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「恋愛すると女性ホルモンが増える」が嘘な理由【医師が解説】

宋美玄(産婦人科医・医学博士)

恋愛をすると女性ホルモンが出るといううわさを聞いたことがありませんか? たしかに恋をすると肌つやが良くなったり、やせたという女性もいるようです。今回は産婦人科医・医学博士の宋美玄先生に「恋愛で女性ホルモンが出る説」について事実なのか伺ってみました。

“恋愛すると女性ホルモンの効果できれいになる”……こうした見出しの記事を雑誌やインターネット上で見かけたことのある人も多いのではないでしょうか。

じつは、これは半分正解で、半分間違いといえます。せっかくのこの機会に、女性ホルモンについての正しい理解を深めていきましょう。

 

女性ホルモンとは何? どんな役割がある?

ホルモンとは、体内でつくられていて、体の健康維持のためいろいろな機能を調節する働きをもつ物質のことをいいます。このうち、卵巣から分泌されるおもなホルモンのことを女性ホルモンと呼んでいます。

2大女性ホルモン、エストロゲンとプロゲステロン

女性ホルモンは大きく2つに分類することができます。ひとつはエストロゲン(卵胞ホルモン)と呼ばれるものです。乳房がふくらむ、ふっくらした体つきになるといった、女性の第二次性徴がおこるのは、おもにこのエストロゲンの働きです。

そのほか、LDLコレステロールの低下、骨量の維持、皮脂分泌の抑制、コラーゲン合成の促進といった作用もあり、女性の健康維持に重要な役割を果たしています。

もうひとつの女性ホルモンは、プロゲステロン(黄体ホルモン)と呼ばれています。プロゲステロンはおもに排卵後に働くホルモンで、子宮内膜を整えて妊娠に備える、基礎体温を上昇させる、体内の水分量を保つ、食欲を増す、眠くさせる、イライラさせるといった作用があります。

女性ホルモンが出る仕組みについて

ホルモンというと「脳から分泌される」というイメージを抱く人がいるかもしれません。ですが、じつはホルモンは体のあちこちで分泌されていて、女性ホルモンが分泌される場所も、脳ではありません。

女性ホルモンは卵巣から分泌される

女性ホルモンが分泌される仕組みは少し複雑です。最終的に分泌されるのは卵巣からですが、それまでには以下のような順序を経ています。

1.脳の視床下部から下垂体に指令が出る
2.下垂体から性腺刺激ホルモンが分泌される
3.性腺刺激ホルモンが卵巣に作用する
4.卵巣からエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが分泌される
5.女性ホルモンが血流にのって全身に作用する

女性ホルモンはコレステロールを原料としています。また卵巣からは、微量ではありますが男性ホルモンも分泌されています。女性の体にも男性ホルモンは分泌されているのです。

女性ホルモンの役割は「健康の維持」

女性ホルモンのうち、エストロゲンには皮脂の分泌を抑えてコラーゲン合成を促進するといった、肌をきれいにする作用もあります。髪がツヤツヤになるのも、エストロゲンの働きです。

逆にエストロゲンが適切に分泌されていないと、肌や髪がカサカサになってしまうことも。そのため、「女性ホルモン(の作用)できれいになる」というのは、あながち間違いでもないのです。

ただ、女性ホルモンは美容のために分泌されているわけではありません。女性の健康を維持するのが、おもな役割です。また、分泌量が多ければ多いほどよいというわけでもないのです。

分泌量が過剰に増えれば、それはそれで乳がんを発症しやすくなるなど、別の不調を招く原因になることもあります。適切な量が、適切なときに分泌されているのが良い状態といえます。

恋愛すると女性ホルモンが出るのは本当?

