お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

「コリドー街」に愛はあるのか。非モテ女子がナンパについて行った結果

あたそ

「『ナンパスポット・コリドー街を筆頭とする、不純な出会いに愛はあるのか?』というテーマで、実際にコリドー街に出向いた体験記事を書いてほしいんですけど」と、マイナビウーマンの編集者に言われたときの私の感想は、「そんなものある訳ないだろ!」だった。

コリドー街といえば、東京で働く女性なら、一度は耳にしたことがあるだろう。20代未婚女性の多い職場に勤めているのであれば、同僚に誘われたこともあるかもしれない。有楽町から新橋へと延びていく高架下一帯を「コリドー街」と呼び、ナンパスポットになっている、らしい。

ああ。そういえば、以前マツコ・デラックスのテレビ番組で紹介されていたっけ。それくらいの感覚しか私にはなかった。

しかし、冷静になって自己分析をしてみよう。結婚適齢期ど真ん中なのに、恋人どころかいい感じの人もいない。男友だちはたくさんいる。誰かに紹介されることも多い。でも、すぐに仲よくなってしまう。

あれ? 恋愛って、どうやってはじめたらいいんだっけ? しばらく恋愛や誰かに好意を抱くことから遠ざかると、自分の中の何かの感覚がくすんでいく。何が? それはわからない。でも、自分のなかの恋愛の匂いを嗅ぎつける部分が、どんどん鈍くなっている気がする。

うーん、でもコリドー街かあ。私は、ナンパ以前に男女関係なく知らない人に話しかけられ、そのあと一定の時間仲よくしていなければならない関係性というものにかなり抵抗がある。いつもあからさまに嫌な顔をし、すべての対応を周囲の人に丸投げにしてしまう。

いやあ、ね。わかっているのよ、私だって。こういうところが駄目なんだってことは。でもね、人の考えなんてそう簡単に変わらないものじゃあありませんか!

今回こそ、その非モテマインドを焼き払わなければならないときが来たのかもしれない。私の統計によれば、例外はあるものの知り合いや友だちが多ければ多いほど、モテに直結する。まあ、その例外には私も含まれる訳なんだけれども。

ナンパをされれば、何かが変わるかもしれない。イケメンで話がおもしろい人だったら最高だ! ということで意を決し、夜のコリドー街に繰り出すことにしたのだった。

まずは、マイナビウーマンの編集者2人と待ち合わせ。この時点で、もうダメ。負けた。だから言ったの、私。モテ服一切持ってないって!

2人は、ノースリーブのサマーニット、スカートにヒールで、明らかにモテそうな女を演出している。一方の私は、白シャツ、カーディガンにスキニー。身長が167cmもあるくせに7cmくらいのヒールを履くもんだからその分私の身長は縦に伸び、男性の平均身長よりも高くなる。

明らかに所属する世界の異なる私たちは、打ち合わせという名の雑談を終え、いざコリドー街へと出陣するのだった。

夜8時を回るナンパスポット。木曜日だからかもしれないが、人はそれほど多くはない、らしい。けれど、私の周囲を流れる空気が明らかにちがっているのがわかる。

すれちがう女性陣はオフショルダーにフレアスカート、「THE☆男性ウケ」という服装の人ばかり。スーツを身に纏った男性陣は、女性の頭のてっぺんから足先までを舐めるように見回し、どの人に声をかけるべきなのかを見定めている。

明らかに異質だ。この日のコリドー街は、暑くはないけれど、雨上がりで湿気がまとわりつくような空気だった。そこに、隠しきれないエロが注がれる。そういう異様な雰囲気の街中を私たちは歩き、そして、「あれ? 実は私っていい女なんじゃないの?」と優越感に浸れるくらいには声がかかる。

冴えないおじさん、弱そうな部下を引き連れている弱そうなおじさん、「ULTRA JAPAN」に大量にいそうなアロハシャツを着た不動産関係っぽい人、少し歩いただけでもいろいろな人に声をかけられ、「ああ。本当に出会いたかったら出会える場所なんだな、選ばなければ」と思った。この「選ばない」というのが、難しいのだけれども。

一軒目のお店に入る。このお店はフランクにナンパができるようなスポットだった。店内も薄暗く、間接照明がいたるところについている。心なしか、いい匂いがした気がする。ア~エロい。エロっすね、ここは。そこで早速声をかけてくれたのは、32歳の公務員と27歳のカメラマンだった。

そこそこ当たりやんけ! と今の私なら思うのだけれど、当時はコリドー街初心者。チャラそうな2人の男性に対して完全に敵意を丸出しにする私と、場の空気を取り持つマイナビウーマン編集者の2人がそこにはいた。ああ、やっぱり苦手だなあ、なんて思う。

