「貴職」とは? 意味と正しい使い方【例文付】
貴職とは、どんな意味なのでしょうか。敬語に詳しい黒木美沙さんが解説。言い換え表現や類語との使い分けを紹介します。
皆さんは「貴職」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
社会人になってもなかなか目にしない「貴職」という言葉。そのため、正しい意味や使い方を知らないまま、突然この言葉を耳にして調べたという人も多いことでしょう。
とはいえ、ビジネスシーンにおいては重要な言葉です。この機会にしっかりと意味を理解しましょう。特に公務員や位の高い役職の人とやり取りする場合には欠かせません。
恥をかかないためにも「貴職」について詳しく押さえておきましょう。
「貴職」の意味
「貴職」を辞書で引くと、以下のように説明されています。
【貴職】
① 高い位の官職。
② 役人などを呼ぶ尊敬語
(岩波書店『広辞苑 第7版』)
「貴職」とは「あなた」の意味を表す二人称です。しかし、誰にでも使えるというわけではなく、医者や弁護士、市長など高い位の官職に対して使用するのが一般的です。位の高い公務員であれば、役職がない方に対して使用しても問題ありません。
「公務員でない民間企業同士ではほとんど使用しないため、耳馴染みがないという人も多いでしょう。
「貴職」の正しい使い方例
「貴職」の使い方を間違ってしまうと、社会人として恥をかいてしまいます。では一体どのようにして使うのでしょうか。今回は「貴職」の正しい使い方と例文をご紹介します。
基本的な共通ルールとして「貴職」は口頭では使用しません。文書上で使う言葉になります。
では、例に対する使い方をさっそく整理していきましょう。
貴職におかれましては
「貴職におかれましては」は「あなたに関しては」という意味になります。「〜におかれましては」は「〜においては」「〜に関しては」を丁寧に表現した言葉です。
ビジネス文書の挨拶文に使用されることが多く、お礼や感謝の文章を続けるとより丁寧な表現となります。
以下、例文をご紹介します。
・貴職におかれましては日頃より大変感謝しております。
・貴職におかれましてもどうぞご自愛ください。
・貴職におかれましてはご多忙と存じますが、ぜひご参加いただけますようお願い申し上げます。
ただし、普段のビジネスメールに使用するとなると堅い表現に感じられることもあるため、シーンに応じて使い分けましょう。
貴職のご活躍を、貴職の益々のご尽力を
「貴職のご活躍を〜」「貴職のご尽力を〜」など文末の結びとして定形文にもなっている表現です。
以下、例文をご紹介します。
・貴職のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
・貴職の益々のご尽力とご指導を賜りますよう、よろしくお願いいたします。
・貴職のご尽力の賜物であると感謝申し上げます。
・末筆ながら、貴職のご活躍を心よりお祈りしております。
「ご活躍」「ご尽力」以外にも、「ご健勝」「ご清祥」「ご繁栄」「ご清栄」「ご隆盛」といった言葉でも代用可能です。
こちらも下記に例文をご紹介します。
・貴職におかれましては、ご健勝にてご活躍のこととお慶び申し上げます。
・貴職益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
・貴職益々ご繁栄のこととお慶び申し上げます。
・貴職益々ご清栄のこととお慶び申し上げます
・貴職益々ご隆盛の段お慶び申し上げます。
貴職員
「貴職員」は「貴職」も含めた職場の職員や部下を示しています。「貴職」は対等の立場、もしくは目上の方にしか通用しませんが、「貴職員」では目上、対等、部下も含めて使用できます。文中に複数人いる場合は、「貴職員」を使用しましょう。
以下、例文をご紹介します。
・今回の企画に関しまして、貴職員のご協力に深く感謝申し上げます。
・貴職員のお心遣いに感謝申し上げます。
・資料内容に関しまして、貴職員のご意見を伺いたく存じます。
「貴職員」は「貴職」と違って三人称として使用されます。個人または団体どちらに向けてのメッセージかを必ず確認してください。
貴職下
「貴職下」は「貴職員」と同じような意味ですが、「貴職下」は貴職として示されている人の部下を表します。
以下、例文をご紹介します。
・今回の企画に関しまして、貴職下にご協力いただきたく存じます。
・来月のイベント開催に向けて、貴職下の派遣をお願い申し上げます。
・企画内容の件につきまして、貴職下の意見をお聞きしたく連絡いたしました。
貴職限り
「貴職限り」は「あなただけに情報を公開します」という意味を持ちます。
以下、例文をご紹介します。
・ご承知のこととは存じますが、貴職限り公開させていただきます。
・結果につきましては、貴職限りお知らせいたします。
「貴職限り」には、他の人には口外しないでほしいという思いも込められています。そのため、文書を送付された側になった場合は、必ず約束を守りましょう。
