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個々に愛情を伝えるのが、僕なりの「兄」の演じ方。福士蒼汰インタビュー

落合由希

全国公開中の映画『曇天に笑う』で福士蒼汰が演じるのは、曇(くもう)神社の若き14代目当主・曇天火。強くやさしく、どんなときも笑顔を絶やさず、周囲の人々を明るく照らすようなキャラクターだ。そんな天火を演じる彼自身もまた、端正なルックスとやさしさを兼ね備え、まさにヒーローを体現した俳優である。しかし話を聞いてみると、この役は「自分への挑戦」であったと語る。そこにいたのは、等身大の24歳男子・福士蒼汰だった。

『曇天に笑う』は、男心をくすぐられる作品

――本作はどんな作品だと感じていますか?

完成した作品を観たときは、胸が熱くなる映画だなと思いました。ヒーローとして天火がいて、そのまわりに犲(やまいぬ)という特殊部隊がいたり、風魔という忍者の一族がいたりと、男心をくすぐられる要素がたくさんちりばめられているんです。

――今作のオファーが来たときに「やりたい!」と思ったポイントはありましたか?

まずアクションがたくさんあるというのがいちばん大きかったです。あとは自分にとっての挑戦の要素がありました。天火は三兄弟の長男役。ですが、自分は末っ子で姉が2人いて、真逆な環境で育ってきているので、自分が兄になったらどうなるだろうか? というより、そもそもなれるだろうか? などと思いながら(笑)。もちろんエンターテイメント作品としてもおもしろいと思いましたし、原作を読ませていただいて、天火のキャラクター性にも惹かれました。

――なるほど。ただ、今回のアクションは福士さんが普段やっている武術とはまたちがうものだと思うんですけど、アクション全般に興味があるんですか?

はい。自分が稽古しているのはジークンドーやカリという武術なんですけど、刀や銃を扱うものも興味がありますし、アクションは見るのもやるのも好きです。

福士蒼汰演じる曇天火のアクションシーン

――いちばん見てほしいアクションシーンはありますか?

いちばんはやはりクライマックスのアクションシーンです。延べ100人と戦うシーンだったので、必死でした。でも、弟のために戦い抜く気持ちが見えるというか、天火の兄弟愛が感じられるシーンでもあるんです。ただ単純にアクションを演じているわけではなく、自分が攻撃を受けて倒れたりすることもあって……。兄として絶対に弟を助けに行くんだという気持ちが表れているシーンです。

自分にとっての挑戦でもあった「三兄弟の長男」役

――単にかっこいいだけじゃなく、心情も出ているシーンだからこそ見てもらいたいんですね。では、自分にとっての挑戦でもあったというお兄ちゃん役を演じた感想はいかがですか?

長男というのは「ひとりひとりに愛情を伝えていく」ことができる役割なのかな、と思いました。自分は「よっしゃ、ついてこい!」というキャラクターにはなれないので、ひとりひとりに愛情を持って接することが、自分なりの兄としてのあり方なのかもしれないと。

――そんなお兄ちゃん役を演じる上で心がけたことはありますか? 

自分の中に兄としての要素があるのかを考えました。自分は人に何かを教えることが好きなんですが、そういうところはある意味お兄ちゃんぽいのかなと思いました。そういう何気ない細かい部分が役作りをする上で役立つんじゃないだろうか、と考えました。

――曇天火という人物を演じる上で心がけたことや、工夫した点があれば教えてください。

いちばん考えたのは「笑顔の意味」。この作品は「笑う」ということがテーマになっているので、笑うシーンが多いんですが、今回はその笑顔の意味を考えました。「誰にどういう意味で笑顔を見せるのか」、兄弟に見せる笑顔と、昔から知っている犲たちに見せる笑顔と、信頼している居候の(金城)白子に見せる笑顔はそれぞれちがうはずだと考え、意識しながら演じました。

国のために使命を果たす、政府の特殊部隊・犲(やまいぬ)

――福士さんが見せる笑顔のちがいにも注目したいですね。逆に、天火を演じる上で難しかった部分はありましたか?

天火のように、みんなをまとめる存在になれるかどうかがいちばん課題だと思っていました。たとえば犲と風魔が戦っているところに仲裁に入るシーンでは、どう入っていけばバチバチ戦っているところを止められるだろう、とか。でも自分自身、楽観的なところもあるので、「もういいじゃん。一緒にテレビ見ようぜ」というような軽さを出しました。

――天火は「強くてやさしくて、いつも笑顔で明るくて、みんなからも慕われている」という、本当に完璧な人という感じがします。福士さんご自身が、そんな天火と似ていると感じる部分はありますか?

