葉の捉え方には個人差がある
これは間違いというのではなく、捉え方の個人差もあるものです。したがって、必ず目上の人に使ってはいけないということではありません。
しかし、時には次のような表現に言い換えるのも一つの気遣い。より丁寧に伝わるのではないでしょうか。
次に、シーンに合わせた言い換えの言葉をいくつか挙げてみます。
■状況別「まずはお礼まで」の言い換え表現
目上の相手、親しい相手など、ここでは状況に合わせた言い回しを考えていきましょう。
◇目上の人へより丁寧に伝えたい場合
・「メールにて申し訳ございませんが、御礼にて失礼いたします」
・「早速に頂戴いたしましてありがとうございます。まずは〇〇拝受のご連絡、御礼にて失礼いたします」
・「本来ならお目にかかって御礼申し上げるべきところメールにて申し訳ございません」
・「本来ならお伺いしてごあいさつすべきところをメールにて申し訳ございません」
このように「まずは御礼まで」を仮に用いたとしても、「……失礼いたします」が付くだけで言葉として丁寧度が増した印象になります。
それから、「お/御」の表記について、これは「お/ご/御」にも同じですが、表記の仕方はいろいろでしょう。ただし、一つの文章の中ではどちらかに統一したほうが見やすい感じは受けます(例:「ごあいさつ」か「ご挨拶」か「御挨拶」など)。
◇親しい相手へ堅苦しくなく伝える場合
一方で、親しい間柄の相手には、このような表現も有効です。
・「〇〇をお送りいただきありがとうございます」
・「あとでお手紙を……と思ったのですがあまりにうれしかったので早くお礼を伝えたくて」
親しい相手へお礼を伝えたい場合は、「ありがとうございます」を用いてやや砕けた印象を持たせたり、「うれしかったので早くお礼を伝えたかった」と素直な気持ちを伝えたりしてもいいでしょう。
丁寧な言葉で包んだ表現よりも、温かみのある表現として相手に届きます。
また「まずはメールにてお礼まで。またお電話いたしますね」といった具合に、言い換えをしなくても補足の言葉を添えることで柔らかい伝え方になります。
■【番外編】「まずは〇〇まで」を用いても自然な表現は?
「まずは〇〇まで」の言い回しは、以下のような場面でも使用可能です。
・「まずはとりあえずお日にちのご連絡まで」
・「まずは決定のご連絡まで。また詳細につきましては後日改めてご連絡いたします」
・「まずは〇〇のお知らせまで」
「まずは」という言葉を用いることで、詳細をまとめている時間がなくとも、相手にいち早く大事な情報を届けられるメリットがあります。
■目上の人にお礼を伝える場合は工夫が必要
便利に使われる「まずは〇〇まで」という表現。「まずはお礼まで」という言い回しも間違いではなく、使える言葉ではあります。
しかし、前述の通り、目上の人宛てや改まったお礼などの場合は、言い換えるか、ほんの少し言葉を添えることで丁寧さが強まります。時には工夫してみるのもいいものでしょう。
場面に応じた正しい敬語と、柔らかなニュアンスを届けられるといいですね。
(井上明美)
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