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インポスター症候群とは。「成功に値しない」と感じる理由

平松隆円(化粧心理学者)

「インポスター症候群」という言葉をご存じですか? 仕事などでの高評価を自分で肯定できず、「私にはそんな能力はない」「私は詐欺師なのだ」と思いこんでしまう傾向のことで、特に専門職の人や、社会的に成功した人などに多いそう。能力が高く、実際に実績を挙げているにも関わらず、このように感じてしまうのはなぜなのでしょう。今回はこの「インポスター症候群」の原因と対処法を、心理学者の平松隆円さんに教えていただきます。

能力があるのにもかからず「自分はそんな成功に値しない」と思い込んでしまう、“インポスター症候群”。

まだまだ、なじみのある言葉ではないかもしれません。このインポスター症候群が世間に知られるようになったのは、Facebookの最高執行責任者であるシェリル・サンドバーグが書いた『Lean In』(日本経済新聞出版社、2013年)という本がきっかけでした。

自分の能力や成功を肯定できない「インポスター症候群」って?

インポスター症候群
この本のなかでサンドバーグは、成功しているにもかかわらず自分を過小評価してしまう現象として、“インポスター症候群”を紹介しました。

フォーチュン誌の「世界で最も有力な女性50人」やタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、2人の子どもを持つサンダーバーグは、ビジネスでもプライベートでも、十分に成功しているようにみえます。そんな彼女ですら、自分自身を過小評価してしまう。

そんな、“インポスター症候群”とは、いったいなんなのでしょうか。まずは「インポスター症候群」について、説明しましょう。

インポスター症候群とは何か

インポスター症候群
インポスター症候群とは、インポスター現象ともよばれ、1978年にポーリン・R・クランスとスザンヌ・A・アイムスによって提唱されました。(※)

一般的に知られるようになったのは最近のことですが、学問の世界では古くから知られていたんです。学術的には、「学問的・専門的分野において、客観的に成功しているという証拠があるにも関わらず、虚偽感や無価値感を感じてしまう人が体験する知的に他者を欺いているという内的経験」と定義されています。
(※)「The Imposter Phenomenon in High Achieving Women」

なんだか、わかるようでわからない表現ですよね。もう少しかみくだいていうと、「何かについて客観的に高い評価を得ているものの、高い評価を得ているのは実力ではなく運がよかっただけで、実際には高い評価を得るような能力はないと感じてしまう」ことです。ときには、「高い評価を得るような能力はないことが周囲にばれてしまうのではないかという不安」も、同時につきまといます。

さらに簡単に言うと、「自分に自信がないこと」が、インポスター症候群とかインポスター現象とよばれるものの実態です。

え、あの人も!? インポスター症候群におちいりやすい性格とは

このインポスター症候群におちいりやすい人は、次のような性格であることが多いともいわれています。

インポスター症候群
たとえば、完全主義な傾向があったり、成功恐怖な傾向があったり、神経症の傾向があったり、内向的な傾向があったり、自尊心が低い傾向があるというんです。そして、一般的にはこれらの性格がインポスター症候群におちいりやすくさせていると考えられています。

冒頭のサンダーバーグ以外にも、インポスター症候群であることを言及している有名人は少なくありません。著名なところでは、映画『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー役で有名なエマ・ワトソン、屈指の名女優ジョディ・フォスターも、インポスター症候群であるといわれています。

インポスター症候群
基本的に、インポスター症候群には男女や人種に関係なくおちいります。そして誰でも人生の中で、一度や二度はインポスター症候群になるともいわれています。先に触れた論文タイトルが「高い業績をおさめた女性たちに見られるインポスター現象」という意味であるように、当初は男性よりも女性にインポスター症候群が多いといわれていました。ですが、その後の研究で、インポスター症候群におちいるのに男女差はないことがわかりました。それでも一般的には、女性の方がインポスター症候群になりやすいというイメージがあります。

理由としては、現代においても女性が社会で成功することは簡単なことではなく、そうそう成功しないだろう、という固定観念があるからなのかもしれません。

インポスター症候群
これは、男女の問題だけではなく、人種問題にもあてはまります。つまり、「まともにやっていて女性が成功するわけはないだろう」「白人社会で黒人が成功するわけがない」というステレオタイプ(=先入観)が、いまだに根強く残っているため、そういったステレオタイプを、女性たち自身が内在化してしまうわけです。

たとえば日本では、“女性は理系科目が苦手”というステレオタイプがあります。これもいわば根拠のない思い込みで、本来は得意不得意に男女差はないはずです。にもかかわらず、こういうステレオタイプによって、一生懸命勉強をしてテストで良い点数を取っても、「運がよかったからだ」とか「先生と仲がいいから、ひいきしてもらえたからだ」という、インポスター症候群におちいってしまうわけです。

同じようなステレオタイプは、男性の中にも、また人種間でもあるため、実際にはインポスター症候群は男女や人種のちがいなく起こるんです。

「インポスター症候群」を克服する3つの方法

それでは、インポスター症候群におちいってしまったら、克服するには、どんな方法があるでしょうか。

ちなみに“症候群”とはいいますが、これは明確な精神疾患ではなく、あくまで「高い評価を得ているのは実力ではなく運がよかっただけで、実際に高い評価を得るような能力はないと感じてしまう」ことなので、なにかしらの治療方法があるわけではありません。ですが、こういうふうに考え方を変えたらというアドバイスはできます。

自分の能力に自信をもつ

インポスター症候群
もちろん簡単なことではありませんが、一番大事なことは“自分に自信を持つ”ことです。

この成功は自分が努力した結果なのだと、自分のやってきたことに対して、自信を持ちましょう。そうすれば、「運がよかった」とか「自分の実力とは別のことが作用して成功した」なんて思わずに済みます。

他人の評価を気にしない

インポスター症候群
インポスター症候群におちいりやすい人には、「自分は他人が思っているほど有能なのではなく、いずれは他人の期待に応えられなくなるという不安」があるといわれています。つまり、他人の評価を気にしすぎているわけです。ですから、他人の評価や期待について考えることをやめましょう

目標を高く設定しすぎない

インポスター症候群

またインポスター症候群におちいりやすい人は、完璧主義で、目標が高すぎるといわれています。いくら努力しても満足ができるところまで達成することができず、かりに達成できたとして「運がよかったから」と考えてしまうわけです。ですから、あまりにも高い目標を設定しすぎない、というのも重要なことだと思います。

先ほどお話したように、インポスター症候群は、誰だって経験する可能性があるものです。ですが、それが慢性化してしまうのは、いいことではありません。専門家に相談するのもいいですが、まずは今お伝えした3つのポイントに注意してみることからはじめてみてはいかがでしょうか。

(平松隆円)

※画像はイメージです

平松隆円(化粧心理学者)

1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、タイ国立チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理にも詳しい。日本やタイを拠点に、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は『化粧にみる日本文化』『黒髪と美女の日本史』『邪推するよそおい』など。

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