自分に正直に歩む「ナチュキャリ」。明治 松浦枝里子さんの働き方
「バリキャリ」「ゆるキャリ」……女性の働き方って、本当にこの2つだけなの? 100人いれば100通りの働き方がある。一般企業で働く女性にインタビューし、会社の内側や彼女の働き方を通して、読者に新しい働き方「○○キャリ」の選択肢を贈る連載です。
取材・文:於ありさ
撮影:洞澤佐智子
編集:高橋千里/マイナビウーマン編集部
「わたしがこの商品のことを一番考えている自信があるんです」
まっすぐとした目線でそのように話してくれたのは、株式会社 明治の松浦さん。今やコンビニで見かけない日はないプロテイン飲料「ザバス MILK PROTEIN」の商品開発を担当しています。
同僚や上司とはハマっているテレビ番組の話をし、その一方でプライベートではジムで顔見知りになった人への市場調査(!?)を欠かさない……という松浦さん。
プライベートと仕事について楽しそうに話す姿からは、良い意味でオンオフの垣根がなく、毎日をあるがままの自分でしなやかに楽しんでいる様子が伝わってきました。
新卒で配属されたのは予想外の部署!
2009年に明治製菓 株式会社(現在の株式会社 明治)に入社して、最初の8年間は消費者調査部門で仕事をしていました。
消費者調査部門というのは、商品開発部をサポートするような立ち位置で、ユーザーの方に商品を試食していただいて感想を聞いたり、「パッケージがこう変わったらどうですか?」と聞いてみたり、広告の効果測定をやったり……。いろんな調査をして、商品の改良ポイントを提案するのが仕事でした。
そうなんですよ。元々は営業職候補で採用されたというのもあって、理系の方々が多い部署に配属されるのは正直想定外でしたね。
しかも、入社して最初の上司に「数字に弱い奴は社会で生きていけないぞ!」と言われて、「え! わたし、超文系だけど大丈夫かな……」ってめちゃくちゃ焦ったのを覚えています。
だから1年目はとにかく勉強、勉強というような毎日。今でも良くしてくださっている女性の先輩に日々助けていただきながら、仕事をしていました。
わたしも数字が得意ではないので、想像しただけで恐ろしい……。
そもそも新卒で明治製菓に入社したのはなぜだったんでしょうか?
実はずっとスポーツをやっていたので、就活では「マイナースポーツにフォーカスを当てた番組を作りたい」と、テレビの制作会社を中心にエントリーをしていました。
でも、就職活動をする中で「ものづくり」そのものに興味があるということに気付いて、メーカー志望にシフトしていったんですね。
その中で弊社に出会ったのですが、一緒に選考を受けていた就活生も人事担当者もみんな良い人で「この人たちと働けたら楽しいだろうな」とビビっときて。入社することに決めました。
商品開発の仕事は「決断」の連続
そうですね。メーカーに入社したからには一度は挑戦したいなと思っていて、ずっと希望は出していました。
ただ、配属された先が、お菓子部門ではなく牛乳・飲料やヨーグルトの部門だったのは、ちょっと驚きましたね。一緒に働く人も、部署のカラーもガラッと違う上に、商品開発という仕事自体も初めてだったので、他の会社に転職した気分でした。
それはなかったですね。部署が変わったとはいえ、本当に良い人たちに囲まれて仕事しているなと日々感じています。
社内の交流もかなり多くて、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出される前は、よく社員同士で飲みに行ったりもしていましたし、普段から一緒にランチを食べに行ったりしているんですよ。
仕事中に、テレビ番組の話、最近街で見かけた人やトレンドの話をすることも多くて。それがアイデアにつながることも多く、楽しんで仕事しています。
ゴリゴリの体育会系ではないですね。上下関係はしっかりしつつも、仕事の意見も言いやすいので、かなり助かっています。
それに、面白い人も多いんですよ。
一緒に働いている先輩が「奇才」と言われているくらい突飛なアイデアの持ち主なんです。相談すると、自分にはない視点でヒントが返ってくるので、日々刺激を受けています。
実はザバス MILK PROTEINを、すっきりフルーティーの味にしようと言ったのもその先輩なんですよ。普通、ミルクを酸っぱくするっていう発想にならなくないですか?
毎日が「決断」の連続で驚きましたね。
それまで担当していた調査の仕事は、リサーチして提案するまでが仕事だったんですけど、商品開発って何かと決めることが多いんですよ。例えば、パッケージ一つをとっても、何色にするかとか、ロゴの配置とか、言葉選びとか……。
その上、一つ一つの決定において「なぜそのような決定をしたか」ということを、きちんと説明できなければならないんです。
正解のないものを決断する一方で、感覚的にではなく、きちんと理由付けしなければならないというのは難しそうですね。
これまで関わった商品で、特に大きな決断をしたなと思うことはありますか?
