ここは都内某所にある「恋愛研究所」。現代に生きる男女の恋愛話をかき集め、恋愛心理を日々分析・調査している。
早いもので、2月も下旬に突入。急に雪が降ったり、かと思えば春のように暖かい日差しが降り注いだりする中、寒暖差にやられて風邪を引いてしまったゆうことエリカ。
そんな2人のもとにやってきたのは、カフェ店員のななこ。三度の飯よりコーヒーが好きだというななこが「デートでカフェに行ったとき、彼氏がショートサイズのことを『スモールください』と注文したときよりも怖い」と話す出来事とは……。
あぁ~もう! 天気が情緒不安定なせいで風邪引いて最悪。
この時期特有の「三寒四温」を情緒不安定って……。エリカのボキャブラリーがおそろしい。
寒いなら寒い、暖かいなら暖かいで一貫すべきです。振れ幅が激しすぎて、所長の揺れる恋心かっての!
それから、所長のボキャブラリーのほうがおそろしいですよ。いつも「いい出会いがない」「いい男がいない」ばっかりじゃないですか。ほかに言うことないんですか?
今の発言で、独り身の全アラサー女子が傷を負ったわよ!
あ、そうそう。今日はコーヒー大好きなゲストが来ているのよ。……って、ななこさん!?
(フレンチプレスが粉々に散乱し、コーヒーが部屋中に漏れる)
急に心をグサッとえぐられる感じがして……。うっかりフレンチプレスをプレスしすぎちゃいました。トホホ。
ほら、エリカのせいでまたひとりの女子が心に傷を負ってしまったわ。
これからは不用意に私たちのような女性を侮辱しないことね。生まれたての赤子よりも繊細なんだから!
#17 彼氏の嘘を信じ続けた結果……
ということで「本当にあった怖い恋愛」第17回のゲストを紹介するわね。都内のハワイアンカフェで働くななこさんです。ななこさんは毎日コーヒーを飲むほど、コーヒーが好きなんだって。
うふふ、ありがとう。でも最近は飲むだけじゃ足りないから、コーヒーをご飯にかけたり、豆のまま食べたりもしています。
みなさんびっくりするんですけど、これが意外とおいしいんですよ。今日はハワイのコーヒー豆「コナ」を持ってきているので、そのままでどうぞ。
それでななこさん、今日はどんな怖い話を持ってきてくれたんですか?
はい。同じカフェで働く親友のY莉(25歳)の身に起きた出来事なんですけど……。うちの店には毎朝同じ時間に来て同じ席に座る、常連客のD輔(35歳)という男性がいました。ある日、Y莉がD輔の注文をまちがえたことがきっかけで2人は急接近。ほどなくして付き合うことになったんですが、D輔には不可解なことが多かったんです。
はい。お店に来るD輔は、いつもシャツにジーパンというラフな服装でパソコン作業をしていました。どんな仕事をしているのか気になったのでY莉に聞いてみたら、D輔は「フリーランスのデザイナーで年収1,000万円」と話していたみたいです。
たしかにデザイナーってMacを使う人が多いイメージはあるわね。
ですよね? でもD輔がいつもカフェで使っていたのはWindowsだったんです。
う~ん、たしかに違和感はあるけど、Windowsを使うデザイナーもいるだろうしなぁ。それだけでD輔さんがウソをついているとは思わないかも。
不可解なのはそれだけじゃないんです。晴れて恋人になったY莉が初めてD輔の家に遊びに行ったら、その物件は郊外にある駅徒歩20分・築年数30年のアパート、しかも1階の1Kだったそうなんです。年収1,000万円の人がそんな部屋に住みますか?
私の知っている年収1,000万プレイヤーたちはみんな都内にあるタワマンの高層階に住んでいますね。でも、お金持ちの中にもケチな人っていますから、年収を詐称していると決めつけるのは早いかと。
D輔さんが身につけているファッションアイテムはどうだったの?