「貴職」を使う際の注意点
「貴職」はどのような状況でも使えるわけではありません。今回は「貴職」を使う際の注意点を2つご紹介します。
自分には使えない
「貴職」は「あなた」という二人称のため、自分には使えません。自分のことを表現する際は、「当職」を使用してください。
以下、当職を使った例文をご紹介します。
・当職は、◯◯大学法学部を卒業しました。
・当職は、◯◯より依頼を受けた代理人の弁護士です。
・当職の問題点は、報連相の徹底がされていないことです。
「貴職」と「当職」は対義語です。間違いのないように気を付けましょう。
団体には使わない
「貴職」は「あなたたち」という複数形ではないため、団体には使いません。複数人に対して使いたい場合は、貴職の正しい使い方で紹介した「貴職員」や、複数形を表す「貴職ら」を使用しましょう。
「貴職」の言い換え・類語表現
「貴職」のような二人称は他にもあります。
それぞれの意味が分かっていないと、いざという時に正しく使用できなくなってしまいます。似た言葉が多いため難しく感じますが、いくつか覚えていきましょう。
貴台
「貴台(きだい)」は「あなた」の尊敬語にあたります。
二人称の人代名詞とも言われ、尊敬する人に対して使用されます。あくまでも人に対してのみで、職場全体に対しては使用しないのでご注意ください。
また、「貴台」は口頭ではなく、メールや手紙などで使用されます。
以下、例文をご紹介します。
・貴台におかれましては益々ご活躍のことと存じます。
・貴台のお心遣いには、深く感謝申し上げます。
・貴台のご健闘を心よりお祈り申し上げます。
貴殿
「貴殿」は「きでん」と呼びます。「きどの」とは呼びませんのでご注意ください。
男性が敬っている男性に対して使用するのが「貴殿」です。こちらも口頭では使用しません。
以下、例文をご紹介します。
・貴殿を営業課長に命じます。
・貴殿は長年にわたり当社の発展に尽力されました。
・貴殿におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
「貴殿」は基本的に女性に対しては使用しません。女性に対して使う場合は、「貴殿」ではなく「貴女(きじょ)」と呼びます。
こちらも例文をご紹介します。
・お忙しい中申し訳ございませんが、貴女にお願い申し上げます。
・貴女にご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。
貴社
「貴社(きしゃ)」は人に対してではなく、「あなたの会社」という意味です。口頭で使用されることはなく、文書内でのみ使用します。
以下、例文をご紹介します。
・貴社のきめ細かいサービスを提供している点に感銘を受けました。
・現職で培った経験を生かし、即戦力として貴社に貢献いたします。
面接など口頭で伝える場合は、「貴社」ではなく「御社」を使用します。
以下、「御社」の例文です。
・御社の経営理念に共感したため、業務に携わりたく志望しました。
・前職の経験を生かしながら、早く御社に貢献できるように努めます。
貴様
「貴様(きさま)」は、元々は尊敬の意味が含まれていました。しかし、段々と尊敬の意味が薄まり、現在は相手をののしったり、見下したりする時に使う表現になっています。
そのため、尊敬する気持ちがある相手には「貴様」という言葉を使わないようにしましょう。
以下、例文を紹介します。
・貴様のような人間が私と対等に話せるわけがないだろう。
・貴様みたいな人間になりたいと思わない。
貴君
「貴君(きくん)」は相手に軽めの敬意を持って使う二人称。男性が、対等または目下の男性に対して少しの敬意を添えて用いる呼び方です。
以下、例文を紹介します。
・貴君のご活躍を祈っています。
・末筆ながら貴君のご多幸をお祈りしております。
「貴職」の英語表現
「貴職」は「位の高い仕事」という意味があることから、英語にすると「high class job」と表現できます。
また、「あなた」という意味も含まれるため、単純に「you」と直訳することも可能です。
「you」は、目上や目下と分けることはできません。どちらに対しても「you」で通じます。
以下、英語表現の例です。
・We pray for your success.(貴職のご成功をお祈り申し上げます)
「貴職」という言葉を知ろう
「貴職」は「あなた」の意味を表す二人称であり、位の高い官職に対して使用します。民間企業同士ではほとんど使わないため、使う際はシチュエーションに注意しましょう。
「貴職」の類語には、「貴台」「貴殿」「貴社」などの言葉があります。相手が人なのか会社なのか、男性か女性か、位が高い人かどうかによって、使用する言葉は大きく変わります。
「貴職」の正しい意味を理解し、使い分けられるといいですね。
(黒木美沙)
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