ただ愛されたかった。その想いが最後にたどり着くのは……
バケモノと呼ばれた女が、整形手術で完璧な美貌を手に入れ、傷つけられた過去への報復とともに秘めた想いを遂げようとする姿を描く衝撃作『モンスター』。主人公の美帆(和子)を妖艶な美しさで演じたのは、3年ぶりの主演作となる高岡早紀さん。しっとりと大人の色気を漂わせる彼女が語る“真実の愛”とは!?
【プロフィール】
高岡早紀さん
1972年生まれ。神奈川県出身。雑誌モデルとして芸能活動をはじめ、1988年『真夜中のサブリナ』で歌手デビュー、翌年『cfガール』への出演で映画デビューを果たす。1994年、深作欣二監督『忠臣蔵外伝 四谷怪談』では主役のお岩を演じ、堂々たる演技が評価され、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞などを受賞。以後、映画、テレビ、舞台、CMなど、幅広い分野で活躍する。▼高岡早紀 オフィシャルサイトはこちら
Text:Hiroko Yoda
この役を演じるって言わなければよかったそう思うほど、精神的にきつかった
美しくなりたい。女性なら誰しもが抱く願望を、究極の形で突きつめた『モンスター』。原作は、『海賊とよばれた男』が2013年本屋大賞に選ばれた百田尚樹さんの同名小説。女の本質ばかりか、男の愚かさ、傲慢さまでも見据えた辛辣な物語は、女性を中心に圧倒的な支持を受け、30万部を突破するベストセラーとなりました。しかし、脚本より先に原作を読んだという高岡さんは、「主人公に対してまったく共感できる点がなかった」そう。だからこそ、「むしろおもしろいなと思いました」とも。「自分がけっして体験しえない人生がそこにある、ということが魅力的でしたね。読んでみて思ったのは、私が演じる美帆(和子)は、数奇な運命をたどった人だなぁということ。原作では、彼女が整形をしていく過程が細かく描かれていましたが、私自身は整形にそれほど興味があるわけではありませんでしたから、客観的に読み進んでいったように思います」本作では、バケモノと呼ばれた高校時代から、非の打ちどころのない美しさで男を惑わす姿までをひとりで演じ切り、愛を求め続けた女の心の叫びをリアルに体現。特に醜い姿の特殊メイクは数時間にも及ぶほどで、あまりのバケモノぶりに、高岡さん自身「演じているときは、精神的にとてもきつかった」と言います。「最初は和子が高校生だったころから撮りはじめたんですが、特殊メイクの完成図を見せてもらったときから『この役を演じるって、言わなければよかった』と思うくらい嫌でした。特殊メイクを担当する江川さんとは19歳からのお付き合いですが、思わず『これ、ひどすぎない!?』と言ってしまうくらい。あそこまでのメイクをすると、気持ちまでも暗くならざるをえなかったですね。和子の人生は、とてもつらく、屈折しているのですが、メイクをするだけで彼女の気持ちになってしまいましたね」
美醜よりも自分の内面を見てほしいだけど、実際には難しいのかもしれません
セーラー服姿から艶やかな美女まで、ひとりの女性の数奇な人生を演じたこの映画を「思った以上につらい仕事ではあった」とこぼした高岡さんでしたが、「撮影が終わってみれば、結果的にはチャレンジだったのかもしれませんが、取り組んでいる過程はそれほど意識していたわけではありません。それは、私自身がなににおいても構えてみたり、気負ってみたりという感覚がないからなんです」と、肩の力を上手に抜ける本来の彼女らしさで、するりと乗り越えた様子。そうして完成した『モンスター』を改めて振り返ると、「やはりラストシーンが印象に残っている」とのこと。「真実の愛ってなんだろう……と考えさせられました。美醜にかかわらず、自分の内面を見てほしいという気持ちは誰しも持っているものですが、実際にはなかなか難しいのかもしれません。“愛”というのは、答えのない永遠のテーマですね」そんな「ただ愛されたい」と願う主人公と関わりを持つ男性たちには、演技派俳優陣が揃いました。主人公が幼いころから恋い焦がれる英介には、ますます男の色香を漂わせる加藤雅也さん。また、未帆が整形手術費用を稼ぐために訪れる風俗店の店長には、個性派の村上淳さん。そして、整形クリニックの医師には、しぶい演技が魅力のベテラン・大杉漣さんが扮しています。「大杉漣さんとの共演が懐かしかったですね。20数年ぶりでしたから、当時にタイムスリップしたような感覚でした。とても不思議に感じたのは、大杉さんとお互いの子どものことを話したことです。それだけの年数を経てきたのだなと改めて思いました」と、撮影現場でのエピソードも明かしてくれました。
自分の人生を改めて考えるいいきっかけにしてほしい
さらに本作では、エンディング曲『君待てども ~I'm waiting for you~』で、ジャズピアニストの山下洋輔さんのピアノ演奏とともに、20年ぶりの歌声も披露。「山下洋輔さんとは、家族ぐるみのお付き合いなんですが、実は若いころから『いつかジャズを歌いなさい』と言われていました。そして、いつか彼とご一緒することが夢だったのですが、今回その夢を叶えることができました。とても緊張しましたが、温かい雰囲気に包まれたレコーディングでしたので、安心して身を任せることができたかなと思います」演技で、歌で、切なく哀しい大人のラブストーリーを演じた高岡さん。同じ女性として、マイナビウーマン読者にも、「この作品を通して、改めて自分の人生を考える、または見つめ直す、いいきっかけにしてほしいですね」と、締めくくってくださいました。
『モンスター』(配給:アークエンタテインメント)
ある田舎町で洒落たレストランを経営する絶世の美女・未帆(高岡早紀)。彼女が “モンスター”と呼ばれるほど醜かったころの名前は、和子。家族や周囲の人から化け物扱いされる悲惨な日々を送っていた和子は、高校時代のある事件がきっかけで町を追われることに……。そして都会の小さな町工場で働くうちに、整形手術に目覚める。手術費を稼ぐために昼は工場、夜は風俗で働く日々が続く。やがて莫大な金額をかけ、完璧な美人に変身を遂げ、名前を未帆と変えて別人となった。しかし、完全な美を手にした彼女の心に甦ってきたのは、ひとりの男への狂おしいまでの情念だった―。●4月27日(土)より、丸の内TOEI、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー▼『モンスター』公式サイト