Y莉は「スティーブ・ジョブズだって毎日タートルネックにジーンズ、スニーカーだった。お金持ちほど高級品は身につけないもの」と言って、すっかりD輔を信じているみたいでした。
不可解な点はまだまだあります。D輔は「今まで結婚したことがない」と言い張っていたんですが、Y莉がふとD輔のスマホを見たら「今月の養育費のことなんだけど」というLINEの通知が目に入ってしまったんです。
それが……D輔は「僕には年の離れた弟がいて、去年離婚したばかりの母の代わりに弟の学費や生活費を支払っている」とY莉に説明したみたいです。
家族の病気とか借金とか、詐欺師がよく使うネタよね。
極めつけは浮気疑惑です。Y莉が再びD輔の家に行ったら、寝室に女性用のスキンケアセットが置いてあったそうです。しかも1~2回すでに使用した形跡が……。
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さすがのY莉も不思議に思ったそうですが、「Y莉のために買っておいたんだ。僕も1回だけ試しに使っちゃった」と言われて、あっさり信じたみたいです。
Y莉さんが純粋だったから切り抜けられたものの、ウソにウソを塗り重ねすぎて、客観的に見ると哀れな状況ですね。
逆にすべて本当かもしれないという気になってきたわ。
彼を信じ続けたY莉ですが、交際開始から3カ月後、突然D輔と連絡がとれなくなりました。
Y莉さんがD輔さんを信じているなら、別れる必要ないのに。どうして?
多分、ウソをつき通すのが厳しくなったんじゃないかと思います。純粋なY莉は、D輔に「自分も何か力になりたい」と、弟さんとお母さんの住む場所をしつこく聞いていたみたいなので。
はい。でも……Y莉があまりにかわいそうだったので、D輔から置き手紙を預かったことにして、私がD輔のふりをして書いた手紙を渡したんです。
「弟と母のことで、君に迷惑をかけることは避けたかった。だから、突然姿を消したことを悪く思わないで。君には幸せな人生を送ってほしい」と書きました。
はい、焦っていたのでうっかり手書きしてしまいました。だから筆跡はがっつり私です。
まあ、文字を見たくらいじゃ誰が書いたかわからないか。
あと、うっかり便箋も私が普段愛用しているコーヒー豆の柄のものを使用してしまったんです。幸いY莉は便箋の柄よりも内容のほうに気をとられたようで、気づかれなかったんですけど……。
私は手紙を書いたあとに、お気に入りのコーヒー豆を3粒同封する習慣があるんですが、この手紙を書いたときもうっかりコナの豆を3粒同封しちゃったんです。「最後に僕のお気に入りのコーヒー豆を同封するね」って言葉を添えて……。
コーヒー豆が同封されていたことについて、Y莉さんの反応はどうだったの?
手紙を受け取ってから、Y莉にとってコナコーヒーは特別なコーヒーになりました。D輔を思い出すからです。そういえば、Y莉が注文をまちがえたことで2人は急接近したと話しましたよね?
Y莉は、D輔が「ココア」と言ったのを「コナ」と聞きまちがえたんです。
じゃあ、D輔がコーヒー豆を同封するわけないって絶対気づいていますよね?
気づいていながら気づかないふりをしているのか、それとも本当に気づいていないのか。真実はわかりませんが、Y莉の制服の胸ポケットにはいつも、私が書いた手紙が入っています。そしてD輔が恋しくなるとY莉はそっとコナ豆を取り出して、愛おしそうに口の中に入れるんです。まるでD輔と最後のキスを交わしているかのように……。
申し訳ないけど、ここまでくると恐怖を感じる。恋は盲目っていうけどさすがに盲目すぎる!!
たまにまちがって飲み込んじゃうこともあるみたい。だからその度にこっそり豆を追加してあげています。豆があるうちはY莉の笑顔が途絶えることはないから……ね。
D輔さんよりも、Y莉さんとななこさんのほうが狂気的ですよ!!
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所長はコーヒー豆を食べるのをやめて!!
(文:パンジー薫、イラスト:あべさん)
※登場人物の設定はすべてフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません
※この記事は2019年02月21日に公開されたものです
パンジー薫
1989年東京都足立区生まれ。25歳で大失恋を経験し、1年後に出会ったアメリカ人とジェットコースターのような恋愛期間を4年ほど経て事実婚へ。ブログ「パンジー薫の国際恋愛ブログ」では国際恋愛や国際結婚について情報を発信中。
ブログ:http://jacky.hatenablog.com/