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変わりたいなら、自分で尻拭いする覚悟を持って。漫画家・咲坂伊緒の人生論

#Lifeview

太田 冴

誰かの決断が、自分の決断をあと押ししてくれることってある。20~30代のマイナビウーマン読者と同世代の編集部・ライターが「今話を聞いてみたい!」と思う人物に会って、その人の生き方を切り取るインタビュー連載【Lifeview(ライフビュー)】。

取材・文:太田冴(@sae8320
撮影:洞澤佐智子
編集:鈴木美耶/マイナビウーマン編集部

“青春恋愛漫画”と聞くと、どんな作品を思い浮かべるだろうか?

『アオハライド』『ストロボ・エッジ』『思い、思われ、ふり、ふられ』――たくさんの女子が通ってきたこれらの胸キュン作品を生み出してきたのが、漫画家・咲坂伊緒さんだ。

描かれているのは、高校生たちの淡い日常。それなのに、アラサーの私が読んでも胸の奥がぎゅうっと締め付けられ、目頭は熱くなり、そして漫画の中で生きる高校生たちに勇気をもらっているのだ。

大人にも響く普遍的なストーリーは、どのように紡がれているのだろうか。そして、「満員電車に乗るのが嫌だったから」という理由で会社員を辞めて漫画家になったという、異色の経歴を持つ咲坂さんが語るチャレンジすることへの心構えとは。

内なる感情を漫画で代弁してあげたい

9月18日に公開されるアニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』。咲坂さんの同名原作がアニメ化された話題作だ。

社交性はあるけれど孤独を抱える朱里と、引っ込み思案で臆病な由奈という2人のヒロインが、恋愛を通じて殻を破り成長していく姿がみずみずしく描かれている。

コンプレックスばかりの自分を変えたい。嫌われるのは怖いけれど、思いは伝えたい。――現状を打破して前に進みたいと精一杯生きる登場人物たちの姿は、性別・年齢を問わず読者の胸を打つ。咲坂さんは、この作品にどのようなメッセージを込めたのだろうか。

「『思い、思われ、ふり、ふられ(以下、ふりふら)』の登場人物のように、怖くて告白できない、という女の子がいるとするじゃないですか。でも、“怖くて告白できない”という状況には、実はそれなりのメリットがあるんですよね。告白しなければ、傷つくこともないわけで。

傷ついてもいいからそれでも告白したい、と思う心情変化を、丁寧に描きたいと思ったんです。『今持っているメリットを捨ててでも動きたい』という感情は、きっとどの年齢の方にも共通して理解していただけるんじゃないかな」

朱里と由奈という2人のヒロインは、一見「この2人、普通仲良くなるかな?」と疑問に思うほど異なる性格を持つキャラクターだ。それでも2人は、互いの性格を理解し、背中を押し、励まし合って成長していく。

「人って、自分と違う価値観の人を反射的に跳ね除ける傾向があるじゃないですか。その人を否定したいわけではないけれど、価値観が違うだけで仲間じゃないような気がしてしまう。

けれど、そうじゃないよね、というところを描きたかったんです。価値観が違っても敵ではないし、同化する必要もない。ありのままで仲良くなることって、できると思うんです」

咲坂さんの漫画で描かれる登場人物は皆、“ありのまま”の自分を大切にしながら人間関係を築いている。そんな登場人物たちの真っ直ぐさが、それを忘れてしまった大人の心を打つのだ。

こうしたキャラクターは、どのように作られているのだろう。聞いてみると、自身の実体験のみならず、咲坂さんがこれまで接してきた友人を見ていて感じ取ったことが生かされているという。

「私自身、友人とワイワイ過ごすことが多い学生で、さまざまなタイプの友人と交友関係がありました。友人たちを見ていて感じたのは、どんなに明るくて元気な子でも、全く悩みがないかといえばそうじゃない、ということ。

まさに『ふりふら』の朱里ちゃんみたいに、いつも社交的で完璧に見える子でも、抱えているものがあるんですよね。誰にでも、二面性はある。そんな、自分の内なる感情を伝えられない子の気持ちを、漫画の中で代弁してあげたいんです」

