事なかれ主義とは? 心理とデメリット、職場での改善方法
事なかれ主義とは、波風が立たないように対応すること。責任感がなく逃げ癖がついていることもあり、周囲から苦手意識を持たれることもあるようです。この記事では、事なかれ主義の心理と職場での改善方法などについて、心理カウンセラーの高見綾さんが解説します。
日本人は争いごとを好まない気質だと言われています。
気になることがあっても波風が立たないように意見を言わなかったり、今ある問題を見て見ぬふりをしたりしたことがある人は多いのではないでしょうか。
その場は平穏に済ませることができても問題は先送りになるだけで、損をしている気分になったり、我慢が重なったりして疲れてきてしまいます。
このような事なかれ主義になるのはどんな心理からなのか気になりますよね。
事なかれ主義がよくない理由を紹介し、適切に問題解決をしていけるようになるための方法についても解説します。
「事なかれ主義」の意味
まずは「事なかれ主義」という言葉の意味を確認しましょう。辞書によると以下のように説明されています。
ことなかれ‐しゅぎ【事×勿れ主義】
いざこざがなく、平穏無事に済みさえすればよいとする消極的な態度や考え方。(『デジタル大辞泉』小学館)
事なかれ主義の心理
事なかれ主義になるのはどんな心理からなのでしょうか。
主なものを4つ挙げてみました。
(1)当事者意識が薄い
たとえばチームの仕事に問題が起きたとします。
事なかれ主義の人は、自分も当事者のはずなのですが、「ほかの人がいるから対処してくれるだろう」「チームの仕事だけど私の直接の担当じゃないし」と考えてしまう癖があります。
他人任せの意識を持っていて、自分には関係がないと思ってしまう傾向があります。
(2)他人ともめたくない
事なかれ主義の人は、納得いかないことがあったり、自分の意見とちがうようなことがあったりしても、自己主張することを避けます。
自分が意見を言うと相手を否定したような形になって傷つけてしまうのではないかと恐れている人もいますし、他人とぶつかるのは精神的に疲れるので面倒だと思っているケースもあります。
(3)自分を守りたい
私たちには恒常性(体を一定に保とうという働き)という仕組みがあるため、変化していくことが苦手です。
問題が起きても「いつも通り大丈夫だろう」となかったことにしようという心理が働きます。
いつもとちがうことや問題などが起きると、自分の日常が脅かされてしまうと感じ、その恐怖から逃れたいと思います。
特に、傷つくことへの恐れが強い人は、「自分は悪くない」と思いたいので、問題を隠蔽しがちです。
(4)自分には無理だと思っている
問題の内容が複雑で、解決するためには何人もの関係者を巻き込まないといけないようなスケールの大きなものだと、「自分には対応できない」と思います。
また経験値が低くて、どうやって解決していけばいいのか目途が立たない場合も、問題から目をそらしがちになります。
自分の無力さを感じたくない、失敗したくないという気持ちが強いと事なかれ主義になりやすいです。
事なかれ主義がよくない理由
波風を立てない事なかれ主義は、どういった点がよくないのでしょうか。
事なかれ主義のままでいると困る理由について考えてみました。
(1)根本的な問題が解決しない
今は平穏に済んでいても、問題を先送りしているだけなので、あとあと大きな問題になってしまう可能性が大です。
事なかれ主義のカップルの場合、すれちがいを「ちょっとしたことだから」と放置するので、だんだん感情のもつれが大きくなり、修復するのに多大な時間と労力がかかってしまうケースが多いです。
職場などでは、新しいことにチャレンジしようという雰囲気がなくなり、事業がどんどん衰退してしまう危険性があります。
(2)逃げ癖がつく
事なかれ主義は、チャレンジしないといけない場面で、「面倒だから」「怖いから」という理由で何もしない選択をします。
結果、経験値も上がらず自信もつかないので、新たな問題に直面したときにまた何もしないという選択をします。
すると年齢に相応しい経験値が身についていかないので、職場ではだんだんやりづらくなってくるでしょう。
逃げ癖がつくと、考える力が失われ、肝心のときに何もできない人になってしまう危険性があります。
(3)人と深い付き合いができない
衝突を恐れて自分の気持ちを抑えているのでストレスがたまります。
まわりに振り回されていつも自分が損をしているような気になるので、そんな自分のことが嫌になったり、まわりの人に対して不満を感じたりしてしまうことがあるでしょう。
本音を言えないので、人と深い関係を築くことができず、まわりからも「自分のことばかり守っている」と思われがちです。
事なかれ主義をやめる方法
事なかれ主義がよくない理由を見てきましたが、それでは、どうしたらそんな自分を変えていくことができるのでしょうか。
(1)自分事として捉える
「自分は関係ない」「誰かがなんとかしてくれる」という発想を転換し、「自分が当事者である」という自覚を持つことからはじめてみましょう。
たとえ、その仕事の責任者ではなかったとしても、「自分がなんとかする必要がある」という意識を持てば、今までにないさまざまな気づきがあるはずです。
責任を取る意識を持てると、組織においても重宝される人材になれるでしょう。
(2)協力し合える仲間をつくる
問題を解決していこうとするときに、解決方法が100%わかっていることは稀です。
事なかれ主義をやめるためには、責任を持つことが大切ですが、自分だけですべてをやろうと思わなくてもいいのです。
経験値が低くてわからないことも出てきますので、困ったときに協力し合える仲間をつくりましょう。
「〇〇さんに相談してみよう」と思える人がたくさんいるほうが、問題解決へのハードルが下がり前向きに取り組めるようになります。
(3)「よりよくする」という目的を意識する
自分が意見を言うと、相手を傷つけるのではないかと不安なときは、目的を再確認しましょう。
意見がちがっていてもそれは普通のことで、すべての価値観や考え方が同じになるほうが難しいものです。
「相手を否定してしまうのではないか」と思う必要はなく、みんなにとってよい仕事にしていくために話し合うのだ、という認識に変えていきましょう。
人間関係でトラブルが起きたときも、本音を言うのは、相手を責めたり否定したりするためではなく、お互いに理解し合ってよりよい関係にしていくためなのです。
事なかれ主義をやめて、適切に問題解決をしていける自分になろう
仕事や人間関係において、波風が立たないようにする事なかれ主義になってしまうのは、傷つくことへの恐れや自信のなさ、誰かがやってくれるだろうという人任せの心理などの理由があります。
とはいえ、問題が起きても対処しないでいると、いつまで経っても解決しないまま、かえってややこしくなることが多いものです。
問題解決のできる自分になり、健全な人間関係を築いていくためにも、何事も自分の問題であるという意識を持つことからはじめていきましょう。
勇気はいりますが、少しずつ自分のあり方を変えていけるよう向き合っていきたいですね。
(高見綾)
※画像はイメージです
※この記事は2019年08月29日に公開されたものです