「女性向けの商品を作る」ということですかね。
女性向けの商品というのは女性の需要をかなえる一方で、市場の半数を占める男性カスタマーを捨てることになってしまいますから、かなり勇気が要ることでした。
市場の半分を捨てると聞くとかなり大きな決断だなと想像できます。
それでも女性向けの商品を作ろうと思ったのはなぜなのでしょう?
すごい! なんだか潜入調査のようですね。
ジムで出会った女性の皆さんは、松浦さんがザバス MILK PROTEINを開発されていることは知っているんですか?
いえ、言ってません! だって……ちょっと怖いじゃないですか(笑)。
それに、同じジムに通う同士の立場で「おすすめのプロテイン教えてください!」「どんな基準で買ってるんですか?」と聞いた方が、皆さん忖度なしで答えてくれるので。「ザバス MILK PROTEIN」と答えていただいた時には、ここぞとばかりに深掘りして質問しちゃいますけどね。
ザバス MILK PROTEINの感想はもちろん、他社の商品の感想や、SNSで彼女たちの知り合いが書いている感想コメントを教えてもらったりしています。
あとは、パッケージに書いている「理想のカラダへ」について意見を出し合ったことで、「一人一人の描く理想のカラダって違うんだな……」と可視化できたのも商品開発のヒントになりました。
仕事と運動、両立のコツは「習慣化」
うーん……最初は「プロテインを飲む人の気持ち、飲まない人の気持ちを知るためには、自分が運動してみなくては」と思って通い始めました。
ただ、いざ通ってみたら肩こりが解消されたり、疲れを感じづらくなったりと、体の調子が良くなっていくのを実感して、今では習慣として続けているんですよね。
大体は平日の業務後か土日の朝に行くことが多いのですが、最初から行く日を決めて、カレンダーに登録するようにしています。
日にちを決めることで顔見知りの人も増えますし、仕事もこの時間までに終わらせようって切り替えができるので。もはや全く苦痛ではなくて、習慣になっていますね。
でも、その習慣になるまでが大変というか、一度サボったら続かなくなっちゃう人も多いと思うんですよね。
習慣化するためのヒントがあれば知りたいです!
まずは家が近いジムに通うのがいいですよ! 家の近くだったら、嫌でも毎日通るからサボろうとすると罪悪感が出てきます(笑)。
あとは、自分の中で強固な“ジムに通う女の設定”を作ると、周りの目が気にならなくなるのでおすすめです。わたしの場合は「仕事を兼ねて来ているんです」という設定で自分を取り繕っているので、周りの目が全く気にならないです。むしろわたしがめちゃくちゃ周りを観察しちゃってますが(笑)。
大切にしているのは「知る」「考える」「伝える」
ザバス MILK PROTEINの裏に隠された松浦さんの奮闘ぶりをお伺いできて、すごく楽しかったです。
商品がヒットしている今、改めてお聞きしたいんですけど、ぶっちゃけここまで売れると思っていましたか?
正直なところ、数字はあまり意識していませんでした。
というのも、上司から「売れる商品を開発するのはもちろん良いことだけど、それ以上に良い商品を世に出すことがゴールだから、そこまで気にするように」って言われていたんです。
だから、本当に自分が良いと思ったものを出したいという思いの方が強くて、売れるかどうかはそこまで期待していなかったんですよね。
確かに「この商品について、自分が一番考えている」という自信はあります!
ただ、上司や同僚も同じくらい商品のことを真剣に考えているので、周りから見たらけんかしているのかなと思われるくらい、お互いの意見を素直に伝え合うこともあるんですよ。
でも、そのくらい真剣に言い合える環境ってすてきですね。
最後に、松浦さんが働く上で大切にしている軸があれば教えてください!
「知る」「考える」「伝える」の3セットです。
まず、無知は罪だなと思うので、とにかくいろんなことを知るようにすること。その上で、きちんと考えて自分なりの解釈を持つこと。そしてそれを「わたしはこう思う」と伝えること。この3セットを大切にしています。
いえ。ただ、調査の部署にいた時の先輩方を見て、自分の中でこの3つを大事にしたいと思ったんです。
調査部署の時に、商品開発の人に対して提案する中で、伝え方や見せ方、前後の流れによって、相手の受け取り方が変わってくるなということは日々感じていました。
そして、常に自我を通す必要はなくても、きちんと自分の意見や解釈を持って相手に伝えなくては納得してもらえないな、とも。
商品開発の仕事には正解がありません。だからこそ主体的に動いて、自分はこう考えているということを伝えながら、これからも良い商品を作っていきたいです。
※この記事は2020年09月10日に公開されたものです