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「お含みおきください」は正しい敬語? ビジネスでの使い方と言い換え表現

井上明美(ビジネスマナー・敬語講師)

ビジネスメールでも見かける「お含みおき下さい」とは、心に留めておいてほしい旨を伝える尊敬表現。ただし、少々きつい印象を与える言葉でもあるので、シーンに合わせて言い換えましょう。今回は、敬語講師の井上明美さんが正しい使い方を解説します。

手紙やメールを通して人にお願いするような場面で「お含みおきください」という表現を目にすることがあります。何気なく使用しがちな言葉ですが、この表現は敬語として正しいのでしょうか? そして、どんな場面でも使えるものなのでしょうか?

よく考えてみるとちょっと迷うものです。

今回は、「お含みおきください」の意味と正しい使い方、また言い換え表現について、詳しく見てみましょう。

「お含みおき」の言葉の意味とは?

「お含みおき」の基本である「含みおき」に戻って考えてみましょう。

基本は「心に留めておいてください」の意

含みおくとは、次のような意味を持ちます。

心に留めておく。了解しておく。「以下の点、お―・きください」(小学館『デジタル大辞泉』より)

このような意味を持ちます。この「含みおき」を尊敬表現にしたものが「お含みおきください」です。

「お含みおきください」の類語

似た言葉もあるため、そのいくつかと意味の違いを挙げてみましょう。

「お知りおきください」

例:「お知りおきください」など。

「知り置く」の敬語表現で、そのことを知っておく、承知しておくという意味。

「留意」

例:「健康に留意する」「留意点として」など。

その事柄を心に留める、気を付けるなどの意味。こちらは、どちらかというと、注意のような意で、体、健康などに関することに用いられることが多いでしょう。

「お見知りおきください」

例:「どうぞお見知り置きください」など。

相手が自分のことを見知りおくことの意。例文のように、初対面でのあいさつの折に、「覚えておいていただければありがたい」のような意で用いられます。

「ご承知おきください」

例:「すでにご承知のことと存じますが」「ご承知おきください」など。

承知は、知っている、分かっている、または心得ているなどの意。また、分かったと同様の意で相手の要求や願い、命令などを引き受けるという意。

謙譲表現としては「承知いたしました」のように使われ、「承りました」「かしこまりました」と同じような意を持ちます。尊敬表現としては、先の例文のように「ご承知の通り」「ご承知ください」のように使われます。

「ご了承ください」

例:「ご了承ください」など。

了承は、事情を理解した上で承諾するという意味。

「ご了承ください」は、相手に承知してほしい場面で使う尊敬の表現で、「こちらの意向をご理解の上、受け入れてください」という意味になります。

「ご了承ください」は基本的に、目上の人に対しては使いません。

使ってはいけないわけではありませんが、「理解して受け入れてください」という強制的に承諾させるようなニュアンスを持つため、目上の人に使う言葉としては適していません。

「お含みおきください」は正しい敬語?

さて、ここでは冒頭の「お含みおきください」をもう少し詳しく見てみましょう。

「お含みおきください」は正しい尊敬表現

先述の通り、「お含みおき」は「含みおき」に「お」が付いた尊敬表現ですから正しい敬語です。

先の「ご承知おきください」も同じようなニュアンスを持って使われることが多いでしょう。

「お含みおきください」の使用例とニュアンス(例文付き)

では、実際の使用例を見てみます。

強く心に留めてほしい思いを伝える言葉

・「誠に残念ながらお断りしなければならないこともございます。何卒お含みおきのうえ、至急ご返事くださいますようお願い申し上げます」

・「以上の点をお含みおきのうえ、至急ご回答のほどお願い申し上げます」

・「ご注文をいただきまして○日までにお振込みいただけない場合は、キャンセルとなりますこと、あらかじめお含みおきください」

・「ご回答、ご入金いただけない場合は、不本意ながらしかるべき手続きをとらざるを得ず……その旨お含みおきください」

このように「お含みおき」という表現は、単に「分かって」というよりも、もっと強く心に留める、そのような点に注意して対応してほしい、把握しておいてほしい、確かに了解を得た上でのことといった意味合いを伝える際に用いられる言葉です。

注意・催促・抗議などで使う強い文面

・「お含みおきいただければ幸いです」

・「お含みおきいただきたくお願い申し上げます」

上記のように丁寧な言葉を添えればややニュアンスは弱まる感がありますが、「お含みおきください」のみですとややきつい感じも受けます。

また、よく使われる例としては、どちらかというと主に返信・支払いなどの遅延催促や抗議状の場面で用いられることも多いものです。

ですから、注意・催促・抗議などの強い文面でなく、「(こちらの事情も)分かってほしい」というような意味であれば、次のような表現がより好ましいと感じます。

シーン別「お含みおきください」の言い換え表現

では、相手や状況によって、どのような言い換えをするといいのでしょうか。

親しい相手などへ堅苦しくなく伝える場合

・「こちらの勝手で悪いのだれど、その点だけちょっと注意していただけたら助かります」

・「申し訳ないのだけれど、その点だけお願いできたらありがたいです」

・「そんな事情があってすみません。ご理解いただけたらありがたいのだけれど……」

・「こちらの都合でごめんなさい。分かっていただけたらうれしいです」

など。「こちらの勝手で」「申し訳ない」といった謝りの一言を添えて、どうしても気に留めてもらいたいニュアンスを伝えると、柔らかな印象のまま意図を伝えることができます。

上司・目上の人・取引先・お客様など、より改まった場面の場合

・「どうかあしからずご了承ください」

・「何卒事情ご賢察(けんさつ)の上、ご宥恕(ゆうじょ)賜りますようお願い申し上げます」

・「どうか事情ご理解賜りますようお願い申し上げます」

・「どうか事情お汲み取りいただきたくお願い申し上げます」

などが好ましい表現。

「あしからず」とは「どうか悪く思わないで、気を悪くしないで」といった意で、相手の希望に沿えないときに用いられます。

また、少々堅い言い回しにはなりますが、「ご賢察」とは「推察、察する」の尊敬表現。目上の方への敬意を表したいときに使うといいでしょう。加えて、「ご宥恕」とは、大目に見る、寛大な心で許すという意の尊敬表現となります。

理解してほしいときこそ自分本位にならない表現を

こうして見てみますと、会話やメール、手紙などで用いる「分かって・理解して」というような意を持つ表現もさまざまあるものです。

相手に注意を促す場合や自分の事情を理解してほしい場合など、その意味合いは違ってくるため、場面に合わせて使い分けたいもの。

自分の事情を理解してもらいたい場合でも、相手にこちらの事情や立場を分かってもらえるよう“頼む”“お願いする”などの気持ちで、自分本位にならないような表現を選びたいですね。

(井上明美)

※画像はイメージです

※この記事は2020年03月30日に公開されたものです

井上明美(ビジネスマナー・敬語講師)

国語学者、故金田一春彦氏の元秘書。言葉の使い方や敬語の講師として、各市町村・企業・学校、金融機関、医療関係など幅広い教育研修の場で講義・指導を行う。長年の秘書経験に基づく、心くばりに重きを置いた実践的な指導内容には定評があり、敬語・話し方のほか、手紙の書き方に関する講演や執筆も多い。

著書に『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』『最新 手紙・メールのマナーQ&A事典』(ともに小学館)、『一生使える「敬語の基本」が身につく本』(大和出版)など多数。ウェブサイト「All About」では「手紙の書き方」のガイド(https://allabout.co.jp/gm/gp/159/)を務めている。

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