最愛のモラハラ男 #私が出会った悪い男
私は、周囲からモラハラだと心配され続けた元彼、かっちゃんのどこが好きだったのか。
今思えば彼の口から「ありがとう」も「ごめんね」もほとんど聞いたことがなかった。1日1回欠かさず罵られていた4年間を申請すれば、その罵倒数で世界ギネスに載れると思う。
それでも私の記憶に残るかっちゃんは、ただの「悪い男」なんかじゃない。
ということで、マイナビウーマン編集部が綴るリレー企画「私が出会った悪い男」、続いてはあーりんと元彼のモラハラ奮闘記をどうぞ。
私が出会った悪い男#02「最愛のモラハラ男」
私がかっちゃんに出会ったのは、まだ大学生のころだった。
地元で開催された社会人男子との合コン。そこにかっちゃんは颯爽と現われた。
高学歴、高収入、高身長。白くて長い指に、育ちのよさそうな顔つき。ジョークもうまくて、人当たりもいい。明らかに同世代男子にはない、この余裕よ。
ま、どうせ相手にされないだろうけど。
浮かれポンチ女子大生だった私は、一瞬でかっちゃんの虜になった。それと同時に、恋愛の土俵に上がっても無駄骨に終わるだろうことを悟った。
しかし、だ。
合コン後、かっちゃんからほぼ毎日LINEが届くようになったのだ。
「あのドラマ見た?」「学校は楽しい?」。どうでもいい内容だけど、そこにはたしかに好意が感じられて、私たちはあれよあれよという間に2人でご飯へ行くことに。
連れて行かれたのは、ししおどしの音が響く割烹。「こんなの初めて♡」が溢れるデートに、胸が躍りまくった。
でも、この日を境に私はかっちゃんの“異変”に気づきはじめる。
モラハラレベル1:お礼を無視する
高級料理の味なんて、緊張でまったく覚えていない。どぎまぎする私をよそに、かっちゃんはお会計をするため着物姿のおかみさんへクレジットを渡した。
おかみさんは「ありがとうございます」と、ていねいにお辞儀をしたけれど、かっちゃんはそちらを一瞥もしなかった。
あ、これがスマートな男性の支払い方ね。
「いくらだった? 半分払う」
こちらも負けじとスマートに切り出した。きっと払える額じゃないけど。
聞こえたのか聞こえてないのか、今度のかっちゃんは私を一瞥してから、黙って帰り支度をはじめる。あ、野暮なこと聞くなってか。
「ありがとう。でも、少しは払うよ」
笑顔で続ければ、返ってきたのは「うるさいんだけど」のひと言。今思うと死ぬほど恐ろしい感覚だけど、私はそんな彼を「クールでクレバーな人」だなんて感じていた。
それから何回もかっちゃんにはご馳走してもらうことになるのだけど、彼は私の「ありがとう」に一度も反応してくれなかった。
モラハラレベル2:「その服二度と着ないで」事件
かっちゃんと交際をスタートして3カ月。
私は社会人の彼に釣り合う女になるため、バイト代3万をはたいて真っ白なコートを買った。袖にファーがあしらわれた女性らしいそれ。
しかし、それを着た私を見た途端、かっちゃんの口がへの字になった。そして、ひと言。
「ダサいんだけど」
本気で悲しかった。でも、攻撃的な言葉を発するかっちゃんを見たのはこれがはじめて。育ちがよくて、人当たりもいいはずの彼。私だけに素を見せてくれた瞬間だった。
「その服、俺の前では二度と着ないで?」
かっちゃんが心を許してくれている。
その喜びだけで、二度とそのコートを着ないと決めた日。
モラハラレベル3:投げられた箸とからあげ
じゃんじゃんいきます、レベル3。
かっちゃんの部屋でからあげを作った日のこと。仕事で疲れた彼を癒したくて、私は丹精込めて料理を作っていた。
きっとおいしいって喜んでくれるはず。でも、彼は予想外の反応をした。
「俺にこんなもん食わせるわけ?」
そのひと言と一緒に放り投げられた箸と皿。半ナマのからあげが紛れ込んでいたのだ。大失敗。
かっちゃん、あのときはちゃんと確認しないまま料理を出してごめんね?