いちばん似ているのは、よく笑うところです。それから、自分も天火も楽観的なところはある気がします。でも、すべてにおいて楽観的というわけでもなくて。それと、自分はポーカーフェイスなところがあると言われるんですが、天火も自分の心をなかなか見せないと思うんです。そういうところは似ているかもしれません。

――主役を演じることが多い福士さんですが、今作で特に主演として心がけたことがあれば教えてください。

自分からみんなに話しかける意識を持ちました。普段、自分から話すのがヘタであんまり話しかけられないんですが、今作に関しては話題が見つからなくてもとりあえず話しかけようかなと。

――それは主演だからというより、役柄の影響が大きい?

そうです。天火のキャラクター性が大きく影響しているかもしれないです。

なんでも受け止めて、でも時には跳ね返せるのが「強い男」

――共演者から刺激を受けたことはありますか?

白子役の桐山漣くんから特に刺激を受けました。演技について監督とよく話す人だと思っていたんですが、撮影直前に監督と話し合って決めたからといって表情や動きがぎこちなくなるようなことが一切なく、すごくナチュラルに演じられるんです。頭のよさや器用さがあるからなのか。勉強になりました。

桐山漣演じる金城白子(しらす)

――それを見て、今後は自分ももっと監督と話してみようと思いましたか?

はい……(としばらく考えて)自分は……今まで話し合うというよりもどちらかというと、監督が演出でポロッとおっしゃったことをもらさず受け取ることを意識していたので……。でも、今後は積極的に質問してみてもいいのかな、とは思いました。

――本広監督からは、役についてなにか注文はありましたか?

初日に言われたのは「お父さんとしていてほしい」でした。で、白子(桐山漣)には「お母さんとしていてほしい」と。そこで「あぁ、なるほど」と感じたところはありました。それまで兄としていることを強く思っていたんですが、父親というあり方もあるんだなと。

――では、長男であると同時に「お父さんとしている」ために心がけたことはありますか?

兄弟にどう接するかという部分では、自分をあんまり見せないことにしようと思っていました。いちばん笑顔を見せていたのは兄弟になんですが、そこにはちょっと作っていたところもあるというか。隠している部分を見られたくないからこそ、笑顔でごまかすという。でもたぶん、それが空丸が腹を立てる部分だったんでしょうけど(笑)。

――そうかもしれないですね(笑)。では最後の質問です。作中に「笑っていられる強い男になれ」という印象的なセリフがありますが、福士さんにとっての「強い男」の定義を教えてください。

大事なのは中身、精神的なところだと思います。クッション性があるような、なんでも受け止められる人。そして時には、それを跳ね返す力を持った人。全部受け入れるだけだと、芯がぶれてしまうこともあると思うので、時には跳ね返して自分の意見を言える力を持った男性は強いと思います。

――そういう「強い男」にはどうやったらなれると思いますか?

いろんな人に会って、相手の話を聞くことがいちばんかもしれないです。聞き入れるというか。ただ聞いて流すんじゃなく、一度自分の中に「入れる」ことが大事なのかなと思います。

映画『曇天に笑う』

舞台は、文明開化が進む明治初期。町を守ってきた曇(くもう)神社の14代目・曇天火(福士蒼汰)は、次男の空丸(中山優馬)、三男の宙太郎(若山耀人)、そして10年前に大怪我しているところを助けた金城白子(桐山漣)と4人で暮らしていた。そんな中、琵琶湖のほとりにある大津では曇り空が続き、町の人々はオロチ(大蛇)の復活が近いのではないかと不安を抱く。天火はその復活を阻止するべく、たったひとりで背負う決意をするが……。

公開中
(C)2018映画「曇天に笑う」製作委員会 (C)唐々煙/マッグガーデン

(取材・文:落合由希、撮影:須田卓馬)

※この記事は2018年04月01日に公開されたものです

落合由希

フリーライター、エディター。京都出身。『TV Bros.』(東京ニュース通信社)の編集を経て、『TV Taro』『GOOD☆COME』『マンスリーよしもと』などさまざまな雑誌の編集・執筆を担当。現在はおもにお笑い、映画、ドラマ関連の記事を手がける。音楽、お笑い、ファッション、グルメが大好物。

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