「仕事何してるの?」「どういう関係なの?」などの初対面トークに華を咲かせつつ、話は「好きな異性のタイプは?」という話になる。あるある。大体聞かれますよね、この質問。強いて私の好みを言うのであれば、「初対面でいきなり好きな男性のタイプを聞いてこない人」だ!!!!! そんなこと、口が裂けても言えないのだけれど。

そして、私たちも同様に質問を返すと、カメラマンの男性は「家庭的で、専業主婦になってくれる女性」とのことだった。

人の好みにケチをつける気は毛頭ない。お金は自分が稼ぐから、女性は家事や育児を完璧にこなして、家で待っていてほしいんだってサ。さようなら、カメラマン……まあ向こうも向こうで私たちにさほど興味はないだろう。

32歳の公務員は、というとこの人が本当にいい人で、話は盛り上げてくれるし、普通に同じ大学のサークルだったら仲よくなれるようなタイプ。お互い恋に破れたときに、ビール180円くらいのお店で朝まで慰め合えるタイプ。いい人だった。でも、それほど印象に残っていない。初対面トークを終えたあとは、この公務員がマジックを披露してくれ、タネ明かしをしてもらい、4人でマジックを練習するという非常にシュールな時間となった。ありがとう、32歳の公務員。めちゃくちゃにいい奴だった。顔覚えていないけど。この場は、お前のマジックで保たれたものだったよ……幸せになってくれ、私の関係ないところで。

2組目は、上司と部下のペア。この人たちが、まあ酷いクズだった。上司のほうは顔立ちが整っており、スーツもよく似合っている。しかし、左薬指に眩しく輝く結婚指輪。フランクに「結婚しているんですか?」と聞くと、平然と「そうだよ! 今年子どもも生まれたんだよね!」という。はあ?

さらに話を聞くと、すでに愛人が4人もおり、新しい愛人を探しているんだってさ、そっか。そうですか。もう私は生理的に受けつけなかった。自分は既婚であるという余裕からなのか、開き直りながらマイナビウーマン編集者の2人を口説いている。自分のスペックが平均以上であることや、若い女性にひたすら声をかければ誰かしらが引っかかることをわかっているんだろうな。そういう、女を舐め腐った態度が明かで、相手を編集者2人に任せてトイレに逃げ込んでしまった。

私のための企画であることなんてわかっている。でも、どうしても無理だった。結局、コリドー街で相手を見つけられるのは、ああいう遊び慣れているタイプで、ひっかかる女の人も遊ばれ慣れている人なのかもしれない、と思う。

店を変え、3組目に出会うももう覚えていない。なんか冴えない3人組が来たような気がする。チェックのネルシャツを着ていたような気がする。真ん中にいた人が社長であることは覚えているけれど、それ以外の記憶は曖昧だった。大して会話も盛り上がらず、10分も経たないうちに席を立ち、店を去ることとなった。

これで、私のコリドー街デビューは終わった。はじめてコリドー街を歩いてみて、やっぱり私はこういう出会いに向いていないのだと思う。「この人いいな」「素敵だな」と思える人なんて出会えなかった。

「コリドー街に、愛はあるのか?」と聞かれたら、「ない」と答えるだろう。でも、このまま会社と家を往復するだけの毎日に、突然素敵な人が現れるとは思えない。仮に現れたとしても、私のことを気に入ってくれるとは限らないだろう。自分から何かしらのアクションを起こして、たくさんの人と出会って、山のようにいる男性の中から自分の好みに少しでも合致する人を見つけるしかないのだと思う。

日常生活を送っていると、好みじゃない人との出会いが大半だろう。恋愛対象として意識しないだけで。その出会いの入り口に「恋愛対象として見られるか?」という少しのやましい気持ちが入り込むだけで、ちょっとは恋愛というステージに進めるスピードが早くなる気がする。

コリドー街に愛はない。ないよ、あんなところに! でも、愛を見つけるためのヒントや自分の人生を少し変化させてくれるきっかけは、どこかに転がっているのかもしれない。

(あたそ)

※この記事は2018年10月27日に公開されたものです

あたそ

神奈川県出身。非モテや容姿に対する女子の悩みを爽快に代弁するツイートで人気を博し、WEB媒体を中心に現在複数のコラムを執筆。普段はTwitterを更新する傍ら会社員。好きなものはバンド、フェス参戦、音楽、旅、読書、映画。実家にはラブラドールが3匹。2018年7月に、自身初となるエッセイ『女を忘れるといいぞ』(KADOKAWA)を発売。

Twitter:https://twitter.com/ataso00
ブログ:http://ataso01.hatenablog.com/

この著者の記事一覧 

SHARE