【新連載】元彼と友人の結婚式。懐かしいあのころの思い出が蘇ってきて……
樹の方も仕事に夢中で、
恋愛どころではなくなってしまったらしい。
響子と宏太が堅実に愛を育む一方で、
あれほどわがままにおたがいを求めあった、
わたしと樹は、別れの言葉も口にせず、
季節が移ろうように、
恋人から友人へと関係を変えていった。
「それでは新婦の大学時代の友人、
池内彩乃様からのスピーチです」
司会の言葉に我にかえってハッとする。
いけない。
自分のスピーチの順番を忘れていた。
わたしは新郎新婦の座る高砂席そばの、
一段高くなったマイクの前に歩み出た。
「響子それに宏太、結婚おめでとう。
今日の他の皆さまのスピーチを聞いて、
響子が周囲の人から愛され、好かれて、
暮らしてきたこと。
そしてそれは響子自身がまわりの人を、
とても大切に暮らしてきたからだ、
ということがわかって、感動しています」