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【新連載】苦しかった彼との恋は、今ではまるで夢のよう……

20分ほど走って家に帰ると、
シャワーを浴び朝食をとって、すぐ出勤。
いつも通りラッシュに揉まれ勤務先である、
建設用重機の販売会社の最寄り駅に着くと、
ああもう、何のためにシャワーを浴びたのか、
と苦笑いしてしまうほど汗をかいていた。

そんな時「千帆さん、おはようございます」
と、後ろから呼び止められた。
振り返ると、営業所の後輩の加賀くんだった。
営業用の分厚いソフトアタッシュケースを、
高校生のように振りながら早足で来る。
とたんに、自分の汗のにおいが気になった。
「おはよう。ね、名前で呼ぶのはやめて」
「すみません、沖田さん」
「そうそう。それにしても最近早いね」
「家に1人でいても、いいことないですから」
加賀くんは屈託なくわたしの横に並び
「おれ、早く結婚したいんです」
と歌うように滑らかに、ひとり言を言う。

結婚か。一時期は何かに取り憑かれたように、
したかったけれど、
今はすっかり執着がなくなった。
いや、あの頃の大輔への思いは、
ずっと覚めない悪夢みたいに苦しかった。

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