では、登場人物たちに共通して描かれる真っ直ぐさは、咲坂さん自身に通ずるのだろうか? 聞いてみた。

変わりたいなら覚悟が必要

漫画家としてデビューしたのは1999年。当時会社員として働いていた咲坂さんが漫画家に転身しようと思ったきっかけは“満員電車に乗るのが嫌だったから”だという。

「満員電車に乗ることがとにかく無意味に思えて、耐えられなかったんです。例えば、交通費は会社が出してくれるけれど、移動時間に給与が発生しないとか……理解できなかったですね。

こんな働き方はもう嫌だ! と思った時に、漫画家という職業を思い付きました。お家でできる仕事だし、資格も必要ないですから。今思い返せば大胆な選択でしたけど……よほど満員電車が嫌だったんでしょうね(笑)」

きっかけは満員電車が嫌だ、というネガティブなものだったが、いざ漫画家になってみて感じたことは「漫画家、めっちゃ面白いじゃん!」だった。「漫画を選んで良かった。ほんとにラッキーだったな」と語る咲坂さん。その選択も感想も、全てが自分に正直で、清々しい。

今ではヒット作を連発する売れっ子漫画家だが、その分プレッシャーはあるはず。正直しんどいことも多いのではないだろうか。

「常につらいですよ。締め切りは迫ってきますし、あぁ〜って頭を抱える時もある。でも、大前提として漫画の仕事が楽しいんですよ。つまらないと思ったら、私の性格上、すぐに逃げちゃうはず。結局、楽しいから続いているんだろうなって思います。どんなに苦しくても、原稿が仕上がれば全ての苦しみが報われますから」

“満員電車が嫌だ”という気持ちにも、“漫画が好きだ”という気持ちにも、どんな気持ちにも嘘をつかずに生きてきた咲坂さん。でも、正直に生きることって実はそんなに簡単ではない。

「この仕事をずっと続けていていいのだろうか」「自分は好きなことをできているのだろうか」とモヤモヤしても、さまざまなリスクや将来への不安が頭をよぎり、一歩を踏み出せない人は多いはずだ。

最後に、仕事やプライベートで岐路に立たされ悩むことの多い女性たちに対してメッセージを、とお願いしてみた。「変なアドバイスをして、読者の皆さんの人生がめちゃくちゃになっちゃったらどうしよう(笑)」とじっくり悩みながらも、やはり咲坂さんらしい率直な言葉をくれた。

「迷っている人って、どうして迷っているのかな? 『他人に何か言われるかもしれない』とか『失敗したらどうしよう』って不安で前に進めないのであれば、ずっとそこにいてもいいと思うんです」

ためらいながらも、真っ直ぐな眼差しで言葉を続けてくれた。

「どんな結果になったとしても人のせいにしないで、全部自分で尻拭いするぞっていう気持ちがないんだったら、変わらなくていいんじゃないかな。自分に正直に生きることって簡単なことじゃないから」

無責任に背中を押すわけでもなく、現状を否定するわけでもない。自身の経験からチャレンジすることを勧めることもできるが、変わらない選択も認める咲坂さんの深い優しさに、目が覚める思いがした。

自分の心の声にきちんと耳を澄ますこと。それは簡単ではないけれど、そこから動き出すも動き出さないも、正解はない。大事なのは、自分で決めた道を進むことなのではないだろうか。

INFORMATION

アニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』

偶然出会った全くタイプの違う朱里と由奈。夢見がちで恋愛に消極的な由奈は、朱里の義理の弟の理央に憧れるが、自分に自信がなく一歩踏み出せずにいる。理央はかつて朱里に思いを寄せていたが、親同士の再婚により、気持ちを告げられないまま。

また、恋愛に対して現実的な朱里は、由奈の幼馴染の和臣が気になるが割り切れない初めての感情に戸惑っていた。一方で、和臣は、ある“秘密”を目撃し、葛藤を抱えることになり……。それぞれに思いが複雑に絡み合う、全員が片思いの青春恋愛ストーリー。

2020年9月18日(金)全国公開!

https://furifura-movie-animation.jp/

太田 冴

ライター/平成元年生まれ。舞台、ドラマ、映画、俳優、アイドルグループ、コスメなどを幅広く愛する雑食ミーハー系オタク。ジャニーズはいつも好き。最近は朝ドラ「スカーレット」の十代田八郎さんが好きすぎて毎朝悶えている。労働環境・ジェンダーなどの社会問題にも関心あり。 ●note...

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