モラハラレベル4:お前は遊びみたいな仕事でいいよな
出会ったばかりのころ、私は編集者になりたい夢をかっちゃんに語っていた。仕事熱心な彼は、楽しそうにその話を聞いてくれたっけ。「すごいじゃん」「いいね」って。
社会人になり、私は希望通り編集者になることができた。
仕事はそれなりに順調で、あこがれの芸能人にインタビューをする日がやってきた。これを知らせたら、当然かっちゃんも喜んでくれるはずだ。
でも、その日はちょうど虫の居所が悪かったらしい。仕事の忙しさにイライラしていた彼は、私の自慢話を煙たそうに聞いたあと言ってのけた。
「お前の仕事は遊びみたいでいいよな」
かっちゃん、さすがにそれは傷ついたよ。
モラハラレベル5:半径5メートル以内を歩いてはいけない
そんなこんなで、私たちは付き合って4年目に突入していた。
かっちゃんは相変わらず傍若無人な俺様で、私も相変わらずそんな彼を慕っていた。で、最大の事件は突然訪れる。
「飯、行こう。会社の近くのイタリアンで」
仕事が早く終わった私は、すでに部屋着に着替えていたところ。彼の誘いはうれしいけど、今から用意するのは正直面倒くさい。
そして、最悪の決断をする。私はかっちゃんの会社がある最寄り駅へ、白いTシャツにサンダルという部屋着スタイルのまま向かった。やめときゃいいのに。
かっちゃんは、駅で私を見るなり絶句した。見る見るうちに悪くなっていく機嫌。
彼が言い放った言葉もこれまた最悪だった。
「半径5メートル以内を歩くなよ? 連れだと思われたくない」
かっちゃん、さすがにひどいよ。私も悪かったけど。
言われたとおり、5メートル後ろを歩く私。その距離はどんどん開いていって、結局私は彼に黙って家へ帰った。
翌日、かっちゃんからLINEが届いていた。
「昨日はごめんなさい」
言えるじゃんか。私がはじめて聞いた彼の「ごめんなさい」。
彼が「悪い男」な理由はモラハラだからじゃない
あぁ、思い出すだけでしんどいモラハラ奮闘記。で、4年も付き合ったかっちゃんとあーりんはなんで別れたかって?
話せば長くなるから割愛するけど、まぁ察しはつくだろう。始まりの日から少しずつ歯車は狂っていたのだ。最後にかっちゃんはこう言ってた。
「俺、ありえない態度をとったあとに後悔するんだ。もしお前と結婚して、子どもが生まれたとして。今のままじゃ子どもにもそんな言動をとりそうで怖い」と。
大丈夫だよ、かっちゃん。君が35歳くらいになって、もっと大人になったら変われるよ。そのころにはモラハラにも飽きてるんじゃない? きっと、ね。
さて、冒頭に戻ろう。私は、周囲からモラハラだと心配され続けた元彼、かっちゃんのどこが好きだったのか。そんなのあげたらキリがない。
完璧主義の家で育って、家族の前じゃ弱音を吐かない努力をしていたところ。
人を遠ざける態度の裏で、実はひょうきんな一面もあるってこと。
自己表現が苦手な意地っ張りだったけど、たくさんの好きをくれたこと。
そして、モラハラな態度をとったあとに浮かべるあの寂しそうな顔。
あと、ここが一番好きだった。どんなときも約束は必ず守る人だったこと。
他人から見たら彼はただのモラハラ男だ。もちろんモラハラ自体を肯定するつもりはないし、今それに悩んでいる女性がいたらすぐに逃げて、とさえ言いたい。
でも、私が知っているかっちゃんの本質はそこじゃないというだけだ。女友だちには誹謗され続けた元彼だけど、それでいい。
私が好きだったかっちゃんのことは、私だけが知っていればいいのだ。
最後にもうひとつ。別れ話の終わりにかっちゃんが言っていたこと。
「今までありがとう。最高の記事を書いてビッグになってよ」
ちゃんと言えるじゃん、「ありがとう」。ひどいことを言われた日もあったけど、私が仕事を大事にしていること、本当はちゃんと知っていてくれたんだね。
こちらこそありがとう。かっちゃんは私の心にずっと居座る「悪い男」だ。
(文:あーりん/マイナビウーマン編集部、イラスト:矢島光)
※この記事は2019年03月04日に公開されたものです