親愛なるマオにゃんへ。バンギャのわたしが編集者になった理由 #PM6時の偏愛図鑑
定時後、PM6:00。お仕事マインドを切り替えて、大好きなあの映画、あの舞台、あのドラマを観る時間が実は一番幸せかもしれない。さまざまな人が偏愛たっぷりに、働く女性に楽しんでほしいエンタメ作品を紹介する連載です。
あれは10年前の夏。中学三年生、担任と親との三者面談。
「先生! 編集者になるにはどうしたらいいんですか!」
進路票ではなく、とあるヴィジュアル系雑誌を抱えたわたしは、いたって大真面目だった。あの日のわたしは、編集者という職業に就けば、その表紙に写る“マオにゃん”に、爆発寸前の愛を伝える手段が得られると信じていたのだ。
「すみません。この子、ちょっと変わっていて……」と困り顔の母親。
そして、食い気味なわたしと恐縮する親に、担任の先生は言った。
「まずは勉強して県内一の進学校に行きなさい。それから知力と知識を持って、東京に行くといい。その憧れは、この田舎にいても手に入らないよ」と。
その日から、大嫌いだった勉強は大好物になった。だって、勉強すればするほど、愛しのマオにゃんに近づけるのだから。
わたしにとって偏愛とは、人生の原動力だ。
眠らないバンギャ人生
こんにちは、マイナビウーマン編集部のあーりんです。
6月からはじまった特集「わたしを満たす偏愛」もこの記事の更新で最後。いつもは編集者として裏方にいるあーりんですが、今日は少しだけ。いや、大いに。愛を語らせてください。
あーりんがバンギャであることを、今周囲にいるみんなはきっと知らない。10年前、それはもうコテコテのバンギャだったのだけど。
真っ黒なアイラインに網タイツ、履きつぶした8ホールのドクターマーチン。大人になった今、それらは実家の押し入れで眠っているけれど、バンギャ心はまだ眠っちゃいない。
今だって通勤電車の中では何食わぬ顔でヴィジュアル系の曲を聞いて脳内で麺に咲きまくっているし、めちゃくちゃヘドバンもしてる(あ、麺っていうのはバンドメンバーのことで、咲くっていうのはライブ中にやるメンバーへの求愛行為みたいなものね!)。
今これを読んだバンギャは「うん、うん!」って理解してくれるだろうけど、この世界を知らないあなたは「気持ち悪っ!」と正直な感想を持つと思う。それでいいんです、そう、バンギャって死ぬほど生きにくいから。
だからはじめての彼氏ができたり、就職したり、大人になるにつれ、あーりんの見た目はどんどんコンサバ化していき、今じゃバンギャ要素はゼロ。それでもヴィジュアル系と出会った日の衝撃は、心の中でずっと生きている。
ヴィジュアル系との衝撃の出会い
わたしがヴィジュアル系、そしてマオにゃんに出会ったのは14歳のこと。
自分の名前をネットサーフィンしてみましょう、というパソコンを使った授業での出来事だった。あーりんの本名は「ありす」という超絶キラキラネーム。そして、その検索結果に衝撃を受ける。
Yahoo!の検索画面に出てきたのは、きらびやかな黒の衣装に、化粧をした男の人たち。そこには『アリス九號.』というバンド名が書かれていた。
「なんなんだ、この世界観」「頭を鈍器で殴られたような感覚」「これ男の人なの?」「美しすぎる」「……てか、名前読めなくね?」一瞬でさまざまな人格と感情が駆け巡ったあと、なんだかいけないものを見た気がしてすぐに検索画面を閉じた。
その夜、あーりんは部屋でこっそり、もう一度自分の名前を検索するという禁忌を犯した。
検索画面に出てきた『アリス九號.』の文字をコピってYouTubeに貼りつけ、そこから芋づる式に一晩中、ありとあらゆるヴィジュアル系の世界に潜り続けた。こうして秘密の夜、とうとう出会ったのだ。愛しのマオにゃんに(ハァト)。
親愛なる「マオにゃん」の魅力
マオにゃんは、シドというヴィジュアル系バンドのボーカルだ。
彼の魅力を語ろうとしたら、100億文字羅列しても足りないので大部分は割愛するけど、わたしが出会ったバンドのなかでは常軌を逸した存在だった。
ライブじゃファンに「マオ先輩」「マオにゃん」とか呼ばせるおかしな性癖を持っていて、デビュー当時は喪服にボーダーのニーハイ衣装、記事には載せられない言葉を並べた歌詞を、透き通る声とシャウトで歌っていた(「脳タリン♪」とかね)。
そうかと思えば、突然メイクをやめてポップなスカチューンの曲を発表したり、それはもうファンを煽る天才。それに完全なるわたしの偏愛において、マオにゃんの歌声は宇宙一だった。
さらに、その凄さは歌声だけじゃない。最大の魅力は紡ぐ「言葉」にあると思う。
雑誌のインタビューやコラムに綴るバンドの歴史も、夢も、愛も。マオにゃんが発する言葉は特別魅力的に映って、中学生のわたしは次第にこう思うようになった。
「わたしの大好きなマオにゃんのすべてを世の中に共有してやりたい」と。
そして冒頭のシーンに戻る。
勉強も運動も音楽もこれといってできない劣等生のわたしは、どうしたらマオにゃんの味方になれるのか。答えは「文章」だった。当時のあーりんが唯一、先生や家族から褒めてもらえることといえば作文だったのだ。
こうして、はからずも偏愛によって「編集者になる!」というあーりんの夢が生まれた(当時GLAYのJIROが音楽雑誌の編集者と結婚したという噂を聞いて、「もしかしたらわたしもマオにゃんと……!?」なんて邪な希望を抱いたのはここだけの秘密ね)。
素晴らしきかなバンギャ人生
そんなこんなで、ヴィジュアル系という不思議なモチベーションから猛勉強したあーりんは田舎の進学校へ行き、東京の大学へ羽ばたき、晴れて編集者になった。
だけど人生はそううまくはいかないもので、なぜか恋愛記事を作るメディアの担当になっちゃったけど、それもご愛嬌。
マオにゃんにインタビューして、その魅力を伝える夢は別に諦めたわけじゃない。14歳のあの日にかかった厨二病を、わたしは26歳になった今でもこじらせている。まさに「夏風邪よりも性質が悪い」なんちゃって。
偏った愛と書いて、偏愛。
こっそり隠れて楽しみたい人もいれば、胸を張って「好き」と言える人もいるだろう。わたしたちを満たす偏愛は、時に人生を変える力だって持つ。
素晴らしきかなバンギャ人生、素晴らしきかな偏愛人生! あーりんがマオにゃんに出会ったように、あなたもどうか素敵な偏愛と巡りあえますように。
Special thanks!
マオにゃん、明希様、しんぢ、ゆうや。 おまけにA9、cali≠gari、the GazettE、ナイトメア、アンティック-珈琲店-、R指定、ゾロ、イロクイ。、彩冷える、わたしの大好きなヴィジュアル系バンドたち。
そして、あーりんと同じくマオにゃんとシドを愛しているシドギャたちへ特別な愛を込めて(ハァト)。
(文:あーりん/マイナビウーマン編集部、イラスト:谷口菜津子)
※この記事は2019年07月29日に公開されたものです