女性ホルモンはおもに生理周期に伴って分泌され、恋愛やセックスによって増減することがあったとしても、体に影響を与えるほどの量ではないでしょう。

恋愛をしたときなど、ドキドキしたときに分泌されるのは、女性ホルモンではなくPEA(フェニルエチルアミン)、ドーパミン、オキシトシンといった神経伝達物質だと考えられています。

これらの物質は脳内ホルモンと呼ばれることもありますが、同じ「ホルモン」という呼び方をしていても、女性ホルモンとはまったくの無関係です。これら脳内ホルモンには、感情をたかぶらせて脳に快感を与えたり、幸せや癒やしの感覚をもたらしたりする作用があるといわれています。

ただし、恋愛は必ずしも幸せな感情ばかりを運んでくるわけではありません。場合によってはつらく、悲しい感情やストレスを生み出すこともあるでしょう。そうなった場合は、要注意です。

ストレスは女性ホルモンの分泌に影響し、生理周期の乱れなど体に影響を与える可能性があります。恋愛など、感情の浮き沈みのある出来事では、マイナスの影響も考えておく必要があるでしょう。

恋愛しないとオス化する?

恋愛しないとヒゲが生えて、オス化するといった話を耳にした人もいるのではないでしょうか。「オス化」という言葉はとてもインパクトが強いため、そうした話を聞くと心配になる人がいるかもしれませんが、そもそも人間の女性の体が、恋愛の有無によって勝手に男性化することは考えられません。

男性ホルモンは女性にも分泌されており、場合によっては分泌量が増えることもありますが、それは恋愛しないことが原因ではなく、「多嚢疱性卵巣症候群」といった病気などの影響だと考えられます。恋愛しないからといって、オス化することはありません。女性ホルモンと恋愛や美容を結び付けて考えるのはやめましょう。

恋愛で肌つやが良くなったりやせたりするのはなぜ?

恋愛をすると肌につやが出たり、人によっては体形が変化したりすることもあります。さまざまな原因が考えられますが、おもに以下のようなことが影響しているかもしれません。

(1)心理的な影響

恋愛をすると、相手に良く思われたいという心理的な影響が働くことにより、身なりに気をつかうようになったり、ボディメイクしたりといった、ポジティブな行動をとるようになることがあります。

これが結果的に、見た目にも良い影響を与えている可能性があります。「好きな相手に会いたい」という目的が生じることで、生活に張り合いが出るといったことなども関係してくるでしょう。

(2)脳内ホルモンの影響

そのほかには、さきほど紹介した脳内ホルモンの影響もあるかもしれません。恋愛すると分泌されるといわれるドーパミンには、血流を良くする作用があるとされており、その影響で体のすみずみまで栄養や酸素が行き渡り、肌や髪の色つやが良くなることが考えられます。

同様に分泌されるとされるPEAという脳内ホルモンには、食欲を抑制する効果があるといわれています。恋愛したら相手のことで胸がいっぱいになって、ついつい摂りすぎていた食事量も控えめになり、いつしか適正な体重に……なんてことがあれば、それはPEAの作用かもしれません。

「恋愛をするときれいになる」というのは、これらのことが影響していると考えられます。

なぜ恋愛をすると女性ホルモンが出ると思われているのか

このように、恋愛をするときれいになるというのは女性ホルモンではなく、おもに心理的なことや脳内ホルモンの影響であると考えられます。つまり「恋愛をすると女性ホルモンが出て、きれいになる」というのは、基本的には誤解です。

どんなきっかけで「恋愛をすると女性ホルモンが分泌される」といわれるようになったのか、詳しいことは定かではないのですが、恋愛によって女性ホルモンの分泌量が変わることはありません。

また、女性ホルモンは、女性の美容にかかわってはいるものの、それ以前に女性が健康でいられるための大切な分泌物です。その点を勘違いせず、正しく理解することが大切です。

恋愛をしながら、健やかな美しさを手に入れて

前向きな恋愛をしていると、自分の見た目を意識するようになったり、精神的に充足したりすることなどから、きれいになっていくのは間違いではないでしょう。しかし、それは「女性ホルモン」とは無関係です。そもそも恋愛は、きれいになるために無理やりするものというよりも、魅力的な相手に出会ったときに、自然と始まっていくものではないでしょうか。

恋愛をするためには、心身ともに健康であることが重要です。まずは心と体を整えて、健やかな自分をめざしましょう。

(監修:宋美玄、文・構成:山本尚恵)

※画像はイメージです

 

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